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下ごしらえされた具材が煮込み時間ごとに鍋に投入され
シャルル:兄
鍋の底が焦げ付かないようたまに転がして
シャルル:兄
「あとは煮込むだけですから、ゆっくりお待ちくださいね」
アレクシア
頷いて。けれど、いつもなら本へと戻っていく視線が、なんとなくそこに留まる。
アレクシア
「……気を遣ってくれてるよな。いつも」
シャルル:兄
「気を遣わなくなったら、どうなるとお考えですか」
アレクシア
「……わからん。……わからないくらい、ずっとそうだったということしか」
シャルル:兄
「何をすれば、気を使っていないと……思われるのかなと」
アレクシア
「別に、気を遣われるのが嫌というわけでもないんだが……」
アレクシア
「そういうのは、努力以外で身につかないと」
アレクシア
「お前、そういうのが辛くはないかと、思って」
シャルル:兄
向かい側から手を伸ばして、アレクシアの手に触れる。
アレクシア
「見せないだけなのか、そうじゃないのか」
シャルル:兄
立ち上がって、そのまま乗り出すように上体を倒し
シャルル:兄
「そういったものを叶えたいと思うのは」
アレクシア
「……わたしは、そういうのは……あんまり上手くないな」
アレクシア
「お前たちがいてくれて、……それだけで十分だと思ってる」
アレクシア
「わたしは、それだけで十分、だけでもわがままを言ってると思ってるが」
アレクシア
「普通、好きな相手を二人は持たないと思うし」
アレクシア
「ふたつ許してもらうことなんてないと思うぞ」
シャルル:兄
身体を戻してテーブルを回り込み、アレクシアの後ろにまわる。
シャルル:兄
両肩に手を添えて腰を曲げ、覗き込むように
アレクシア
すぐ隣にある頬が笑っているのに、不思議な気持ちになる。
アレクシア
確かに、ずっと笑っているのに。
最近は、前とは少し、変わった気がする。
シャルル:兄
「アナタが笑ってくだされば、それだけで……嬉しい」
アレクシア
わずかにだけ、固まる。それから、小さく呻く。
アレクシア
「お前のかわいいの基準はどうなってるんだ」
アレクシア
顔が赤いのくらい、自分でもわかっている。
シャルル:兄
横にまわって、アレクシアの顎に手を添え
シャルル:兄
「何をどれだけ砕いても惜しくはない……」
シャルル:兄
「触れることを、許してもらえるのは……傍にいられるのは」
アレクシア
かすかに震えて。頬に添えられた手に、触れる。
シャルル:兄
激しくはない。必死でもない。いたわるような。
アレクシア
その感触に、それでも息のできないような気持ちになりながら。
アレクシア
いつだって少し怖くて、いつだって少し不安で。
シャルル:兄
「……さて、ちょっと鍋を見てきますね」
シャルル:兄
そこから離れて、コンロの方へ。
鍋の中を見て、少し揺らし、火を止めて。
シャルル:兄
「…………夕食の準備はこんなものですね」
シャルル:兄
一歩先に踏み出すのにも不安が付きまとう。
シャルル:兄
それでも進めるのは、信じられるから。
アレクシア
ちらりと時計を見る。もうすぐ、弟のほうも帰ってくる気がする。
アレクシア
「……どうしましょうか、というか……」
シャルル:兄
「サブスクリプションとか契約しましょうか。アレクシアは」
シャルル:兄
「何を見ても、楽しいのでしょうけれど」