シャルル
5号室は中央の階段にほど近く、庭の様子がよく見える。
シャルル
バルコニーの手摺のすぐそばに立ち、一部始終を眺めていた。
シャルル
静かである。
異質なものを見る目。
これまで、様々な末裔、救世主を眼にしてきたが、それにしても異質である。
アレクシア
「どいつもこいつも、と言いたいところだが……並べるのはどうだろうな、あれは」
シャルル
かみさまと呼ばれる男、ここにいるからには末裔ではなく『救世主』であるはずだ。
アレクシア
「さあな。……この世界なら死ぬんじゃないのか」
シャルル
「あの方が神様、と呼ぶのであればそれはもう神様なんでしょうけれど……」
シャルル
「救世主である限りは、対抗できないことはない……筈でしょう。」
アレクシア
「たとえ神様とやらが殺せなくとも、あちらに死んでもらえれば勝負としては終わりだ」
シャルル
「アレクシア。アナタはどう思いますか?」
シャルル
「そこに存在する神と呼ばれる男と、まだ産まれ出でぬ胎の中の胎児と。」
アレクシア
言いながら、かすかに不愉快をにじませる。
アレクシア
「……これはわたしたちの技量の問題だろうが」
アレクシア
「……お前、わたしにどんな答えを期待してるんだ?」
アレクシア
「わたしは好きこのんで何かを殺すほど落ちぶれてはいないつもりだが」
アレクシア
「殺すべき時にそれを見誤るほど愚かでもないつもりだ」
アレクシア
目は逸らさないが、答えはしない。
言葉の続きを待っている。
シャルル
「人殺しの覚悟などという物はですね……」
シャルル
「アナタは、迷っていい。悩んでいい。拒んでいい。泣いてもいい。」
シャルル
「できないことは、できないと言ってください。」
シャルル
ちらりと庭を見下ろす。
妊婦の少女は刃物を振り回し、襲いかかっていた。
彼女も、まごうことなき救世主だ。
シャルル
「それは、アナタがとらなければならない『責任』ではありません。」
シャルル
「私も、アナタには良い『アレクシア』でいてほしい。」
アレクシア
「……お前とわたしの『良い』にはいくらか相違があるというのが、これまでにわかりきっていると思うが?」
シャルル
「そのままの意味ですよ。何と言いますか……」
アレクシア
「お前、甘ちゃんは好きじゃないと思っていたがね」
シャルル
「ああ、いえアナタがそうというわけではなく。」
シャルル
「アナタが頑張ってくれるのは、とても嬉しいです。アナタ自身の為にも、私の為にも。」
シャルル
既に庭に救世主の姿はなく、モニターには部屋の様子が映されている。
アレクシア
半年。お茶会も裁判も、いくつもあった。必ずしも、一月に一度で済むわけでもない。
アレクシア
互いの心のどこに疵があるか。
それは、言葉にできずとも、なんとなしには。
シャルル
「アレクシア。アナタは……綺麗すぎて。」
シャルル
「私が『始末』を申し出れば、気を遣わせたと思うでしょう。盾になって傷つけば、負担をかけたと思うでしょう?」
シャルル
「それは、ゆっくりならばいい。けれど……ここではそうもいかないでしょう。」
アレクシア
「わたしは、わたし以外のものを背負う生き方を知っていたし、……むしろそうでない生き方がよくわからん」
アレクシア
「当然、背負うものの軽重はある……が」
アレクシア
「わたしがうまくやって生きていく者がいるのと、わたしがうまくやって死んでいく者がいるのと」
シャルル
「先ほどの問い……胎児と母親でなく、大罪人ならどうでしたか?」
シャルル
「アナタにとって命の重さは等しくないでしょう。でも、此処では……選べないんですよ。」
シャルル
「どんなに上手くやろうと思っても、全部踏みつけにするしかないんです。」
シャルル
「でも……アナタは、踏みつけた分だけ……それ以上。」
アレクシア
きり、と杖を握る。
何を言われているのかはわかる。
アレクシア
顔を歪めた。
白い手袋の上を、同じく手袋に包まれた指がぎりりと掻きかけて、留まる。
アレクシア
指先が、何かを押さえつけるように、杖をなぞる。
アレクシア
「わたしは……どうせ、『エルレンマイヤー卿』をする」
シャルル
「アナタを否定したりなど、するものですか。」
シャルル
「信頼してくださいとまでは言いませんが。」
シャルル
「もう少し、甘えてくれた方がうれしいじゃありませんか。」
アレクシア
ぎゅ、と杖を握る。擦れ合う手袋が音を立てる。
アレクシア
かつん、と。シャルルの二の腕あたり、まだ生身ではないところを軽く叩く。
