シャルル
メイドの声が響く。
次いで、『救世主』たちがやってくる。
シャルル
「鏡……女王……」
シャルル
入ってくるのは2人の女性で、なるほど、女王というのも納得の風格だ。
シャルル
後方に控えた首なしの死体が視界に入ると、アレクシアへと目を向ける。
アレクシア
一瞬。その目に怯えが走る。
だがそれは引き結んだくちびるにぐっと押し殺されて、視線は逸らさない。
シャルル
末路。つまり……あれは、おそらく『救世主』。
それに……あの服装には見覚えがある。
シャルル
メイドだ。自分たちの世話をしてくれるメイドと同じ服。
シャルル
『この世界では出身に御伽噺を持つ者が力を持ちやすい』
シャルル
桟敷川の言葉を思い出す。
シャルル
「御伽話……か。」
シャルル
「随分と悪趣味だな。」
アレクシア
言葉はなかった。くちびるを開けば、何かが崩れる気がして。
だから、ただ小さく頷く。
シャルル
続いて向かい側。
シャルル
「6号室。」
シャルル
「……トイトロール。」
シャルル
『勝者』であり『所有者』。
シャルル
あれがそうだろうか。
アレクシア
よく似た面差しの二人。
女王と鏡は口上で区別がついたが、こちらは、どちらがどちらか、今のところよくわからない。
シャルル
「コンディションは良くないみたいだな。」
アレクシア
一人の周囲には雪が降っている。
咳。くしゃみ。やや赤らんだ頬。風邪、のように見える。
シャルル
「あれが、俺たちの記憶を……」
シャルル
あまり、そうは見えないが。
アレクシア
彼、あるいは彼らが何をして、アレクシアたちはどうやって記憶を失ったのか。
それは、今、わかりはしない。
アレクシア
ただ、そうなのか、と思うほかない。
アレクシア
「…………」
アレクシア
まだ、アレクシアから、言葉はなかった。
シャルル
互いに交わされる会話の中に見て取れる『死』という単語。
改めて、この試合に賭けられたものの大きさを理解する。
シャルル
自分たちが生かされている事がイレギュラーなのだろう。
シャルル
「…………アレクシア。」
シャルル
隣を見る。
シャルル
見下ろす。
アレクシア
小さく。ほんのかすかに、震えている。
シャルル
そっと肩に触れる。
アレクシア
中庭だけを見ていたアレクシアの肩がびくんと跳ねた。
それから、シャルルを見上げる。
シャルル
「怖いか?」
アレクシア
「………………少、し」
シャルル
膝を曲げ椅子の隣にしゃがんで、今度は見上げるように。
シャルル
「ここにいるから。」
アレクシア
その言葉に、拳を握る。
それから頷いた。
アレクシア
「うん」
アレクシア
「……ありがとう」
シャルル
握られた小さな拳を包むようにして、上から触れ。
シャルル
「大丈夫だよ。」
シャルル
笑った。
アレクシア
こちらの表情は硬い。けれど、わずかにだけ、緩む。
アレクシア
「…………ありがとう」
アレクシア
もう一度、繰り返す。
シャルル
真実の鏡。
シャルル
そんなものが本当に存在するのだろうか。
シャルル
真実とは、いったい誰が決めるのだろう。
シャルル
それを決めるのがあの鏡なのだとしたら。
シャルル
それは、単なるいち評価に過ぎないのではないだろうか。
アレクシア
りんごの一番美味しい食べ方。ゆで卵の茹で時間。
アレクシア
馬鹿馬鹿しいような問いと、それに返る答え。
アレクシア
それが真実だというなら、それ以外は偽りなのだろうか。
アレクシア
りんごは好きなように食べればよいし、ゆで卵だってそうだろう。
アレクシア
真実を並べる鏡。それは、本当に?
シャルル
「鏡って……喋るんだな。」
アレクシア
「……本当に、鏡、なのかな……」
アレクシア
そもそも、立って歩くものは、どうなのだろう。
アレクシア
鏡。意思を持てば、主観というものが、どうしたって存在してしまうような気がするが。
アレクシア
『鏡は残念ながら、女王様の所有物ですので』……。
シャルル
「さあな。でも、本人が言ってるんだからそうなんじゃないか?」
アレクシア
「……、かな」
アレクシア
それこそ、真実はわからない。少なくともこの場では。
アレクシア
そして、鎖をつけた男が、もう片方を「トイトロール」と呼んだ。
アレクシア
「……雪、……の、ほうが、……トイトロール……」
アレクシア
小さな声。
シャルル
「…………。」
シャルル
ぽっかりとあいた記憶の穴。
シャルル
その、抜けた部分は今、どこにあるのだろう。
シャルル
『シャルル』と『アレクシア』は。
シャルル
「戯れ。」
シャルル
「……だったのかな。」
シャルル
見ている限り、そんなに強そうではないが……
ふたりは彼らに負け、消えた。
シャルル
それだけの力があるという事だ。
アレクシア
「…………」
アレクシア
また、少し黙る。
シャルル
「アイツが死んだら、どうなるんだろ。」
アレクシア
なにかしらが、二人のところへ返ってくるのか。
それとも、永遠に失われるのか。
シャルル
もし記憶が戻ったとして、今、こうして。
積み上げている記憶はどうなるんだろう。
アレクシア
「…………シャルルは」
アレクシア
「………………もし」
アレクシア
「もし、思い出したら、……」
アレクシア
思い出したら。
その後に何を尋ねればいいのか、途中で見失ってしまう。
シャルル
「…………どうだろうな。」
シャルル
「少なくとも、アンタを殺したり……死んだりはしないんじゃないかな。」
シャルル
恋人に見えた、と言われたのを思い出した。
シャルル
