しとしとと雨の降る夜。

梅雨も終わりを告げる頃。

夕食も終え部屋に戻った兄弟は、それぞれのことをしつつ。
シャルル:兄
ベッドに横になり、スマートフォンで家計簿をまとめている。
シャルル:弟
ベッド脇に座っていたが、スマートフォンの画面を落とし。
シャルル:弟
「…………あのさ」
シャルル:兄
「はい」
シャルル:弟
「…………」
シャルル:兄
「なんです?」
シャルル:弟
「あー……」
シャルル:兄
「ちゃんと言わないとわかりませんよ」
シャルル:弟
「子供あつかいすんな」
シャルル:兄
「アレクシアのことですか?」
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
「まあ、そうだけどさ」
シャルル:弟
「恋人って、ほら……」
シャルル:弟
「そういう、ほら」
シャルル:兄
「おやおや」
シャルル:兄
「そういうことですか」
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
「そういうことですかじゃねーだろ」
シャルル:兄
「んふふ」
シャルル:兄
「遠慮しているんですか?」
シャルル:兄
「それとも、不安とか」
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
「うう」
シャルル:兄
「では」
シャルル:兄
「私が先に……」
シャルル:弟
「お前、そういうとこ」
シャルル:兄
「え~」
シャルル:弟
「なんでそんなに余裕なんだよ……まじで……」
シャルル:兄
「そう見えるだけかもしれませんよ」
シャルル:兄
「で、なんですか?そうじゃないなら……いっしょがいいとか?」
シャルル:弟
「は?」
シャルル:兄
「私はかまいませんが」
シャルル:弟
「は……?」
シャルル:兄
起き上がって、ベッドに腰掛ける
シャルル:兄
「アレクシアはどうでしょうね」
シャルル:弟
「いや……え……」
シャルル:兄
「聞いてみましょうか?」
シャルル:弟
「お前っ」
シャルル:弟
立ち上がる
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
「聞くのか?」
シャルル:兄
「反応、ちょっと気になりません?」
シャルル:弟
「…………」
シャルル:兄
「では」
シャルル:兄
立ち上がって部屋を出る
シャルル:弟
「あっ」
シャルル:弟
「おま……っ」
シャルル:兄
そのまま、居間の電気もつけずにアレクシアの部屋の扉を叩く。
アレクシア
「ん」
アレクシア
扉越しの声。それから、
アレクシア
「どうした?」
アレクシア
扉を開いて、顔を覗かせる。
シャルル:兄
その頬に手をのばし、反対側に口づけて。
シャルル:兄
「少し、お顔を見たかったので」
シャルル:弟
後からきて、何ともしがたい顔をしている
アレクシア
「……お前、いきなり……っ」
シャルル:兄
「ふふ……」
アレクシア
「まったく……」
アレクシア
「で、なんだ。二人揃って」
シャルル:兄
「なんだと思います?」
アレクシア
「……なんだよ」
アレクシア
ちら、と後ろの弟を見遣る。
アレクシア
それからもう一度、兄の方を見て。
アレクシア
「……お前、なんでそんなに楽しそうなんだ」
シャルル:兄
「それは、まあ……」
シャルル:弟
「…………」
シャルル:兄
「そうですね、今晩は……」
シャルル:兄
「雨ですし、一緒に過ごすのはどうかと」
アレクシア
「ん……」
アレクシア
「それは、まあ、別に……構わんが」
シャルル:兄
「朝まで」
アレクシア
「は」
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