アレクシア
「わたしは、つい一週間前に、わたしを頼れと言ったろ」
アレクシア
「……嫌だな。お前に言ったら説教をされる気がする」
アレクシア
構わない、と言われて、だからこそ笑う。
アレクシア
「お前になら裏切られても許すということだ、シャルル」
シャルル
「堕落の国(ここ)では、命に明確な価値がある。」
シャルル
「観客席の人間も、参加者も、メイドも、私も。」
シャルル
「でもね、アレクシア。だからこそ私は困惑しているんです。」
シャルル
「私はアナタに『1』と見てほしいのに。」
シャルル
それはいつか、死んだ誰かから聞いたもの。
シャルル
「上手に使ってください。私は、異常者ですから。」
アレクシア
「わたしに変わってほしくないのなら、使えとは言うな」
アレクシア
「……お前から出るには珍しいタイプの問いだな」
シャルル
「彼女にとっては人を殺しても、手に入れたいものなのでしょう。」
シャルル
「私から見て、アレクシアは美しいと思いますよ。」
アレクシア
「美しいかどうかはさておき、見苦しいのは困る」
アレクシア
ちら、とモニターからシャルルへ視線を移し、
シャルル
「少なくとも、私は舐められて困ったことはありませんね。相手が油断するので。」
アレクシア
「交渉テーブルでは、呑んでかかったほうが話が早い」
アレクシア
「正直、よくわからんな……わたしには」
シャルル
「高く売れるんですよ。それなりに顔がいいと。」
アレクシア
「ああ……」
やや微妙な顔をして、しかしわからないわけではない。
シャルル
「ちょっと顔を整えれば金額も上がる。だから、そういう仕事もありました。」
アレクシア
「なるほどな……」
はあ、と息をつく。
アレクシア
「……いや。わたしの周辺で言えば、かな」
アレクシア
「美しさというのは、どちらかといえば、精確で無駄のない機構、あやまたず動く機械の図面」
シャルル
「ふふ……その美しさは私もわかります。複雑に見えて単純な動作の組み合わせ。調整されたバネと撃鉄。」
アレクシア
「そしてそれが高く売れるのは……まあ、同じだな」
シャルル
「…………商品はですね、左腕に値段を入れるんですよ。転売するときの基準にするんです。」
シャルル
「手首から、こう……最初の値段、線で消して次の値段。」
シャルル
自分の機械の腕の、内側を見せて場所を刻む。
シャルル
「それは、商人たちが互いに大損しないように話し合わせて決められたルールらしいのですが…………。」
シャルル
「美しさ『価値』の基準を刻んで、それを落とすなんて。」
アレクシア
「…………まあ、……人を売り買いするというのは」
シャルル
「アナタにとって、私は……価値あるものですか?」
アレクシア
「お前、いまさら自分に値付けをされたいのか」
シャルル
「アナタのその顔が見たくて、つい意地悪を。」
アレクシア
「信頼していると言ったのでは足りないか」
ごく真面目な顔で問う。
シャルル
価値を他人に委ねるから、そういう事になる。
アレクシア
「お前は……わたしを『1』では足りないと言うくせに」
アレクシア
「どうして自分はそうでないと、……いや」
アレクシア
「許せ。わたしが聞くなと言ったんだったな」
シャルル
同じ。いつまでも同じ。
必要な者にならなければと身構える。
不要なものは。ゴミ箱いきだ。
アレクシア
シャルルは、アレクシアにとって価値がある。
そしてシャルルは、アレクシアを『1』では足りないと言う。
アレクシア
だがアレクシアは、アレクシア自身を、置き換えの利かないものだとは思わない。
同じ用を果たすのならば、それが価値だと、そう思う。
アレクシア
手元に置いて喜ばしいだとか。
使いやすく便利であるとか。
アレクシア
「わたしはお前を、わたしの所有物だとは思わない」
アレクシア
「信頼している。価値があると思っている。そしてお前は、わたしに付属したものではない」
アレクシア
ただ、じっと。シャルルを見ている。
測るようではない。
だが、逸らさずに。
シャルル
「……流石に。全身は出来ませんでしたからね。」
シャルル
「きちんと分けておけば、大抵の事は気になりません。」
アレクシア
分かたれるもの。
アレクシアは、いつだってその溝の手前で、立ち尽くしている。
シャルル
「あっ、でも傷つきましたって言っておけばよかったですね。」
アレクシア
「悪かった」
笑うシャルルに、小さく詫びる。
シャルル