「わかんないけどさ。」
アレクシア
「……そう、ね」
アレクシア
「……わからない、……」
アレクシア
「……そうね」
シャルル
「あの、鏡だったらわかるのかもな。」
シャルル
本当か? 嘘くさいな。
アレクシア
救世主たちの去っていく中庭を見ながら、深く息をつく。
アレクシア
「もう、なくなっていたら……」
アレクシア
「何も、映らないのかも」
シャルル
「まあ……別に、俺は困ってないからいいけど。」
シャルル
「アレクシアは、困るか。」
シャルル
立ち上がる。
アレクシア
「……わからない」
アレクシア
アレクシアもまた、ゆっくりと立ち上がる。
シャルル
「椅子、持ってくから向こう座ってて。」
アレクシア
「……うん」
アレクシア
例えば。もしも。もしも、自分一人が思い出したとして。
アレクシア
そのとき、自分は……『アレクシア』は、何を思うだろう。
アレクシア
シャルルは、『シャルル』のことをさほど気にしていない。
アレクシア
けれど、『アレクシア』は、今のシャルルに。何を。
シャルル
椅子を元の場所、テーブルのそばまで運ぶ。
何というか、不思議な場だと思う。
真実で買えるもの……安心だろうか。
安心ってなんだ。俺にはよくわからない。
シャルル
モニターに映るのは、6号室。
シャルル
つまり、隣の部屋だ。
シャルル
そこまで映る歩いたばかりの廊下がそれを実感させる。
シャルル
「あ。もし戻る可能性があるんだったら……髪切ったの、まずかったかな。」
アレクシア
その言葉に、シャルルの短くなった髪を見る。
シャルル
「結構長かったし。伸ばしてたんだろ、たぶん。」
シャルル
何でか知らねーけど。
シャルル
邪魔だし。
アレクシア
「かなり、ざっくり、切ったもんね……」
シャルル
「だって邪魔だったからさ……乾かすのも面倒だし。」
アレクシア
それは、そうかもしれない。シャルルの性格からして。
アレクシア
性格。
数日でわかった気になるのはどうかとも思うが、シャルルは割合に短気だ。
アレクシア
自分の長い髪の先に、なんとなく、触れてみる。
アレクシア
自分も、切ってしまおうか。
そうしたら、何かに諦めがつくのかもしれない。
シャルル
「あと、俺目が悪いらしいから。髪が被ると余計見えなくってさ。」
アレクシア
「ああ……」
アレクシア
確かに、最初の日ほどきつい目をすることはあまりなくなった。
アレクシア
「……わたしも、……切ったら、なんか……」
アレクシア
口にしたくせに、最後まで言ってしまうのに躊躇った。
シャルル
「髪?」
アレクシア
「……ん」
シャルル
画面の向こうで、よく似た顔の二人が話している。
シャルル
短い髪と、長い髪。
シャルル
看病する側、される側。
シャルル
それが、全て同じだったとして……
シャルル
個人がわからなくなることは、ない気がして。
シャルル
「んー……。」
シャルル
じっとアレクシアを見る。
シャルル
「切りたいなら、切ってもいいとは思うけど。」
シャルル
「俺にとってのアレクシアは、アンタだけだから。」
シャルル
「うーん…………。」
シャルル
「どっちでも可愛いんじゃない?」
アレクシア
「かわっ、」
アレクシア
あからさまに動揺した。
アレクシア
そういうことが言いたかったわけではない。
アレクシア
予想外だった。
アレクシア
二秒かかって息を吸う。
アレクシア
「可愛いとか、……そういうことじゃなくて」
アレクシア
「なんて、いうか」
アレクシア
「……諦めが、つくのかな、って」
シャルル
「諦め……?」
アレクシア
「……『アレクシア』、に……」
シャルル
「なるほどね。」
シャルル
「…………つくかつかないかで言ったら。」
シャルル
「つかないんじゃね―の?」
アレクシア
「……………………」
シャルル
「別に、俺はつかなくてもいいと思うけどな。」
アレクシア
「っ、え」
シャルル
「取られたものを取り返したいって、別に普通の事だと思うし。」
シャルル
「…………まあ、不安なんだろうと、思うけど。」
アレクシア
「………………」
アレクシア
不安。それは、そうだ。
アレクシア
髪に触れていた手で、ようやく接きはじめた胸の傷の上を押さえる。
シャルル
「それを……どうにかするとは言えないな、俺には。できるかわかんないし。」
アレクシア
軽く目を閉じる。
アレクシア
「……大丈夫」
アレクシア
「あなたに、どうにかしてって、……そんなこと言うつもりは、ないから」
アレクシア
どこまでいっても、自分のことだ。
シャルル
「まあ、でも……そういうとこだと思うがね。不安って。」
アレクシア
「そういう、とこ?」
シャルル
「どうにかしてって言ってくれたら。」
シャルル
「突き放すようなことはしないって事。」
シャルル
「……別に。信用しろとは言わないけどさ。」
シャルル
「一人でいた方が、安心?」
アレクシア
「………………ううん」
アレクシア
首を振る。
アレクシア
「たぶん、……今、一人だったら」
アレクシア
「……怖くて、たまらなかったと、思う……」
アレクシア
最初は、シャルルのことも怖かった。
今も、怖くないとは言えない。
アレクシア
ただ、それでも。
アレクシア
一人では、たぶん。何ひとつ、動けなかっただろう。
シャルル
「それなら、もう少し甘えろよ。」
シャルル
「俺もその方が楽だし。甘えるのと、我が儘って違うだろ。」
アレクシア
「甘え、る」
シャルル
モニターの向こう、隣の部屋では我が儘をいって、相手に甘えているようだが。
