まだ宵の浅い時分。夏の匂い。

人のざわめき。どこかで鳴る音楽。

その中に、三人。

常とは違う装いで、歩いている。
アレクシア
からころと、軽い下駄の足音。
アレクシア
歩き慣れない履物に、ほんの時折、足音を乱しながら。
アレクシア
ゆるやかに、人混みの中を泳ぐように進む。
アレクシア
どこへ行こうと決めきったわけでなく、その歩み自体を楽しんでいる。
シャルル:兄
知らぬ人々がそこかしこで楽しげな雑談を交わしている。
シャルル:兄
鉄板で粉ものが焼ける音。
パチンコの玉を弾く音。
くじ屋の鐘の音。
シャルル:弟
提灯と屋台の明かりが遠くまで並んで、外れると、暗い影がおちる。
シャルル:弟
戦利品を堪能する子供らに、酒を飲み交わす大人らに。
シャルル:兄
「賑やかですねぇ」
アレクシア
「だな」
シャルル:弟
「この辺って結構子供とかもいたんだな」
アレクシア
時折傍らを通り過ぎていく子供たちを、少しよけたりしながら。
アレクシア
「うちからだと、小学校なんかは遠いからな……」
シャルル:弟
「そういや、入口のとこに結構自転車も停まってたな」
シャルル:弟
「賑やかでいいことだ」
シャルル:兄
「このくらいの規模だと、そう迷子にもならないでしょうしね」
アレクシア
「子供だけで来てるようなのも、結構いそうだからな」
アレクシア
「小遣いを握りしめて、目をきらきらさせてるようなのが」
アレクシア
目線の先に、型抜きの屋台がある。
シャルル:兄
「アレクシアはお祭りはよく行かれたんですか?」
アレクシア
「ん?……うーん……まあ、子供の頃は普通に……」
アレクシア
「地元のちょっとしたやつだが」
シャルル:兄
「ふふ……では、懐かしいものでもあるのでしょう」
シャルル:兄
「やってみます?」と、視線の先を追う。
アレクシア
「……やりたいのはお前じゃないのか?」
シャルル:兄
「そうかもしれません」
アレクシア
「案外難しいぞ」
シャルル:弟
「そうなのか?」
アレクシア
「あんまり力を入れると、あっさり割れるからな」
シャルル:兄
「それは、なかなかコツがいりそうですね」
シャルル:弟
「俺苦手かも」
シャルル:兄
「んふふ」
シャルル:兄
「やってみればわかりますよ」
アレクシア
「二人でやってみればいいんじゃないのか」
シャルル:兄
「アレクシアもやりましょうよ」
シャルル:弟
「お手本見せてもらわないとな」
アレクシア
「ほう」
アレクシア
「……もう十年以上やったことないぞ。期待するなよ」
シャルル:兄
「え~」
シャルル:弟
「やってみればわかるさ」
アレクシア
「……じゃあ」
アレクシア
百円玉を手のひらに。
アレクシア
「一枚頼む」