「今は、とびきり可愛い顔をしていますね。」
アレクシア
その言葉に。
シャルルという男の嗜好と、そして、かすかな、拒絶のようなものを嗅ぎ取る。
シャルル
部屋が暗くなる。
画面の向こうが、暗くなったので、少しだけ光が落ちたのだ。
シャルル
「…………ああいうのは、あまり好きではありませんが。」
アレクシア
伏せた視線がモニターに向く。
暗い中、赤い紐。
……かみさま、と呼ばれる何者か。
シャルル
「恐怖から逃れるために、信仰するのかもしれませんが。」
シャルル
「まがい物の祈りは、何も救いませんでしたが。」
アレクシア
「……わたしのできることをするしかない。そこに神のたすけは期待しない」
シャルル
「私がアナタを神だ、神の使いだと言ってあることない事でっちあげ、触れ回り、信者がつけば。」
アレクシア
「……は」
かすかに、疲れたような笑い。
アレクシア
「わたしには紛い物でも向いていないな」
アレクシア
「神を名乗らせるには、わたしは俗すぎる」
シャルル
「日照りが続けば神の怒り。そこに雨が降れば神の祝福。そして、洪水が起きればまた神の怒り。」
シャルル
「理解の及ばないもの、あるいは大きな力を『神』と呼び。」
シャルル
「ある者は救いを求め、あるものは利用する。」
シャルル
「優勝したら、なれるかもしれませんよ。」
アレクシア
「人は、そこらの他人にだって祈るときは祈る」
アレクシア
「わたしに、祈りのようなものを向ける者はいた」
アレクシア
「わたしの金策に、わたしの折衝に、生活がかかっているものがいた」
アレクシア
「わたしはそこに、組み込まれていたが」
アレクシア
「……それでも、ただの小娘でもあったよ」
アレクシア
つらつらと語る、それが求められた答えかはわからない。
アレクシア
「だから、わたしは、きっと……それ以上はいらない」
アレクシア
「……帰ってやるべきだと思っているな」
シャルル
「そこに、他の誰かがいたら。もしくは、その場所が跡形もなく……消えていたら。アナタは。」
アレクシア
「跡形もなく消えていたら、それは、どうしようもないな」
アレクシア
「それは、わたしにはどうしようもない」
アレクシア
数秒、黙り。そしてほんのかすか、笑う。
アレクシア
「それは、良いことなんじゃないのか?」
アレクシア
「わたしの不在で、彼らは損なわれなかったということだ」
シャルル
「『もう少し、自分のことの方を考えろ』。」
アレクシア
「……それでわたしが死ぬわけじゃなかろうよ」
アレクシア
――……いいや、おまえは”いちばん”ではない
――――神様にえらばれなかったのだから
アレクシア
そうだな。
わたしは、何か特別に、選ばれてはいない。
アレクシア
そこで、求められた用を果たせる形をしていた。
アレクシア
「……お前がそう言ってくれるのは、嬉しいよ」
シャルル
過去は消えない。何をしても。
醜い記憶はアスファルトにこびりついたガムのように、踏みつけられるほど強く。
美しい記憶は壁に描かれた絵画のように、日が経つほど淡く。
されど――
それは、それは……
シャルル
「忘れてくださいね。こんな世界のこと。」
シャルル
できないと、思いながら。
できないといいなぁ、と思いながら。
シャルル
「私は忘れませんけど。ええ。忘れてあげませんよ。」
アレクシア
モニターを見ながら、答えはしない。
その横顔は、悲しんではいない。そのように見える。
アレクシア
どことない諦めの色が、見えたかもしれない。
シャルル
モニターを見て、いい顔だったなぁ。と思う。
シャルル
アレクシアが傷ついたとき、同じ顔をしてしまいたくはないな。
そう思ったから。
シャルル
この戦いにおいて、重要視される『美しさ』。
シャルル
あの女王にとってはそれ以上の意味を持つ。
シャルル
「あれはもはや、執着というレベルではないと思うんです。」
シャルル
「あの……少女にとって『神』が絶対であるように……彼女にとっては『美しさ』が。」
シャルル
「さあ。捨てた方が……救われると思いますけどね。」
アレクシア
「ならばそれは、妄執とでも言ったほうがいいと思うがね」
シャルル
「それは…………どんな気持ちなんでしょうね。」
アレクシア
「取り憑かれている間は、それが苦しいとは思わないのかもしれん」
シャルル
それは今、横並びになった16の意志のひとつ。
シャルル
「これまで、そういう方と深くかかわったことがないからかもしれませんが……」
シャルル