シャルル
「痛いときは痛いって言っていいし、嫌な時は嫌って言えばいいし。」
シャルル
「怖い時は、目をそらしてもいい。逃げ出してもいい、でも。」
シャルル
「だから、助けてって言われたら、俺は……」
シャルル
「俺は、できるかどうかわからないけど。」
シャルル
「できる限りの事はするよ。」
アレクシア
「…………、」
アレクシア
黙った。
そして胸の内で、難しいことだ、と思った。
アレクシア
アレクシアには、そこまで言ってもらえる理由がわからない。
アレクシア
「……シャルルは」
アレクシア
「……どうして、」
アレクシア
言いかけて、閉じる。困ったように。
シャルル
「たぶん……。」
シャルル
「俺も、一人だったら。」
シャルル
手足もなく、出来ることもなく。
シャルル
「…………。」
シャルル
話し相手もなく、すべきこともない。
シャルル
「死んでただろうし。」
シャルル
尖った爪と銃だけがある。
シャルル
「今、俺の見える世界にあるのはアンタだけだから。」
シャルル
「好かれたいって思うのは、変かな。」
アレクシア
シャルルの言葉をゆっくりと噛み砕く。
アレクシア
それから、少しだけ困ったような目で、シャルルの目を、じっと見る。
アレクシア
「……変、では、ない、けど」
アレクシア
「……けど……」
アレクシア
数秒。シャルルの目を見た後、視線が落ちる。
シャルル
「…………。」
シャルル
困ったように目を伏せて。
シャルル
「怖かったよな。」
アレクシア
「……え、」
シャルル
「俺のこと。」
シャルル
最初はこうじゃなかった。
嫌われてもいいと思ってたし、気にしなかった。
それは甘えでもあったと思うし、好きにできる方がいいと思った。
シャルル
だが、ひとりきりになって気が付いた。
世界にひとりしかいなければ、そこに価値は発生しない。
紙屑も金塊もただモノとしてそこにあるだけ。
アレクシア
怖かった、と。
素直に言っていいものかどうか迷った。
今も、優しくされることがむしろ怖い。
そう思ってしまう自分がいる。
アレクシア
優しくされて、甘えて、それが裏切られることが怖い。
アレクシア
それは裏返せば、アレクシアがシャルルを嫌いきれてはいないということなのかもしれないが。
シャルル
「…………。」
シャルル
「…………あの、とき。」
シャルル
「楽しそうで……。」
シャルル
料理をしていた時の事だろう。
シャルル
「…………やっぱ、俺のせいだなって。」
シャルル
水晶だと思って触れたものが、張力で形を保っていた水だったような。
シャルル
「…………。」
アレクシア
黙ったシャルルに、ゆっくりと視線を戻す。
アレクシア
「……怖、かったよ」
アレクシア
「怖かった……」
アレクシア
それ以上、言葉にならない。
何を言っていいのか、わからない。
シャルル
「『ジョージィ・ポージィ プリンにパイ 女の子には キスしてポイ』」
シャルル
「メイドさんに、言われてさ。」
シャルル
「…………俺、自分の事しか考えてなかった。」
シャルル
「ごめんな。」
アレクシア
その、謝罪の言葉に。
小さく、息を呑む音。
アレクシア
「……あ、」
アレクシア
「……謝らなくて、……いい、から」
アレクシア
「……もう、いい、」
アレクシア
「生きてて、って、そう」
アレクシア
「わたし、そう言って、もういいって、言って……だから、」
アレクシア
ひどく細切れに言葉が連なる。
アレクシア
そして、行く先を見失ったように、途切れる。
シャルル
「うん。」
シャルル
「生きてるし、一緒にいる。」
シャルル
「捨てたりしない。」
アレクシア
また、深く息をする。
アレクシア
「……たとえば、咲さんも、マキナさんも、」
アレクシア
「……二人とも、わたしにはどうしようもないところで、……」
アレクシア
「……本当に、そうなるかは、わからないけど」
アレクシア
「あなただけが、……最後まで、たぶん、わたしと同じだけ、生きてて、くれる」
アレクシア
先ほどよりはいくらかましになった、それでも細切れの言葉たち。
アレクシア
「それでも……少しの間だけ、だろうけど」
シャルル
頷く。
シャルル
「一緒だよ。最初から……最後まで。」
シャルル
中庭で出会った時から。
シャルル
きっとここで、死ぬまで。
アレクシア
胸の奥。傷ではないところが痛い。
アレクシア
信じるのは怖い。でも。
アレクシア
それでも、一緒にいられるのはシャルルだけだ。
シャルル
『期待に応える事』『課せられたこと』『信ずるに値するもの』。
シャルル
『裏切り』『信頼』。
シャルル
結果なんて、それこそ死ぬまで分からない。
シャルル
「俺も……俺だって。」
シャルル
「別に、強いわけじゃない。」
シャルル
「一緒にいたいよ。最後まで。」
アレクシア
「……あ」
アレクシア
一緒にいたい。シャルルがそう言ったのは、たぶん、初めてだ。
アレクシア
「わたし、」
アレクシア
「……たぶん、本当に、何もできなくて」
アレクシア
「……、……ほんとうに、一緒にいる、だけしかできない、……きっと」
シャルル
「一緒にいてくれるのは。」
シャルル
「アンタにしかできないだろ。」
シャルル
代わりはいない。
アレクシア
「……、う、ん」
シャルル
「それに……」
シャルル
「スコーン、美味かったじゃん。」
アレクシア
「え……」
シャルル
「作ったんだろ。」
アレクシア
「……うん」
シャルル
「何もできなく……ないじゃん。」