「はいよ。大人は難しいやつだ」
シャルル:兄
「では、私達も」
シャルル:弟
「難易度があるんだな……」

ピンク色の小さな板と、押しピンが手渡される。
アレクシア
「細いところ多いな……」
アレクシア
早速しゃがみ込んで、かりかりと削りだす。
シャルル:弟
隣でアレクシアが始めるのを見て。
別の場所で子どもたちがやっているのを見て、手をつける。
シャルル:弟
少し力を入れたら割れてしまいそうで、でも、なかなかもどかしい。
シャルル:兄
全体を見たあと、
シャルル:兄
細かいところを分断する作業からやっていく。
シャルル:兄
「結構難しいですね」
アレクシア
「お前、型抜き初めてか?」
シャルル:兄
「ええ」
アレクシア
「その割に躊躇なくいくな……」
シャルル:兄
「この、本体が割れなければいいんですよね」
アレクシア
「うん」
シャルル:兄
細かい部分に新たな溝を作り、外部をぱきりと切り離す。
シャルル:弟
「あっ」
シャルル:弟
やっている隣で、針先を当てた部分から傘の柄がポキリと折れる
アレクシア
「ふふっ」
シャルル:兄
「きれいに折れましたねぇ」
アレクシア
「よくある」
シャルル:弟
「難しくないか?」
アレクシア
「まあ、あんまり簡単に抜けたら商売にならんだろ」
アレクシア
言いながら、かりかり。
アレクシア
「これってなんだろうな。かかし?」
シャルル:兄
「的じゃないですか?」
アレクシア
「……なんの……?」
シャルル:兄
「射撃とか……?」
シャルル:弟
「違うと思う」
アレクシア
「……わたしも違うと思う」
シャルル:兄
「そうでしょうか」
シャルル:兄
言いながら、ウサギの首と脚の間の3角を削る。
アレクシア
細い部分が丁寧に削り出されていく。
アレクシア
「んん……」
シャルル:兄
「首が難しそうですねぇ」
シャルル:弟
割ってしまったので二人の様子を見ている。
アレクシア
「…………」 真剣。
シャルル:兄
2d6+1>=6 (2D6+1>=6) > 4[2,2]+1 > 5 > 失敗
シャルル:兄
「あっ」
アレクシア
2d6+1>=6 (2D6+1>=6) > 7[5,2]+1 > 8 > 成功
アレクシア
「……よし」
シャルル:兄
耳がポキリと折れる。
シャルル:兄
「流石アレクシアですね」
アレクシア
綺麗に彫り抜いた。
シャルル:弟
「器用なもんだな」
アレクシア
「手先はな」

