ある昼下がり。

キッチンに立っているのは、いつもの男ではなくもう一人の方。

冷蔵庫を開けて中身をあらためている。
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
「んー……」
シャルル:弟
特にめぼしいものは見当たらず、扉を閉める。
シャルル:弟
「なんか作るか……?」
アレクシア
ふと、軽い音でアレクシアの部屋のドアが開く。
アレクシア
マグカップを片手に台所まで。
シャルル:弟
「ん……」
シャルル:弟
振り向けば、その姿を見て
アレクシア
「どうした?」
シャルル:弟
「あー……いや」
シャルル:弟
「腹減ったから、なんかあるかなってな」
アレクシア
「その様子じゃ空振ったのか」
シャルル:弟
「まーな」
シャルル:弟
戸棚の方を見て。
シャルル:弟
「次の狙いはあそこだ」
アレクシア
「ふむ」
アレクシア
最近というかもうしばらく、台所にはあまり手を出していない。
アレクシア
あれこれも兄のほうが管理しているし。
シャルル:弟
戸棚を開けて何かないかとみてみる。
シャルル:弟
綺麗に種類ごとに並んだ調味料、乾麺、缶詰。
シャルル:弟
「……スパゲッティがあるな」
アレクシア
結構ちゃんと食べる気だな……。
シャルル:弟
だってなんかカップスープとかおいてねーんだもん。
シャルル:弟
瓶に入ったスパゲッティと小麦粉。
シャルル:弟
取り出して、テーブルに置き
シャルル:弟
「アレクシアも食うか?」
アレクシア
「……いや、流石にな。今パスタ食べたら夕飯食べられないぞ、わたしは」
シャルル:弟
「そっか」
シャルル:弟
湯を沸かし始める。
シャルル:弟
「アレクシアって、一人で暮らしてた時は料理とか結構してたのか?」
アレクシア
マグカップを片手に台所へ。流しでスポンジを手に取りながら。
アレクシア
「まあな。普通に……大したものを作るわけじゃなかったが」
アレクシア
「いろいろ……」
アレクシア
「……一人暮らしも4年ちょっとしてたからな」
シャルル:弟
「へぇ……」
シャルル:弟
スマートフォンでゆで時間を設定して半分に折ったパスタを適当に鍋に入れる。
アレクシア
「お前こそ、うちに来る前はどうしてたんだ?」
アレクシア
洗ったマグカップを水切りに置く。
シャルル:弟
「コンビニとか……」
シャルル:弟
「しばらく家、なかったからさ。孤児院に居たときとか、出てすぐん時はなんか作ったりしてたけど」
アレクシア
「そうか……」
アレクシア
「まあ、会社に住んでたりしたら、そうなるか」
シャルル:弟
「一応コンロとかあったけど、さすがに料理はなー」
シャルル:弟
冷蔵庫から牛乳とバターを引っ張り出してくる。
シャルル:弟
「ベーコン……ないからいっか」
シャルル:弟
カルボナーラ的なものを作る気らしい
アレクシア
「……牛乳とバターだったら卵がいるんじゃないのか」
シャルル:弟
「ん……後からいれる」
シャルル:弟
「ま、食えればいいんだ」
アレクシア
「ざっくりだな」
シャルル:弟
「おう」
シャルル:弟
牛乳とバターと小麦粉、コンソメの塊なんかをフライパンで煮てなんかそれっぽいソースを作りつつ
シャルル:弟
ゆであがったパスタをあげたりして
シャルル:弟
混ぜて、黒コショウとか卵をあわせ
シャルル:弟
深めの皿にのせてテーブルへ。
アレクシア
なんとなく隣でそれを見ていたので、グラスに麦茶を注いで持っていってやる。自分の分とふたつ。
アレクシア
向かい側に座る。
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
パスタを適当にフォークで食べる。
短めなので巻き付きにくい。
シャルル:弟
「ありがと」
アレクシア
「どういたしまして」
アレクシア
軽く頬杖をついて、淡く笑う。
シャルル:弟
「ん……」
シャルル:弟
向かい側に座っていると、普通に視界に入ってくる。
シャルル:弟
静かな部屋に、互いの声だけがあって。
恋人ってこんな感じなのかな、と……
シャルル:弟
思ってちょっとだけ手が止まる。
アレクシア
「どうした?」
シャルル:弟
「いや、えっと……」
シャルル:弟
「…………」
アレクシア
首を傾げる。
シャルル:弟
「なんか……」
シャルル:弟
「幸せだなって、思った」
アレクシア
ひとつ、瞬いてから。
アレクシア
「……はは」
シャルル:弟
「…………アレクシアがそこにいるだけで、こう……違うっていうか」
シャルル:弟
「やっぱ、俺。アレクシアの事が好きなんだなって……」
アレクシア
「お前、……」
アレクシア
「結構しれっと恥ずかしいことを言うな」