アレクシア
「……っ、」
アレクシア
それはたぶん、とても些細なことだ。
アレクシア
けれど、確かに、アレクシアがしたことではある。
シャルル
「何もできなく、ないよ。できなくても、いいけどさ。」
アレクシア
一度。ぐっとくちびるを引き結ぶ。
そうでなければ、今、何故か、涙がこぼれてしまうような気がした。
アレクシア
数秒、間を置いて。
アレクシア
「……ありがとう」
アレクシア
「……一緒に、……いるから」
アレクシア
「わたし、も」
シャルル
「…………。」
シャルル
「ありがとう。」
アレクシア
「わたし、……たぶん、あなたが甘えられるほど、頼りには、ならないと思うけど」
アレクシア
「……ここに、いるから」
シャルル
「うん。」
アレクシア
「……できる、かぎり」
アレクシア
「頑張る、から」
シャルル
「…………嬉しいけど。頑張りすぎるなよ。」
シャルル
にこりと、微笑んで。
シャルル
扉の向こうを、女王と首なしの供が横切る。
シャルル
現在は過去を映す鏡。
シャルル
表情に、言葉に、心に。
過去は絡みつき捕らえようとする。
シャルル
だが今、この場所にそれはない。
シャルル
目の前にあるものだけが、真実だった。

シャルル
一日くらいは持つ程度の軽食。
パンとか、パウンドケーキとか。
保存食みたいなものもあるし、スープもある。
動きのない間にそんなものを軽くとったりして。
シャルル
そうして夜になる。
シャルル
小さな礼拝堂に、呼び出される男。
呼び出されるという事は、つまり……何らかの駆け引きがあるという事だ。
シャルル
小さな流しで洗い物をして、食器を重ねる。
水とかは大丈夫らしい。
シャルル
モニターを見て、水の注がれたグラスをふたつ、テーブルへ。
シャルル
「…………なんだ、誰も待ってないじゃん。」
シャルル
椅子に腰かける。
アレクシア
モニターを見ている。
ティモフェイの手に、虹の色が集っていくのを見る。
それに暗闇が照らされるのを。
シャルル
「誰だろう。」
シャルル
それははっきりと映っている。
このモニターが幻影やなんかを映すなら別だが
シャルル
「…………。」
シャルル
テーブルの上に、痛み止めの薬を置く。
アレクシア
「……ありがとう」
アレクシア
モニターから、一時だけ目を離して薬を手に取る。
アレクシア
そして、それから。
アレクシア
「……マルタ?」
シャルル
「参加者じゃないとおもうけど……何だろう。」
シャルル
「魔法……とか?」
シャルル
童話、おとぎ話。
シャルル
不可思議な現象。
シャルル
「…………。」
シャルル
動きが、変だ。
シャルル
入場からここまで、興味の薄そうだった男の目が。
シャルル
光を灯したような。
アレクシア
どうして、と。そう尋ねる女。
アレクシア
「……見ず知らず、には……見えない、けど」
シャルル
「あれかな、ほら。最初の……鏡?」
アレクシア
「……どう、だろう」
アレクシア
「何を、映したら、……」
シャルル
「うーん…………。」
シャルル
『どうして、わたしじゃなかったの?』
アレクシア
なんらかの儀式を、かつて、破綻させたのだと。
昼間の彼は、そう言っていて。
シャルル
『一度、戸惑ったのにか』
シャルル
『失敗したのにか』
シャルル
女王の問いを反芻する。
アレクシア
「…………」
アレクシア
それを。……今、あの場に立っている、彼女を。
アレクシア
『どうして、わたしじゃなかったの?』
アレクシア
……選ばなかったのだろう、と。
アレクシア
それが、どういうものなのかは、わからずとも。
アレクシア
そう、思った。
シャルル
「これが…………『お茶会』か。」
シャルル
ここまでも、見てきたが……
シャルル
これは、あまりにも異質な光景だった。
アレクシア
凍りついたような。それでも、何かが渦巻いているような、彼の姿。
シャルル
自分には、彼のことは何もわからない。
シャルル
明らかに様子がおかしい。
ペースが乱されている。
シャルル
だが…………。
シャルル
まだ、壊れてはいない。
シャルル
殺気を向ければ気が付くだろう。
シャルル
戻れる場所にいる。まだ。
アレクシア
『違う』と。
『違うと、思って』と。
アレクシア
その声の宿す、色。
アレクシア
どうしようもなく。それは、おそらくは。
変えられないものへの、言い訳じみて。
シャルル
「…………ふぅん。」
シャルル
アレクシアを見る。
シャルル
選ぶ。連れて逃げる。
シャルル
『きみは、俺の愛する人だから』
シャルル
『愛』ってなんだろう。
シャルル
もし、『アレクシア』が本当に……
『シャルル』の恋人だったのだとしたら。
シャルル
彼は選んだのか。
彼女を。
この……儀式のパートナーに。
シャルル
「趣味悪。」
アレクシア
ふと発された言葉に、ぱちんと瞬いてシャルルを見る。
アレクシア
「どうしたの、いきなり……」
シャルル
「ん? ああ……。」
シャルル
「例えばさ。アレクシアが今、死んで。」
シャルル
「死んだのわかってるところに、またアレクシアが来たらさ。」
シャルル
「…………。」
シャルル
「…………辛いよ。」
シャルル
俺だったら、殺しちゃうかもしれないけど。
アレクシア
「……………………」
アレクシア
同じことを、考えてみる。
シャルル
だって、目の前に立ってたら。
シャルル
何を信じていいか、わからなくなる。
アレクシア
今、シャルルが死んで。そして、目の前にもう一度、現れたら。