「おっ、抜けたのかい」

「これだと400円だ」
シャルル:弟
「おお」

ちゃりちゃりと百円玉が渡される。
アレクシア
「どうも」
シャルル:兄
「おめでとうございます」
アレクシア
「久々でもいけるものだな」
シャルル:兄
「練習が必要そうですね」
アレクシア
「お前は器用だから、簡単なのなら抜けるんじゃないのか」
シャルル:兄
「んふふ……惜しかったですからねぇ」
シャルル:兄
「私は」
シャルル:弟
「下手で悪かったな」
アレクシア
「ふふ」
アレクシア
笑って立ち上がる。
シャルル:弟
「どうも」
シャルル:弟
場所を開けて、屋根の外へ。
シャルル:兄
「金魚だったら掬える気がするんですが」
シャルル:弟
「どこで飼うんだよ」
シャルル:兄
「鉢?」
アレクシア
「今どき……?」
シャルル:兄
「水槽は場所を取りますからね」
アレクシア
「まあ、そもそも掬っても持ち帰らずに返すやつもいるからな」
シャルル:兄
「お返しできるんですね」
アレクシア
「やっぱり、飼うとなるとちょっと大変だからな……」
シャルル:弟
「金魚って結構デカくなるらしいしな」
シャルル:弟
「昔はカメなんかもやってたらしいけど」
シャルル:兄
「カメも大変ですからね」
アレクシア
「亀って長生きなんだったか?」
シャルル:兄
「100年とか生きるのではないですか?」
シャルル:弟
「そりゃ大変だな……責任とか」
アレクシア
「100年は大袈裟だろ……」
シャルル:兄
「案外生きるかもしれませんよ、ガラパゴスゾウガメとか……」
シャルル:兄
「生きますし……」
シャルル:弟
「それは特殊なやつだろ」
アレクシア
「祭りで出ないだろう、どう考えても」
シャルル:兄
「んふふ」
アレクシア
わかってて言うからな、こいつ……。
シャルル:兄
「まあ、でも……」
シャルル:兄
「30とか50年でも大変ですよねぇ」
アレクシア
「まあな……」
シャルル:弟
「もう兄弟みたいだよな、それだけ生きると」
アレクシア
「そもそも、五十年経った先の自分ってあんまり想像つかないな……」
シャルル:弟
「確かに……」
シャルル:兄
「50年……というと、70代ですね」
シャルル:兄
「元気だといいのですが」
アレクシア
「七十……」
アレクシア
こいつ性格変わらなそうだな……と思っている。
シャルル:兄
ニコ
アレクシア
「……まあ、今の七十歳って元気だよな、全体的に」
シャルル:弟
「こいつ死ななそうだし」
シャルル:兄
「みんな元気が一番ですよ」
アレクシア
「そりゃあそうだろうが……」
アレクシア
「……まあ、こいつが死にそうにないというのはわかるな……」
シャルル:兄
「お褒めに預かりまして」
アレクシア
「褒めてはいないだろ、たぶん」
シャルル:弟
「本当にな」
シャルル:兄
「生きていてほしいって、ごまかさなくてもいいんですよ」
シャルル:弟
「…………」
アレクシア
「…………」
シャルル:兄
「ねっ」
シャルル:弟
「はいはい」
アレクシア
苦笑。
アレクシア
「元気でいてほしいよ」
シャルル:兄
「ふふ」
シャルル:兄
「このお祭りも、どのくらいやっているんでしょうね」
シャルル:兄
「50年後もやっているのでしょうか」
アレクシア
「ん……」
アレクシア
提灯の連なりを見上げる。
シャルル:弟
「やってるんじゃねぇの」
シャルル:弟
「やめる理由がなけりゃさ」
アレクシア
「……だといいな」
シャルル:兄
「続ける理由だってありますよ」
シャルル:兄
屋台を出す人、久々に顔を見る人。
シャルル:兄
ちょっとだけ、はしゃげる場所。
シャルル:兄
「今日の晩御飯はサボっちゃいましょうか?」
アレクシア
「……お好み焼きとか食べちゃうか」
アレクシア
気を取り直したように。
シャルル:兄
「いいですねぇ」
シャルル:弟
「たくさん店あったな、そういや」
アレクシア
「お好み焼きとか、たこ焼きとか……あとはベビーカステラとか?」
アレクシア
「鉄板で焼く系の、あるよな、結構」
シャルル:兄
「飴も多いですよね」
シャルル:弟
「買って、外で食べちゃうか」
アレクシア
「いいな。たまには」
シャルル:兄
「こぼさないようにしませんとね」
シャルル:兄
「せっかく、綺麗な浴衣姿ですから」
シャルル:弟
「ん」
アレクシア
「これ、綺麗だよな。あんまり派手じゃなくて」
アレクシア
袖を摘んで、軽くひらひら。
シャルル:兄
「よくお似合いですよ」
シャルル:弟
「1年に1回じゃもったいないな」
アレクシア
「そもそも、浴衣なんて着たことほとんどなかったけどな……」
アレクシア
「お前たちもよく似合ってるよ」
シャルル:兄
「ありがとうございます」
シャルル:弟
「お前はちょっと目立つけどな」
アレクシア
兄の方の袖と裾に視線が向く。
シャルル:兄
「そんなに目立ちます?」
アレクシア
「……まあ、見えたらちょっと……結構、びっくりはするだろうな……」
シャルル:弟
「一周回ってペイントに見えないこともないが……」
シャルル:兄
