シャルル:弟
ベッドに横になっていたところ、思い出したように顔をあげて。
シャルル:兄
ベッドを背もたれにFPS。
勝利画面から目を離してヘッドホンを取る。
シャルル:弟
「今度さ、なんか演劇のエキストラ?みたいなやつのバイトあって。」
シャルル:兄
「……本当に何でも屋さんですね、アナタ。」
シャルル:弟
「……まいいや。なんか、参考にいくつか……映画とかさ、見とけって渡されたんだけど。」
シャルル:弟
「えーじゃねーよ。お前がゲームしてっと見れねーんだよ。」
シャルル:兄
「わかりました。それなら構いませんけれど。」
シャルル:兄
ソフトを終了してディスクを取り出す。
シャルル:兄
「2人で見るのもなんですし、アレクシアも誘いますか。」
シャルル:兄
「これ、ソファになるんですよ。知ってました?」
アレクシア
ちょくちょく、ゲームをしてるのは知ってるが。
シャルル:兄
「シャルルが、仕事の参考にいくつか見るとかで……」
アレクシア
「あいつ、今度はなんのバイトなんだ?」
シャルル:兄
「演劇のエキストラって言ってましたね」
シャルル:兄
「じゃ、お茶入れてきますので先に部屋へどうぞ」
アレクシア
兄弟の部屋。
……兄に部屋を充ててから、入ったことはなかった。
シャルル:弟
身体を起こし、ディスクをセットしている。
シャルル:弟
ベッドは布団が退かされて広めのソファに。
テーブルをはさんでそこそこ大きなディスプレイ。
アレクシア
お邪魔します、と言いかけて、僅かに首を傾げる。
*
ベランダに面した窓の遮光カーテンは束ねられていて、薄いレース越しに雨が降っているのが見える。
*
物は多くはなくソファベッドの脇にはシュラフと椅子にできそうなそこそこ大きめのコンテナ。
アレクシア
知らない間に、やはり、『自分の部屋』ではなくなっているのを感じる。
もともと、大したものもなかったけれど。
シャルル:弟
「えっと、ちょっと古いやつで……『ローマのおやすみ』」
アレクシア
「いや、あらすじを聞きかじったくらいだな」
シャルル:弟
「そか。俺も見たことないんだよな。」
アレクシア
「あんまり有名だと、こう……逆に見る機会、なくないか」
シャルル:弟
「古いやつだしな。最新のなら見るけど。」
シャルル:兄
そうして話している間に、トレイに紅茶のポットとカップ、ジャムクッキーをのせて。
シャルル:兄
余裕がないわけではないが、3人で腰かければ、距離は近い。
アレクシア
勧められると断れない。
嫌がるのは何か違う。というか、嫌というわけではないのだが。
シャルル:兄
そういえば、こうして。
隣に腰かけるという事は……なかった気がする。
アレクシア
二人はいつも、テーブルを挟んで向かい側にいた。
アレクシア
隣にいると、なんだか、落ち着かないような気もする。
アレクシア
理由は、慣れないから、だけではないけれども。
シャルル:兄
「モノクロなのが惜しいですね。これでもいいドレスであることがわかりますのに。」
シャルル:弟
「何歳くらいなんだろうな……全然わかんね」
アレクシア
「残されたほうのことを考えると胃が痛くなるな……」
シャルル:弟
ちょっと近いなって今更思ってとか言えない。
シャルル:兄
「ふふ……こうしていると、可愛いお嬢さんですね。」
シャルル:兄
「いえ。可愛いお嬢さんですねと思っただけですよ。」
アレクシア
「飲み会のあととか……いるよな、ああいう子」
シャルル:弟
「アレクシアは、ああなっちゃないよな……?」
アレクシア
「ないよ。ああいうのを世話したことはあるけど」
シャルル:弟
「いや、ないと思うけどほら……学校ってさ」
アレクシア
「場によるな……。工学部は女子が少ないから」
シャルル:弟
(確かにアレクシアの学校女子少ないよな……)
アレクシア
「ごまかし方が寝てた学生と変わらんな……」
シャルル:兄
「おや、拾われた時の事思い出しました?」
アレクシア
「まああそこまで前後不覚じゃなかったろ」
シャルル:兄
「おや、アレクシアも負けていませんよ」
アレクシア
「結局この間のドレスも最終的にはお前が選んだのに……?」
アレクシア
「隠しカメラってライターサイズになるのか……」
シャルル:弟
「あ、あれは知ってる。昨日行きたいって言ってたとこだろ。」
シャルル:兄
「おや、そんな嘘つきに見えますか?」
シャルル:兄
「手、なくなっちゃうかもしれませんね。」
アレクシア
「なんでもできないとだめなんだろうな……」
シャルル:弟
「…………やっぱ。何も自由にできないのって、辛いよな」
シャルル:兄
「アレクシアは、あまり写真など撮られませんね」
シャルル:兄
「一枚くらいはあってもいいでしょう?」
シャルル:兄
「悪だくみはうまくいかないものですね」
シャルル:兄
「恋というのはままならないものですし」
シャルル:兄
「何を優先するかは人それぞれですね……背負っているものの大きさは違いますし。」
シャルル:兄
「記者の方は身一つでいいのでしょうけれど。」
アレクシア
「誰だってそれのために全部賭けられるってわけじゃない」
シャルル:弟
終わってしまうと、近い距離を意識してしまう。
シャルル:弟
「どうしたら……幸せになれたのかな」