アレクシア
自分なら、どうするだろう。
何を思うだろう。
アレクシア
「……………………、」
アレクシア
シャルルが、ああして。
アレクシアの首を絞めるなら。
アレクシア
マルタと呼ばれた何者かの声。言葉。
アレクシア
「…………どうして選ばなかったの、……か……」
シャルル
「アレクシアは…………でも。」
シャルル
「そんなこと言わないな。」
アレクシア
「……そう、かな」
シャルル
「言う?」
アレクシア
「……わかん、ない」
アレクシア
「…………言いたく、ない、けど」
アレクシア
モニターに目を移して。
アレクシア
「……言いたく、ないよ」
アレクシア
もう一度、そう言う。
シャルル
「…………言いたくないか。」
アレクシア
「言わないって、……言えないけど」
シャルル
「ま。」
シャルル
「言われるようなことは……しないつもりだけど。」
シャルル
「というより」
シャルル
「アレクシアだけが死ぬって事はないと思う。」
シャルル
「俺はさ。」
シャルル
「選ばなくてもいいよ。アンタが自分を選んでくれた方が……嬉しい。」
アレクシア
わずかに押し黙る。数秒。
アレクシア
「……わたし、」
アレクシア
言いかけて、もう一度黙る。
アレクシア
たぶん。
アレクシア
選べるのなら、アレクシアは、シャルルを選ぶだろう。
アレクシア
そんな気がする。
アレクシア
分かたれる二人を画面に見ながら、静かに、自分の呼吸を数える。
シャルル
「他にないから。」
シャルル
「俺には、アンタの他に、何もない。」
アレクシア
「…………それは」
アレクシア
「……同じでしょう」
シャルル
「いや。」
シャルル
「そうかな……。」
シャルル
「そう?」
アレクシア
「そう」
シャルル
「そうなんだ。」
アレクシア
「……それじゃ、いけない?」
シャルル
「…………いや。」
シャルル
「そうか…………。」
シャルル
何事か考えるように。
シャルル
目を伏せて、数秒
シャルル
「今、ちょっと考えたんだけど。」
シャルル
「…………。」
シャルル
「うん…………やっぱ、いいや。」
アレクシア
「…………何?」
シャルル
「ちょっと、落ち込むから。」
シャルル
「聞かないでおく。」
アレクシア
かすかに首を傾げる。
シャルル
「寝るか。明日も……あるんだろうし。」
アレクシア
「………………」
アレクシア
「……うん」
アレクシア
それ以上は聞かなかった。
シャルル
「薬、ちゃんと飲んでからな。」
シャルル
当たり前だけど、自信がなかった。
シャルル
俺じゃない方がよかったかって。
他に、選択肢があるのなら。
シャルル
当たり前だ。
シャルル
それこそ、咲とかマキナの方がよかったに決まってる。
シャルル
「…………おやすみ。」
アレクシア
「……うん。おやすみなさい」

シャルル
そうして、考え事をしているうちに。
シャルル
夜が明けてしまった。
シャルル
どうやら『シャルル』は一晩くらいなら寝なくても問題ないらしい。
シャルル
朝が来て、体を起こして。
シャルル
適当に水をかぶりに行く。
シャルル
シャワーの音。
アレクシア
一方で、アレクシアはまだ目覚めない。
アレクシア
痛み止めはある。効いてもいる。
それでも、痛みのすべてが失われるわけでもない。
半ば気絶するように眠りに落ちて、戻ってくるのが難しい。
シャルル
過去の事が何もわからない。
別に、わからなくていい。
だけど、今の自分のことくらいはわかっておいた方がいい。
シャルル
「やっぱり。別に……よくないか?」
シャルル
俺じゃない方がいいって言われたって。
シャルル
ここにいない方がよくたって。
シャルル
他の誰かだって。
シャルル
でも、そう考えると何か変な感じになる。
シャルル
変な感じだ。
シャルル
乾かすのが楽になった筈の髪も濡れたまま、適当に服を着て戻ってくれば、モニターに4人の救世主が映っている。
シャルル
「美しい者。」
シャルル
ベッドに歩み寄り、声をかける。
シャルル
「アレクシア。」
アレクシア
「ん、……」
アレクシア
薄く、目が開く。
シャルル
「始まってるよ。」
シャルル
「具合はどう?」
アレクシア
「…………少し、何か食べたら」
アレクシア
「薬、飲む……」
アレクシア
起き上がる。
シャルル
「スープあっためるわ。」
アレクシア
「……、ありがと」
アレクシア
ありがとう、という前に、いつも、少し詰まる。
アレクシア
つい、ごめんなさい、と言いそうになる。
アレクシア
そうして、ベッドから、テーブルへ。
シャルル
昨日より少しだけ濃くなった温かなスープ。
そして、軽くトーストされたパン。
シャルル
それらを運ぶのにも、だいぶ慣れたものだ。
シャルル
「美しさの話だ。」
シャルル
「なんか、さっきティモフェイってやつが鏡に聞いててさ。」
シャルル
「それで、ほら。聞きたくなかったんじゃないの?あの……女王様。」
シャルル
自分で言っておいて、すこし、昨晩の事を思い出してむっとなった。
アレクシア
「一番綺麗、……」
アレクシア
トイトロールの言葉を繰り返す。
アレクシア
「……一番?」
シャルル
「残った8人の救世主の中でだってさ。」
アレクシア
「……ふうん……」
シャルル
「バターいる?」
アレクシア
「……あ、うん……」
アレクシア
答えながら、視線は手元とモニターを往復する。
アレクシア
「綺麗、か……」
アレクシア
「綺麗だと、思うけど」
アレクシア
だからどう、というのはよくわからなかった。