シャルル:弟
「う……」
シャルル:弟
「思ったんだからしょうがないだろ」
アレクシア
「別に……悪いわけじゃあ、ないが」
アレクシア
ほんのりと苦笑する。
アレクシア
「なんというか」
アレクシア
「やっぱりちょっと、恥ずかしい」
シャルル:弟
「はは……」
シャルル:弟
空になった皿を流しにつける。
シャルル:弟
背を向けたまま、ちょっとだけ間を開けて。
シャルル:弟
「……あの、さ。」
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
「俺、ちゃんと……ちゃんと、傍に」
シャルル:弟
「いられてるかな」
アレクシア
「……どうして、そんなことを聞く」
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
「なんか……ほら」
シャルル:弟
「アイツの方が、こう、いろいろ……」
アレクシア
「…………」
アレクシア
「お前は、ずっとそばにいてくれてるよ」
シャルル:弟
「…………」
アレクシア
「わたしはたぶん、……」
アレクシア
「それに、すごく甘えている」
シャルル:弟
「…………じゃあ、もしかして」
シャルル:弟
「足りないって感じてるの、俺の方なのかな」
アレクシア
「……足りない?」
シャルル:弟
テーブルの向かい側。
立ったまま手をついて、じっと見る。
アレクシア
「ん……」
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
この、テーブル
シャルル:弟
一緒にいて、それで、でも。
シャルル:弟
何かが横たわっている、そんな。
シャルル:弟
十分なはずなのに、何か足りない。
シャルル:弟
テーブルを回り込んでみる。
アレクシア
視線がそれを追いかける。
シャルル:弟
普段より、近く。踏み込むように。隣に膝をついて。
シャルル:弟
見上げる。
アレクシア
「……どうした」
アレクシア
少しだけ困ったように微笑う。
アレクシア
低いところにある瞳を、柔らかく見下ろす。
シャルル:弟
「…………うん」
シャルル:弟
立ち上がりながら、その手をとって。
シャルル:弟
なんとなく、以前より緊張しない。
シャルル:弟
手を引く。
アレクシア
引かれるまま、ふわりと立ち上がる。今度は見上げて。
アレクシア
「……何?」
シャルル:弟
そのまま、放した手で抱き寄せる。
アレクシア
「わ」
アレクシア
一瞬驚いて、
アレクシア
「…………、」
アレクシア
ゆっくりと、背に手を回す。
シャルル:弟
頭に頬を寄せ、背を撫でるようにして腕に力を籠め。
シャルル:弟
全身で、その存在を確かめる。
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
「アレクシア」
アレクシア
強く抱きしめられながら、小さく、ん、と応える。
シャルル:弟
「好きだ」
アレクシア
「……、……うん」
アレクシア
「……好きだよ」
アレクシア
「わたしも」
アレクシア
「お前のことが好きだ」
シャルル:弟
頬が熱くなるのを感じる。
シャルル:弟
右手で首筋に触れ、反対側のそこに口付ける。
アレクシア
わずかにだけ、強ばる。
アレクシア
背に回った手が、思わず、というようにシャツを掴む。
シャルル:弟
左手で背から腰までを撫で、肩口にもう一度。
アレクシア
「う、……」
シャルル:弟
鼓動が早い。
アレクシア
かすかにだけ色づいていく無防備な首筋。
シャルル:弟
「…………ん」
シャルル:弟
ずるいことをしていると思う。
シャルル:弟
それでも、止めようとしない
シャルル:弟
左手を、そっと上着の内側に差し入れて。
シャルル:弟
指先で、触れる。
アレクシア
「……っ、」
アレクシア
肩が跳ねる。
シャルル:弟
正解なんてわからない。
シャルル:弟
だから、少しずつ。
シャルル:弟
耳に口付け、右手で肩を撫でる。
アレクシア
触れる指に、くちびるに、ひとつひとつ小さく震える。
アレクシア
額が強く押し付けられる。
シャルル:弟
「…………アレクシア」
シャルル:弟
左手がするりと撫で上げれば、背中側の肌が外気に触れるだろう。
アレクシア
「……っ、な、に」
シャルル:弟
指先が下着に触れれば、戸惑うように手を止めて。
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
両手で、抱きしめる。
シャルル:弟
「…………嫌って言わないと、やめないぞ」
アレクシア
「…………ぅ、」
アレクシア
細い呻き。