殺した救世主の中には、いたかもしれないが。
アレクシア
「あの女王が取り憑かれているのが『美』だから、」
アレクシア
「いるだろうよ。取り憑かれているやつは」
アレクシア
「誰よりも秀でたい、誰よりも稼ぎたい、誰よりも……」
シャルル
「最終的に、自分でそう思うしかないわけですし。」
シャルル
「他の誰かよりも上か下かというのは嘘をつかれればわからないわけですし。」
シャルル
「世界に二人きりになったとして、いなくなった人より上かなどわからないでしょうし。」
アレクシア
「過去、どうであったか。これから先、どうであるか」
シャルル
「美しさなんて、それこそ基準がありませんしねぇ。」
アレクシア
「わからない。だが、わからないからこそ」
シャルル
「私は彼女よりアレクシアの方が美しいと思いますし。実際、私の世界では価値も高いですし。」
シャルル
「その、基準を支えているのが鏡……ですか。」
シャルル
「事実は過去です。起こったことを真実としても後から歪めることはできますし、何の信ぴょう性もない。」
シャルル
「『真実』という判断基準があると『虚偽』が生まれ、それは悪意によって取り違われることもある。」
シャルル
「だから、そんなものに拘るのは時間の無駄だと。」
シャルル
「気に入らなかったら壊せばいいし、気に入ったら受け入れればいい。」
アレクシア
「……実利的と言うか、ロマンがないと言うか」
シャルル
「だから、価値は消えない様に刻むわけですし。」
シャルル
「この眼鏡もいただいたものですし、本当に……どうしてでしょうね。」
アレクシア
「わたしが「ない」と言ったら、そう思うのか」
シャルル
「あの場では、確かにあったんですよ。しかし……」
シャルル
「…………やはり。帰らなければ、なりませんね。」
アレクシア
「お前は、その場所に自分の価値を見出しているんだろう」
アレクシア
「十倍の値がついたら、そこを去りたいと思うのか」
シャルル
「ええ。はい……大損させるわけにはいきませんからね。」
シャルル
私はまだ、彼女にとって価値あるものであるのか。
アレクシア
「心から神を信じられない、わたしたちのような者は」
シャルル
彼女が未だ私を待っていると?
私の……帰りを歓迎してくれると?
シャルル
「まあ……価値はなんとでも作れますしね。」
シャルル
「他にもっと、執着するものができれば……変わるのかもしれませんね。」
シャルル
そうして、いくらかの時間のあと裁判は始まる。
アレクシア
身重の少女も、また、おそらくは。
信仰と、妄執の狭間。
アレクシア
「信仰と信頼は……違うものだと、わたしは、そう思うよ」
シャルル
「…………それも、足りなかったようですが。」
アレクシア
「…………」
薄く笑う『かみさま』を見遣る。
アレクシア
それに応える力があるのならば、力を振るってくれるのだろうか、神とやらは。
シャルル
「そうだとしたら、支えあいの関係であるのに。片方にのみ試練や、儀や贄を求めるなんてなんだか……」
アレクシア
「それを美味いと思える強さがあるものが」
アレクシア
「……応えねばならないと思うのも、応えられないと思うのも」
アレクシア
「それに心揺らさずにいられる、というのはきっと難しい」
シャルル
「やっぱり聖女様にしておいた方がよかったですか?」
アレクシア
「そういう悪ノリをやめろと、前にも言わなかったか?」
アレクシア
「お前のそういうところは、神経が図太くて羨ましいよ」
アレクシア
「わかってると思うが、褒めてはいない」
アレクシア
「本当に仕方のないやつだな、と思っているぞ、わたしは」
シャルル
「嫌いって言われたら泣いちゃいますが。」
アレクシア
眼下に繰り広げられる攻防に、目を細めながら。
シャルル
「嘘はついていないんですけれどねぇ。本当に泣いた方がいいですか?」
シャルル
「3秒……いや、6秒ほどいただければ。」
シャルル
「それは、嘘つきになってもご遠慮願いたいですね。」
シャルル
「はい。弱点を公表したのでお許しくださいね。」
シャルル
「話しましたっけ。手足を切った理由を。」
アレクシア
その笑みに、息をつく。
ひどく複雑な目をした。
シャルル
「足を撃たれたら痛みで走れなくなりますし、腕を撃たれたら痛みで銃を握れません。」
シャルル
「だから、痛みを感じないように……切ったんですよ。」
シャルル
「最初からこれなら、痛くないでしょう?」
アレクシア
言われていることは、わかる。理屈としては。