シャルル
バターに生クリームを加えて泡だて器で混ぜる。
シャルル
声を聞いてはいるが、画面を見てはいない。
シャルル
「まあ、綺麗なんじゃない?」
シャルル
「でもタイプじゃないな。」
アレクシア
どう答えていいかわからなかったので、何も言わず。
スプーンを手にしてスープに取り掛かった。
シャルル
小さな器に盛ったホイップバターをテーブルへ。
シャルル
そして、紅茶のカップ。
シャルル
ようやく席につく。
アレクシア
時たま痛みのせいか手が止まるものの、アレクシアの所作は基本的に丁寧で美しい。
シャルル
「メイドさんの方が綺麗だし。」
アレクシア
「……メイドさんも、綺麗ね。……親切だし」
アレクシア
特に含みもなく、ほのかに笑う。
シャルル
「いろいろ教えてくれるし、料理は美味いし……」
シャルル
適当にパンを割りながら、アレクシアを見て。
アレクシア
聞きながら、珍しくくすくすと笑っている。
シャルル
「……ん?」
アレクシア
「え、……何か、気になった?」
シャルル
「いや。笑ってるから。」
アレクシア
「あ……えっと」
アレクシア
「嫌だった?」
シャルル
「いや。」
シャルル
「可愛いなって。」
アレクシア
「っ、」
アレクシア
止まった。
シャルル
「そっちこそ、何か?」
アレクシア
「いや……なん、ていうか」
アレクシア
「……楽しそうだなと、思って」
シャルル
「そう?」
シャルル
手が止まる。
シャルル
「……そうかも。」
アレクシア
「だから、……なんか」
アレクシア
「……うーん……」
アレクシア
なんと言ったものか。
アレクシア
「そういうの、……なんだか、少し、息が抜けるような気がして」
アレクシア
「シャルルが楽しそうだと、」
アレクシア
「少し……」
アレクシア
「嬉しい、……?」
アレクシア
よくわからないものを、ゆっくりと、辿るような言葉。
シャルル
「そうなんだ。」
シャルル
「いや、俺あんまりじっとしてるの得意じゃないっぽいからさ。」
シャルル
「話してたり、こうやって何かしてる方が楽しいのかも。」
シャルル
「俺は、アレクシアが笑うと嬉しいよ。」
アレクシア
「………………え、っと」
アレクシア
言っておいて。自分に同じような言葉が戻ってくると、戸惑う。
シャルル
「はは。」
シャルル
「それに……アレクシアって手先が器用だし、スコーンもおいしく焼けるし……」
シャルル
「メイドさんに負けてないと思うけど。」
アレクシア
「待っ、……」
アレクシア
「……やめ、……て、ほしい……」
アレクシア
片手でシャルルの視界を遮る。
シャルル
「ん……」
アレクシア
「そういうの、」
アレクシア
「なんか……」
アレクシア
「こ、まる、……」
シャルル
「あー……。」
シャルル
「照れる?」
アレクシア
返答はない。
アレクシア
ほんのかすかに、呻くような音。
シャルル
「っはは。」
シャルル
「ごめん、別にからかってるとかじゃなくて……ただ、そう思ったからさ。」
シャルル
そのまま、少し落ち着かせるように。
気をそらせるように。
バターをのせたパンを口に運んで。
アレクシア
少しだけ間を置いて、アレクシアもシャルルに突き出した手のひらを引き戻す。
溜息。
アレクシア
画面の向こうでは、温室の4人が物別れに終わっていく。
シャルル
「…………。」
シャルル
スープもパンもメイドが用意したもので、味は申し分ない。
シャルル
画面の向こうには6号室の2人。
シャルル
その顔を見るたびに『所有物』という言葉がちらつく。
シャルル
自分の首に手で触れる。
シャルル
首輪。
シャルル
それは、目に見えるものとは限らない。
シャルル
本当に首輪がついているのはどちらだろう。
アレクシア
一度部屋に戻った二人が、再び廊下へ出る。
アレクシア
中庭へ向かっていることを、途中で悟った。
アレクシア
「……『裁判』は、……昼から、だった、よね」
シャルル
「そのはずだな。」
スープに浸したパンを食べながら。
シャルル
「…………。」
シャルル
剣の交わるのを見る。
アレクシア
雪。虹。
閃いてはぶつかる。
アレクシア
トイトロールには激情が見える。
アレクシア
ティモフェイは、……どうだろうか。
シャルル
「稽古ってより……これは。」
シャルル
「喧嘩だな。」
アレクシア
「うん……」
アレクシア
また。
アレクシア
また、『どうして』、だ。
アレクシア
昨夜と同じ問いが、別のくちびるから投げかけられている。
シャルル
「俺、思うんだけどさ。」
シャルル
「悪いのってほんとにアイツなのかな……。」
アレクシア
「……?」
アレクシア
少し。モニターから目を離して、シャルルを見る。
シャルル
「昨日の女も、アイツも……責めるような事を言ってる気がするけど。」
シャルル
いや、詳しい事情なんて知らないけどさ。
アレクシア
「………………」
アレクシア
「わからない、けど」
アレクシア
「本当に悪いかどうかは、きっと、……もう、関係ないんじゃ、ないかな……」
シャルル
「そうか……そうだな。」
アレクシア
「誰かが悪いってことに、しておかないと」
アレクシア
「それが、たとえ、自分でも」
アレクシア
「……そうでないと、たぶん……」
アレクシア
「耐えられないんだと、思う」
シャルル
「…………そうか。」
シャルル
自分にはよくわからないのだろう。
耐えられるとか、耐えられないとか。
アレクシア
『マルタを殺した』
『それで、人々が、救われる』