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
それを、否定とはとらず。
シャルル:弟
背中側で下着に手をかけ、両手で留め具を外す。
シャルル:弟
「…………アレクシア?」
アレクシア
「……シャ、ルル」
アレクシア
迷いと羞恥とに、声がわずかに震えている。
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
そのまま、金の髪に頬を寄せ。
シャルル:弟
腰に手を添えて
シャルル:弟
「嫌?」
アレクシア
「……じゃ、ない、けど」
アレクシア
「けど……」
シャルル:弟
「ん……」
シャルル:弟
少し頭を放して。
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
見下ろす。
アレクシア
「…………」
アレクシア
見上げる顔は耳まで赤い。
シャルル:弟
「じゃあ、その……」
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
「あー……」
シャルル:弟
「…………突然すぎた、よな」
シャルル:弟
「ごめん」
アレクシア
「……や、……う、うん」
アレクシア
「ごめん……」
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
手を放して。
シャルル:弟
「あ、あの……」
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
「こんど、ちゃんと……」
シャルル:弟
「…………ちゃんと、えっと……」
シャルル:弟
こういうときって何て言えばいいかわからない
シャルル:弟
何を言ってもおかしい気がする。
シャルル:弟
うーん、と熱くなった顔に手をあてて
シャルル:弟
「部屋」
シャルル:弟
「いっても……いいか?」
アレクシア
「…………、」
アレクシア
「……ぅ、……ん」
アレクシア
目を見ずに。
アレクシア
掠れるような首肯。
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
「うん」
シャルル:弟
緊張とは違う。妙な感覚。
シャルル:弟
そうして、ふと。気付いたように。
シャルル:弟
「あっ、俺……えっと。」
シャルル:弟
「部屋片づけてくる」
シャルル:弟
背を向ける。
シャルル:弟
特に何の脈絡もなく。
シャルル:弟
指先に、感覚が残っていて。
アレクシア
こちらも、何か曖昧な声。
アレクシア
背中に触れた感触と、そして、外れた留め金が。
アレクシア
「わ、たしも、……部屋、もどるな」
シャルル:弟
「ん……」
アレクシア
「あの」
アレクシア
視線があちらこちらへ逃げたり戻ったり。
アレクシア
「……いや、なんじゃ、ない、から」
シャルル:弟
振り返る。
アレクシア
「……だから、……」
アレクシア
言うほどに俯きながら。
アレクシア
「……キスしてほしいって言ったら、困る?」
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
そのまま、離れようとした足を再びそちらへと踏み出して。
シャルル:弟
両手で、頬を包むように引き寄せて。
シャルル:弟
唇を重ねる。
シャルル:弟
「…………」
アレクシア
「……、」
シャルル:弟
ほんの数秒、触れるだけのキス。
シャルル:弟
「…………」
アレクシア
「…………」
アレクシア
「…………、」
アレクシア
少しの間、見つめて。
アレクシア
そうして、すこしだけ微笑う。
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
同じように笑って
シャルル:弟
髪を梳くように、撫でると。
シャルル:弟
「愛してる」
アレクシア
「……うん」
シャルル:弟
「…………じゃ、あとで」
シャルル:弟
あまり、見つめているとまた
シャルル:弟
足りなくなってしまいそうで
シャルル:弟
部屋に向かう。
軽く、唇に触れて。
シャルル:弟
何かを堪えるように数秒息を止めたりして。
アレクシア
その背を見送る。
アレクシア
それから、俯いて、胸元を押さえて、息をする。
アレクシア
兄弟の部屋の扉が閉まり。
アレクシア
もうひとつ、大きく息をついて。
アレクシア
それから、自分も部屋に戻る。
アレクシア
扉を閉めて。
アレクシア
背中の留め金を、そっと留め直す。

少しずつ、触れては離れて。そうして確かめあう何か。

好きだということ。愛しているということ。

けれど、大切だから、今はまだ、もう少し。

もう少しの間。