「迷子になっても安心ですね」
シャルル:兄
「手、上げたら分かりますし」
アレクシア
「……なんというか、……いや、別に悪いというわけじゃないんだが」
アレクシア
「見せないようにしてるんだと思っていたが」
シャルル:兄
「驚かれますからね」
シャルル:兄
「でも、まあ、最近は珍しくありませんし……」
シャルル:弟
「それは珍しいだろ」
アレクシア
「その入れ方は……珍しいぞ……」
シャルル:兄
「え~」
シャルル:兄
「格好いいでしょう」
シャルル:弟
「?」
アレクシア
「うーん……?」
アレクシア
「……格好いい……うーん?」
シャルル:兄
「もう少しおしゃれな方が好みですか?」
シャルル:弟
「そういう問題か?」
アレクシア
「おしゃれというか……」
アレクシア
「いや……まあいいが……」
アレクシア
今更だしな、という顔。
シャルル:弟
「慣れたしな」
アレクシア
「最初に見たときは本当に……」
アレクシア
言いかけて濁した。
シャルル:兄
「外側ならいくらでも繕えますからね」
シャルル:兄
「本当は内側もしたかったんですけれど」
シャルル:弟
「内側……?」
アレクシア
「内側?」
シャルル:兄
「んふふ」
シャルル:兄
「あっ、ほら。あの辺りにお好み焼きの屋台がいくつかあるようですよ」
アレクシア
ごまかしたな。
シャルル:兄
アレクシアの手を取る
アレクシア
ぱち、と瞬き。
シャルル:兄
「行きましょう」
アレクシア
「……ん」
アレクシア
仕方がないので、今はごまかされてやるか……。
アレクシア
「ほら、お前も」
アレクシア
弟を見て笑う。
シャルル:弟
「おう」
アレクシア
ほんの一瞬、考えて。それから手を差し出す。
シャルル:弟
「ん……」
シャルル:弟
その手を握って、大人三人で。
アレクシア
真ん中で、両手を繋いで。
アレクシア
いや、冷静に考えると非常に恥ずかしい気がするが……
アレクシア
でも、両の手はあたたかい。
シャルル:兄
繋いだ手を、離さない。
シャルル:兄
一緒にいられる穏やかな時間が、今は何より大切だ。
シャルル:弟
小さな手をそっと握って。
シャルル:弟
「人が多いの、大変かもって思ったけど」
シャルル:弟
「いいな、結構」
アレクシア
「……うん」
アレクシア
「こういうのは、きっと」
アレクシア
「人がいる方がいい」
アレクシア
そうでなければ、きっと寂しい。
シャルル:兄
「そう遠くないのもいいですね。ああ……疲れたら言ってくださいね」
シャルル:兄
「足、なれないでしょうから」
アレクシア
「ん。ありがとう」
アレクシア
「でも、お前たちもそうだろ。下駄」
シャルル:弟
「そうだな……結構なれるまで大変だ」
アレクシア
「サンダルともちょっと違うしな……」
シャルル:兄
「足に引っ掛けるようにすると良いらしいですよ」
アレクシア
「へえ……?」
シャルル:兄
「こう、持ち上げる感じで」
アレクシア
「ふむ」
アレクシア
かこ。ころん。
シャルル:弟
「毎日これだったら足鍛えられそう」
シャルル:兄
「これで歩きます?」
シャルル:弟
「和服、目立つからなぁ」
アレクシア
「お前らは特にな……上背もあるし……」
アレクシア
頭ひとつぶん背の高い二人を交互に見上げる。
シャルル:弟
「じゃ、またなんか行くか」
シャルル:兄
「そうですねぇ……花火大会とか?」
アレクシア
「花火か……」
シャルル:弟
「いいかもな」
アレクシア
「そういえば、花火大会って行った覚えがないな……」
アレクシア
「地元のお祭りと違って、子供だけで気軽に行けるわけじゃないからかな……」
シャルル:兄
「では、後で調べておきますね」
シャルル:弟
「ここより人多いだろうし、ちょっと離れて見えるとこでもいいかもな」
シャルル:兄
「日付わかったら予約取りましょうか」
アレクシア
「予約?」
シャルル:兄
「今は色々ありますからね」
シャルル:弟
「店とか?」
シャルル:兄
「店でも場所でも」
シャルル:兄
「お好きな方で」
アレクシア
「お前、マメだよな……」
シャルル:兄
「ふふ」
シャルル:兄
「素敵な思い出にしたいですからね」
アレクシア
「ん……」
アレクシア
「……うん」
アレクシア
「ありがとう」
アレクシア
繋いだ手を、少しだけ強く握りなおす。
シャルル:兄
「はい」
シャルル:弟
「ん」
シャルル:兄
にぎやかな雑踏にまぎれて。
シャルル:兄
楽しげな人々のあいまに。
シャルル:弟
繋いだ手は暖かく、たしかにそこにいると感じさせてくれる。
アレクシア
細く薄い手のひらを包む、優しい手の感触。
アレクシア
今、側にいてくれる二人。
アレクシア
愛おしい、と言うのだと思う。
アレクシア
大切にしてもらっている。身に余るほど。
アレクシア
その嬉しさと怖さを、こういうとき、ふと思い出す。
アレクシア
ずっと、と言えない。けれど、そう願っている。

今日、祭りが終わっても。その先に、また次の未来を小さく約束する。

そうして、ひとつ、ひとつ。

ずっと、を少しずつ、叶えていく。

ゆっくりと。