『正しいと、マルタは、笑った!』
アレクシア
声が。おそらくは、きっと。彼が、本当は誰にも聞かせたくはない言葉が。
アレクシア
聞こえて、響いて。
シャルル
「…………。」
シャルル
手が止まる。
アレクシア
昨夜の会話を、思い出す。
アレクシア
アレクシアは、たぶん。
アレクシア
それでシャルルが救われるなら、それが正しいと、そう、思う。
思ってしまうような、気がする。
シャルル
「…………。」
シャルル
「犠牲……か。」
シャルル
「間違いって、なんなんだろうな。」
シャルル
真実と、間違いと。
アレクシア
「……………………」
アレクシア
画面をじっと見つめながら。
アレクシア
「……最後は」
アレクシア
「自分で決めるしかない」
アレクシア
「……きっと」
シャルル
そう。真実も間違いも主観でしかない。そんな気がする。
シャルル
「間違いだって思ったら、たぶん辛いだろうな。全部……自分の事。否定するのは。」
アレクシア
「……うん」
シャルル
「…………。」
シャルル
アレクシアを見る。
シャルル
最後まで一緒にいる。
シャルル
最後まで。
シャルル
「辛くなったら、言うから。」
シャルル
「アンタも言えよ。」
アレクシア
かすかに笑って、シャルルを見る。
アレクシア
「……うん……」
アレクシア
その応えが真実かどうかは、わからない。
シャルル
「やっぱ……」
シャルル
「笑った方が可愛いな……」
シャルル
「あっ、いや……ごめん。」
アレクシア
ぱち、と瞬いて。
今度は、ふ、と笑み崩れる。
アレクシア
「……褒めなくても、いいのに」
シャルル
「本気で言ってんの。」
アレクシア
「え?」
シャルル
ふふ、と笑って。
シャルル
行儀がいいとは言えないが、スープの器を両手で口元に運んだ。
アレクシア
別段、それを気にはしない。
ただ、首を傾げる。
アレクシア
「……なんで、笑うの」
シャルル
「別に。」
アレクシア
「………………」
アレクシア
追求しようとして、やめる。
アレクシア
今は、別に。それでもいいか、と思った。
シャルル
「スープ、美味いな……」
シャルル
今度教わろうか。
いつ作るのって話なんだが。
シャルル
記憶は多いに越したことはない気がする。
シャルル
食べ終わってしまえば、先に席を立つことはなく。
アレクシアの食べるのを見る。
アレクシア
アレクシアもさほど間を置かずに、食事を終える。
アレクシア
机に置いたままの痛み止めを手に取った。
シャルル
席をたつと空になった食器を重ねて流しへ。
代わりに水の入ったデカンタとグラス……。
シャルル
と。
シャルル
パリンと音を立てて、バルコニーに通じる扉のガラスが割れる。
シャルル
音を遮るものがなくなれば、その音は大きく。
シャルル
「うわ。」
シャルル
デカンタとグラスをテーブルに置いて。
アレクシア
「っ!!」
アレクシア
悲鳴にはならなかったけれど、はっきりと息を呑む。
シャルル
小さく声をあげたものの、そう驚くことはなく。
シャルル
「そこにいて。見てくる。」
アレクシア
「う、ん、」
シャルル
「あ、薬。飲んどいて。」
シャルル
それだけ言うとバルコニーへ。
シャルル
幸いというかなんというか。
シャルル
足に破片が刺さる心配はない。
シャルル
破片は部屋の向こう側へと落ちたようだ。
外からの攻撃ではなく、ガラスそのものに対する干渉。
シャルル
とはいえ、まったく落ちていないわけではない。
シャルル
頭上に欠片が残っていないことを確認して、バルコニーに出る。
シャルル
「『お茶会』か。」
シャルル
鏡だと言っていた、それが……
シャルル
その様子はモニターにも映っているだろうが。
シャルル
実際に見下ろす光景は、やはり実感を伴う。
シャルル
ざっと下を確認してから残っている破片を落として
シャルル
「…………。」
アレクシア
「……シャル、ル」
アレクシア
やや不安げな声が、室内から呼ばわる。
アレクシア
モニターは見えている。
アレクシア
血の色が。
アレクシア
「………………、」
アレクシア
「始まる、……ん、だよ、ね」
シャルル
「ああ。」
シャルル
「座ってて。先に片付けるから。」
アレクシア
「……ん」
アレクシア
「片付け終わったら、そっちに、行くから……」
アレクシア
息を吸って、吐き。
アレクシア
「隣に、いて」
アレクシア
歓声が聞こえ始める。
彼らの『裁判』を待ち望んでいた観客たちの声が。
シャルル
軽く床を片付けて
シャルル
自分の座っていた椅子を、先にバルコニーにおいて。
シャルル
「床、危ないから。」
シャルル
アレクシアに歩み寄り、膝をついて。
シャルル
両手を差し出す。
シャルル
「一緒にいるよ。」
アレクシア
「……うん」
アレクシア
「一緒に、いてね」
シャルル
「お手をどうぞ?」
シャルル
「向こうまで、つれてくよ。」
アレクシア
不安にこわばった顔。それでも、無理矢理に笑う。小さく。
アレクシア
「ありがとう」
シャルル
「俺も……」
シャルル
「一緒にいられた方が、いいから。」
シャルル
「ありがとう。」
シャルル
ざらりとガラスが避けられた床を、バルコニーまでエスコート。
アレクシア
シャルルに委ねる。
シャルル
そっと、バルコニーの椅子に下ろして。
シャルル
「…………。」
シャルル
これから始まるのは『裁判』。
シャルル
相手を倒すために凶器をぶつけ合う、試合だ。
シャルル
隣にしゃがみ込んで、顔色を窺う。
アレクシア
