*
キッチンに立っているのは、いつもの男ではなくもう一人の方。
シャルル:弟
特にめぼしいものは見当たらず、扉を閉める。
アレクシア
ふと、軽い音でアレクシアの部屋のドアが開く。
シャルル:弟
「腹減ったから、なんかあるかなってな」
アレクシア
最近というかもうしばらく、台所にはあまり手を出していない。
シャルル:弟
綺麗に種類ごとに並んだ調味料、乾麺、缶詰。
シャルル:弟
だってなんかカップスープとかおいてねーんだもん。
アレクシア
「……いや、流石にな。今パスタ食べたら夕飯食べられないぞ、わたしは」
シャルル:弟
「アレクシアって、一人で暮らしてた時は料理とか結構してたのか?」
アレクシア
マグカップを片手に台所へ。流しでスポンジを手に取りながら。
アレクシア
「まあな。普通に……大したものを作るわけじゃなかったが」
アレクシア
「……一人暮らしも4年ちょっとしてたからな」
シャルル:弟
スマートフォンでゆで時間を設定して半分に折ったパスタを適当に鍋に入れる。
アレクシア
「お前こそ、うちに来る前はどうしてたんだ?」
シャルル:弟
「しばらく家、なかったからさ。孤児院に居たときとか、出てすぐん時はなんか作ったりしてたけど」
アレクシア
「まあ、会社に住んでたりしたら、そうなるか」
シャルル:弟
「一応コンロとかあったけど、さすがに料理はなー」
シャルル:弟
冷蔵庫から牛乳とバターを引っ張り出してくる。
アレクシア
「……牛乳とバターだったら卵がいるんじゃないのか」
シャルル:弟
牛乳とバターと小麦粉、コンソメの塊なんかをフライパンで煮てなんかそれっぽいソースを作りつつ
アレクシア
なんとなく隣でそれを見ていたので、グラスに麦茶を注いで持っていってやる。自分の分とふたつ。
シャルル:弟
パスタを適当にフォークで食べる。
短めなので巻き付きにくい。
シャルル:弟
向かい側に座っていると、普通に視界に入ってくる。
シャルル:弟
静かな部屋に、互いの声だけがあって。
恋人ってこんな感じなのかな、と……
シャルル:弟
「…………アレクシアがそこにいるだけで、こう……違うっていうか」
シャルル:弟
「やっぱ、俺。アレクシアの事が好きなんだなって……」
アレクシア
「結構しれっと恥ずかしいことを言うな」
シャルル:弟
背を向けたまま、ちょっとだけ間を開けて。
シャルル:弟
「アイツの方が、こう、いろいろ……」
アレクシア
「お前は、ずっとそばにいてくれてるよ」
シャルル:弟
「足りないって感じてるの、俺の方なのかな」
シャルル:弟
テーブルの向かい側。
立ったまま手をついて、じっと見る。
シャルル:弟
普段より、近く。踏み込むように。隣に膝をついて。
アレクシア
低いところにある瞳を、柔らかく見下ろす。
アレクシア
引かれるまま、ふわりと立ち上がる。今度は見上げて。
シャルル:弟
頭に頬を寄せ、背を撫でるようにして腕に力を籠め。
アレクシア
強く抱きしめられながら、小さく、ん、と応える。
シャルル:弟
右手で首筋に触れ、反対側のそこに口付ける。
アレクシア
背に回った手が、思わず、というようにシャツを掴む。
シャルル:弟
左手で背から腰までを撫で、肩口にもう一度。
アレクシア
かすかにだけ色づいていく無防備な首筋。
シャルル:弟
左手を、そっと上着の内側に差し入れて。
アレクシア
触れる指に、くちびるに、ひとつひとつ小さく震える。
シャルル:弟
左手がするりと撫で上げれば、背中側の肌が外気に触れるだろう。
シャルル:弟
指先が下着に触れれば、戸惑うように手を止めて。
シャルル:弟
「…………嫌って言わないと、やめないぞ」
シャルル:弟
背中側で下着に手をかけ、両手で留め具を外す。
アレクシア
迷いと羞恥とに、声がわずかに震えている。
シャルル:弟
こういうときって何て言えばいいかわからない
アレクシア
背中に触れた感触と、そして、外れた留め金が。
アレクシア
視線があちらこちらへ逃げたり戻ったり。
アレクシア
「……キスしてほしいって言ったら、困る?」
シャルル:弟
そのまま、離れようとした足を再びそちらへと踏み出して。
シャルル:弟
何かを堪えるように数秒息を止めたりして。
アレクシア
それから、俯いて、胸元を押さえて、息をする。
*
少しずつ、触れては離れて。そうして確かめあう何か。