まじで言ったな……
アレクシア
「………………」
アレクシア
「朝まで?」
アレクシア
繰り返した。
シャルル:兄
「朝まで」
アレクシア
「あー……」
アレクシア
弟の方を見る。
アレクシア
なんというか。どういう。
シャルル:弟
「…………なんか、えっと……」
シャルル:弟
「そういう話になって……」
シャルル:弟
頭に手をやって眉を寄せ
シャルル:弟
「…………いや、本当に聞きに行くとは……」
アレクシア
「そういう話……」
アレクシア
これもまた繰り返した。
シャルル:弟
「あっ」
シャルル:弟
「いや……」
シャルル:兄
「アレクシア、今……」
シャルル:兄
「かまわないって、いいました?」
アレクシア
「えっ」
アレクシア
「言っ……」
アレクシア
「言っ、た……けど……」
シャルル:兄
「ふふ」
シャルル:弟
「困らせるなよ」
シャルル:兄
「アナタが先に言わないからでしょう?」
シャルル:弟
「俺のせいにすんな」
シャルル:兄
「戻っててもいいんですよ?」
シャルル:弟
「うっ」
シャルル:弟
アレクシアを見る
アレクシア
目が合う。
アレクシア
視線が、行ったり来たり。
アレクシア
「いや、あの……」
アレクシア
「あの、」
アレクシア
そのまま、細く呻きながら俯いて。
アレクシア
「嫌、な、わけじゃ、なく、て……」
アレクシア
言葉にならない。
シャルル:弟
「……アレクシア」
シャルル:弟
横から手をとって、微笑む。
シャルル:弟
「なんか……悪いな、いきなり」
アレクシア
「ん、……ううん」
シャルル:兄
「おやおや」
アレクシア
兄の方を仰ぐ。
シャルル:兄
「かわいい反応ですね」
アレクシア
「……悪かったな……」
シャルル:兄
「抱き上げても?」
シャルル:弟
「は?」
アレクシア
「えっ?」
シャルル:兄
「いつまでも立ったままでは、ね?」
アレクシア
「…………」
アレクシア
ごく小さく呻く。
シャルル:兄
慣れた様子で抱き上げると、にこりと笑いかけ
シャルル:兄
「さて……」
シャルル:兄
「どこでお休みになりたいですか?」
シャルル:兄
「どこにでもお連れいたしますよ、お姫様」
アレクシア
「お前…………」
アレクシア
「……なんというか」
アレクシア
「そういうところだぞ」
シャルル:兄
「んふふ」
シャルル:弟
向かい側に立って、その髪にふれる
シャルル:弟
「お姫様、だな」
アレクシア
小さくくちびるを尖らせる。顔を隠した。
シャルル:弟
「う……」
アレクシア
「……ばか」
アレクシア
それから、そっとひとつ、息をつき。
アレクシア
「……どっちでも、……いいよ」
アレクシア
小さく。
シャルル:兄
「控え目なお姫様ですね」
シャルル:兄
言えば、そのままアレクシアの部屋へと足を踏み入れる。
シャルル:弟
少し悩んでから、一緒に。
シャルル:弟
扉を閉めて
アレクシア
小綺麗な部屋。
ベッドと、ノートパソコンが開かれたままのデスク、ローテーブル。
アレクシア
ごく小さな本棚とカラーボックスに詰め込まれた本や教科書。
アレクシア
ベッドはまだきれいに整えられたまま。
アレクシア
「…………」
シャルル:弟
特別用事がなければ訪れることもない。
シャルル:弟
緊張しているように感じる。
シャルル:兄
その横をすっと通り、アレクシアをベッドの上へ。
アレクシア
下ろされて、そのまま兄を仰ぎ見る。
アレクシア
淡く不安げな目。
シャルル:兄
「そんなに……」
シャルル:兄
「怖がらなくていいんですよ」
アレクシア
「……ん」
シャルル:兄
隣に腰掛けてもう一人を見る
シャルル:弟
ベッドの前に膝をつく。
シャルル:弟
「怖いだろ」
アレクシア
「…………」
アレクシア
「……ちょっとな」