アレクシア
「……あの日が、『思い出』になったときに」
アレクシア
「幸せだったなって、思うんじゃないのか」
シャルル:兄
「……まあ、幸せなんて人それぞれですから。」
シャルル:兄
「アナタは、あれを幸せになれないと思うんですか?」
シャルル:弟
「だって、もう二度と会えないようなもんだし」
シャルル:兄
「キスをしてしまった時点で、彼はもう……」
シャルル:兄
「女性の視点からみると違いますか?」
アレクシア
「……忘れられない思い出の日があったら、それで頑張っていけるのかもしれない」
シャルル:兄
「きっともう、あんな日は、訪れないのだと」
シャルル:兄
「後悔と絶望の日々を送るかもしれませんよ」
アレクシア
「……でも、戻らなかったら、……戻らなかったことを、後悔したかもしれない」
シャルル:兄
「………あまりに、大きな選択ですからね。」
シャルル:兄
「より、リスクと損失のない方を選ぶのは賢明でしたね。」
シャルル:兄
「もし、彼女が姫でなく良家の娘だったら……あるいは、煙草を吸っていなかったら。」
シャルル:兄
「選択は、変わっていたのかもしれませんが。」
アレクシア
両手に触れる感触に、どこを見ていいのか迷う。
アレクシア
今は再生の終わった画面を、見るともなく見て。
アレクシア
その瞬間には、何気なく過ぎてしまう選択肢で。
アレクシア
そして当たり前のように、『選ぶ』ことでも。
シャルル:弟
「…………困らせて、ごめんな。でも」
シャルル:兄
「兄弟そろってアナタの事を好きになってしまいましたので」
アレクシア
触れた手が、ほんのかすかに震えている。
そして、それに気づいて、きゅっと握り込む。
シャルル:兄
「……まったく、隠し事が下手なんですから。この弟は。」
シャルル:兄
「ほら……アレクシアが困ってるでしょう?」
アレクシア
「わたしの、……自分のせいだと、思う」
アレクシア
「好きだって……言って、もらって。それで本当に困るなら、すっぱり断ればよかったんだ」
シャルル:弟
つまりは、そうじゃなかったという事だ
アレクシア
「わから、なくて。……誰かを、そういう意味で好きになったことなんてなかったし」
アレクシア
「…………困ったのは、……困ってるのは、わたしが……悪い」
アレクシア
思わず身体を引いた、そこにはしかし弟のほうがいて。
シャルル:弟
距離が、近くなって。目の前で。
意識してしまう。
アレクシア
弟を見上げる目が、思い切り動揺している。
シャルル:弟
「俺、アイツみたいに……できないから。」
シャルル:弟
「何していいか、何しちゃだめか……何が嫌で、何が嬉しいのか……」
シャルル:弟
「わかんないから、聞くしかなくて……」
シャルル:兄
「知ってました、アレクシア……これ、ベッドなんですよ?」
アレクシア
「……わたしは、……お前たちのこと、選べ、ない……」
アレクシア
「……二人のこと、……すき、だけど。好きだから。……だから、」
アレクシア
「……どっちのことも、選べ、ない……」
アレクシア
連ねれば連ねるほど、消え入りそうになっていく。
シャルル:弟
「…………好きだって、言ってくれたから。」
アレクシア
「わたしは、……『たった一人』には、できない」
シャルル:兄
「それはまあ、一番だったら嬉しいですよ。」
シャルル:兄
「ひとりじゃないから、好きな気持ち半分……ってわけではないでしょう?」
アレクシア
「そ、れは……そう、かも、しれないけど……」
シャルル:兄
「アナタに無理を強いた結果のただひとりなんて、ないのと同じです。何より……」
シャルル:兄
「彼にだけ言われていたら断っていたんじゃないですか?」
シャルル:弟
「アレクシアはアイツの方が好きだと思ってたし……」
シャルル:弟
「だから、なんていうか……よくわかんないな……」
シャルル:弟
「『邪魔者』になる前に、言わなくちゃと思ってた。」
シャルル:弟
「それで、駄目なら……それは……仕方ないことだし。」
シャルル:弟
「…………俺、アレクシアの事好きだから。困らせたいわけじゃなくて……」
シャルル:弟
「ずっと一緒にいたいなって、思って……」
シャルル:弟
「その『いつか』が来るのが怖かった」
シャルル:兄
「アナタが、それを望んでくれるなら。私は……いえ、私たちは。」
アレクシア
不安を宿した視線が、二人の間を行き来する。
シャルル:弟
「ま、こいつは最低だとは思うけどな。嫌になったらいつでも追い出せばいいだけだし……」
シャルル:兄
「優しい兄に向ってひどい言いようですね。」
シャルル:弟
「優しい兄はそういうこといわねーんだよ」
*
『いいに決まってるでしょう?』
『いいに決まってるだろ?』
アレクシア
握り込まれていた手のひらが、おずおずとゆるむ。
シャルル:兄
「いいんじゃないですか?少しくらい我が儘な方が可愛いですよ」
アレクシア
「馬鹿。……付き合いきれなくなったら、……ちゃんと言ってくれ」
アレクシア
「わがままを言うぶん……迷惑を、かけたく、ないから」
シャルル:兄
「ところで、これベッドなんですが……」
シャルル:兄
「そう言えば、アナタ……したことな……」
*
みっつでようやく完成する形を、誰が否定できるだろうか。