ただ、何かが。
アレクシアの中で、追いついてこない。
シャルル
「腹を撃たれてもまあ、動けと思えば勝手に動きますし。」
アレクシア
困る、とは。言えない。アレクシアには。
軽々にそう言っていい場所にはいない、と、そう思う。
だが、やはり。
自分の中に取り残される何かを感じる。
シャルル
「別に絶対死にたくないというわけではないのですが……ほら、死ぬと戦力が減少しますし。少しでも死ににくい方が……」
アレクシア
「お前が何を考えて、望んで、何をしてもいい」
アレクシア
「お前が、自分を、ただ数としてだけ数えるのは」
アレクシア
「少なくとも、強いたくないと思っている」
アレクシア
「それでも、わたしがそう思っているということは」
シャルル
違う。あの人とは。
声も、顔も、髪も、性格も、話し方も、年も、笑い方も。
だけど……
シャルル
「嬉しいですよ。今……ああ、腕があったらよかったなぁって思っているところです。」
シャルル
冷たい手では、優しく触れることは出来ない。
シャルル
――……此処にいたいなぁ、と思えるのは、同じだ。
シャルル
でも、アレクシアが、彼女が見ているのは。
シャルル
俺が、見せているのは。差し出しているのは。
シャルル
隠しているのは、繕っているのは、引かれるのは。
アレクシア
過去は消えず。今も消えず。
アレクシアが言葉にしたのは、ただその結果。
アレクシア
アレクシアはさしたる信仰を持たない。
だから、仕事を、行いを、その結果を重んじる。
アレクシア
そこで用を果たすこと。アレクシアにとっての『価値』。
アレクシア
己は取り替えが聞く。そう思っている。
シャルルにとっての自分が、そうであることを知っている。
アレクシア
告げられた言葉を思い出す。
同じことだと思う。
シャルル
「此処に……至るまでは力があったんでしょう。」
シャルル
「それこそ、指先一つで人を殺せるような。……しかし、堕落の国ではそうはいきません。」
シャルル
世界が違う。
生きてきた世界が。
今いる世界が。
シャルル
何事もうまくやれない。
勝てない。
生き残れない。
シャルル
「まあ、余裕でもいられるんでしょう。この状況でも。」
シャルル
「その『心』が相手を翻弄するのもまた、ここならではでしょうが。」
アレクシア
「まあ、曲がりなりにも神と崇められるからには」
アレクシア
「揺れないんだろう……少なくとも、普通の人間よりは」
シャルル
彼女が倒れた時、自分はどうなるだろうか。
アレクシア
「死にに来たわけじゃないと言ったろう」
アレクシア
ここでも。あそこでも。
アレクシアではなくてもよかった。
アレクシア
だが、今、ここにいるのはアレクシアで。
アレクシア
もっと上手くやらなくてはならない。
そうでなければ価値がない。
シャルル
誰でもいいわけじゃなかった。
だけど、彼女の代わりが必要だった。
だから、上手くやった。俺は上手くやった。
アレクシア
アレクシアは。
アレクシアでなくてもできるであろうことを、望まれるまま果たすだろう。
アレクシア
アレクシアが特別選ばれたことはきっとない。
同じ形の歯車があれば、それで事足りる。
シャルル
直に決着がつくだろう。
何のことはない。
『神』は絶対でないという事が、あるいはアレが皆の言うところの『神』でないという事が証明されるだけ。
シャルル
この状況を覆し、たちどころに二人を葬って見せたなら。
それは、ちょっとだけ『神』ってやつを信じてやっても良くなるかもしれない。
シャルル
「あまり……いまいち興が乗らないというか。」
アレクシア
「それだけあの女王たちが手に負えない可能性が高いということだぞ」
アレクシア
狂乱の女王。
そのさまが、疵の深さを思わせる。
アレクシア
「泣かない。お前のように嘘泣きもしない」
シャルル
「ちょっとくらい引っかかってもいいかなって思いました。」
シャルル
「…………嫌ですね、気絶はしたくない。」
シャルル
「アナタがもし、心ない仕打ちを受けたらと思うと。」
アレクシア
倒れてなお、鉄の靴を受け続ける白い“かみさま”を見ながら。
シャルル
「私は嬲りがいないでしょうしねぇ……相手の方にもよりますが。まあそもそも負ける話はするなって話でもあるんですが。」
シャルル
「私の美しいアレクシア。紅茶は如何ですか?」
シャルル
目をそらさせたくとも、そらすことは……叶わないだろう。
アレクシア
軽く目を閉じて。開き。
再び中庭を見下ろして。