シャルル:弟
右手をとって、甲に口付ける。
アレクシア
「ん……」
シャルル:弟
指先へ。
アレクシア
触れている手を、ためらいがちな指先がかすかに辿る。
アレクシア
ささやかに、何かに応じるように。
シャルル:兄
腰を引き寄せるようにして寄り添う。
シャルル:兄
「アレクシアは暖かいですね」
アレクシア
「……そう?」
シャルル:兄
隣から顔を覗き込むようにして
シャルル:兄
「ええ、とても」
アレクシア
「……そう」
アレクシア
仄かに微笑う。
シャルル:弟
立ち上がるようにして、肩に触れ
シャルル:弟
額へと口付ける
シャルル:弟
指先で肩から首までをなぞり
シャルル:兄
「ふふ……3人だと、ちょっと狭いですね」
アレクシア
「……ふふ」
アレクシア
「そりゃあな」
アレクシア
くすぐったそうに、少し、首を傾げて。
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
「アレクシア」
アレクシア
「ん」
アレクシア
「何、シャルル」
シャルル:弟
「もっと、触ってもいいか……?」
アレクシア
「……、ん」
アレクシア
小さく頷く。
シャルル:兄
ベッドに上がって腰のあたりを両手で抱き寄せる。
アレクシア
「、あ」
シャルル:兄
後ろから、密着するように強く。
シャルル:兄
「一人だけはずるいですよ?」
アレクシア
「う、ん」
シャルル:弟
反対側から上がって、向き合うように。
シャルル:弟
身体の横に手をつき、額を近づける。
シャルル:弟
「一緒、か……」
アレクシア
「……一緒」
シャルル:兄
肩口に頬を寄せれば髪が触れあう。
アレクシア
さらさらと、かすかな音が耳に届く。
シャルル:兄
ずれた眼鏡を外してベッド脇に置き
シャルル:兄
「朝まで一緒、ですね」
アレクシア
「ん、」
アレクシア
「……うん」
アレクシア
頬を寄せる。
シャルル:弟
「ん……」
アレクシア
「……ずっと、」
アレクシア
言いかけて。
アレクシア
「……いや、……なんでもない」
シャルル:弟
「…………」
シャルル:弟
そのまま、前から。
二人で挟むようにして唇を重ねる。
シャルル:兄
強く抱きしめたまま、すり寄るようにして。
シャルル:兄
「ずっと一緒ですよ」
アレクシア
「……ふふ」
アレクシア
「……そっか」
アレクシア
くちびるの触れる距離で、微笑う。
アレクシア
「うれしい」
シャルル:弟
「ん……」
シャルル:弟
「俺も」
シャルル:弟
はにかんだように笑って
シャルル:弟
呼吸を感じるほど近い距離で
シャルル:兄
「贔屓してくださってもかまいませんけれどね」
シャルル:兄
抱きしめた先の手を服の内側へと忍ばせて
アレクシア
ごく小さく、ぴくりと跳ねる。二人にはわかる。
シャルル:弟
「そういうこと言うなよ」
シャルル:弟
耳へと口付け、膝を前に。
目を閉じて。
アレクシア
こちらも、そっと目を閉じる。
シャルル:弟
「しあわせだな」
シャルル:兄
「そうですねぇ」
アレクシア
「……うん」
アレクシア
「……わがまま、聞いてくれて。……ありがとう」
シャルル:兄
「だって私たち、ふたりとも」
シャルル:兄
「アナタを愛していますから」
アレクシア
「…………」
アレクシア
「わたしも」
アレクシア
「ふたりのこと、愛してる」
アレクシア
「……だいすき」
シャルル:兄
肌に触れて、心に触れて
シャルル:弟
キスをして、抱き寄せて
シャルル:兄
知らないところのない程に
シャルル:弟
知らない場所に踏み込んで
シャルル:弟
アレクシア。
シャルル:兄
アナタを、ずっと。
シャルル:弟
ずっと、こうして
シャルル:兄
最後まで、一緒に
シャルル
……踊ろう、アレクシア。
シャルル
一緒に。