血の気のない顔。
小さくくちびるを噛んで、聞こえる歓声にかすかに震え。
アレクシア
それでも、中庭の四人からは目を逸らさない。
シャルル
「……手。」
シャルル
「握ってようか?」
アレクシア
ちら、とだけシャルルを見て。
アレクシア
おずおずと、手を差し出す。
シャルル
「冷たいかもだけど。」
シャルル
差し出された手を両手で握る。
シャルル
直接触れているわけではないけれど、きっと。
シャルル
支えにはなれる気がして。
アレクシア
その、冷たい手に。
わずか、縋るように。
アレクシア
それでも、布はいらないと言ったとおりに。
アレクシア
ただ、開廷を待っている。

シャルル
裁判が始まる。
シャルル
ガラスの破片が光を反射して、舞台を彩る。
シャルル
美しく、それでいて。
シャルル
触れれば肌を傷つける。
シャルル
「…………。」
シャルル
アレクシアの手を握って。
シャルル
既に、赤く染められた舞台を。
シャルル
見下ろしていた。
アレクシア
「……………………」
アレクシア
すでに血に濡れたティモフェイが。
アレクシア
『おまえに罪はない』。
アレクシア
そう言う。
アレクシア
裏を返せば、それは。
自分には罪があると、きっと、そういうことなのだろう。
シャルル
「…………罪。」
シャルル
アレクシアを見る。
シャルル
この儀式を発動したのは、果たして罪だろうか。
シャルル
いや、それを望んでいた者が確かにいる。
シャルル
真実とは。
シャルル
「……っていうのも、やっぱりさ。主観だよな。」
アレクシア
「……そう、かな……」
シャルル
「だって、ここで……相手を殺すのは。」
シャルル
「罪にはならないだろう?」
アレクシア
「……………………」
アレクシア
アレクシアからの答えはない。
アレクシア
今のアレクシアには、『アレクシア』がどこでどんなことをしていたのか、何を思い、どんな環境で生きてきたのか。
なにもわからない。
アレクシア
けれど、それでも。
アレクシア
殺すこと。
アレクシア
それを、罪だと。
アレクシア
そう思う、あるいは思ってしまう、自分を感じている。
シャルル
「…………アレクシア。」
アレクシア
「うん……」
シャルル
「隣にいるよ。」
シャルル
微笑んだ。
アレクシア
「……うん」
アレクシア
たぶん。アレクシアには罪がある。
自分が、そう思う以上は。
アレクシア
シャルルの笑みを、今は見なかった。
ただ、中庭を見ている。
シャルル
「…………。」
シャルル
その手は冷たいのだろうか。
シャルル
熱を持っているだろうか。
シャルル
前者な気がする。
シャルル
この試合で、誰かが死ぬ。
シャルル
その時、彼女は……。
シャルル
アレクシアは、どんな思いを抱くのだろうか。
シャルル
「…………あ。」
シャルル
トイトロール。
シャルル
あれは……
アレクシア
帽子を被った、それは。
アレクシア
『無垢な信頼だ』
『だが』
『わたしも信じているのでね』。
アレクシア
「…………わ、たし、」
アレクシア
いや。『アレクシア』。
アレクシア
音高く鳴る杖。
アレクシア
信じている。それは。
シャルル
「アレクシア……あれが。」
シャルル
今、隣にいるアレクシアからは想像できない、堂々とした佇まい。
シャルル
あれが、『アレクシア』。
儀式を発動させた女。
アレクシア
心臓が痛い。
アレクシア
激しく脈打っている。
アレクシア
信じている。何を?
あの『アレクシア』は、何を、信じて。
シャルル
互いをに声を掛け合う、想いのぶつかり合い。
シャルル
これが、裁判。
シャルル
「…………。」
シャルル
俺も、いや。『シャルル』もあの場に立っていたんだ。
シャルル
さっきの、『アレクシア』と一緒に。
アレクシア
浅く細い息が繰り返される。
手のひらが、指が、まっしろになるほど強く、シャルルの手を握っている。
シャルル
アレクシアの手を見る。
シャルル
その顔を。
シャルル
かける言葉はない。
シャルル
ただ、冷たい手で握り返すことしか。
アレクシア
『どうにかしてって言ってくれたら』。
『助けてって言われたら』。
アレクシア
言ってしまいたい。
傍らのシャルルに、縋ってしまいたい。
アレクシア
でも、できない。
アレクシア
今そうしたら、だめだ。
アレクシア
ただ、触れた手だけが。
縋りたいその気持ちを、溢している。
シャルル
『救うこととは、選ぶこと』
『選ぶこととは、捨てること』
シャルル
救いってなんだ。
シャルル
隣で苦しむ女を、どうして救えばいい。
シャルル
俺には選ぶことも、捨てることも。
シャルル
出来ない。何を?
シャルル
俺には何もできない。
シャルル
ただ……ここに。
シャルル
隣にいることを除いては。
アレクシア
怖い。怖い。どうしようもなく。
アレクシア
血と雪の舞う戦いそれ自体も、そこにある狂気も。
アレクシア
そして何よりも、雪の中にいた『アレクシア』が。
シャルル
『心なんてないと思っていた』
『こんなところに、落ちてきちまったのが運のつきよ』
『死に恐怖はない』
シャルル
おおかた。
シャルル
そんなところだろうと思っていた。
シャルル
だけど。
シャルル
『思っていた』ってなんだよ。
『ただ』ってなんだよ。
シャルル
『運のつき』って……なんだよ。
シャルル
「『シャルル』……」
アレクシア
ほとんど、息が止まったような。
顔色は蒼白。
アレクシア
『ただ』。
アレクシア
その後に続く言葉はわからない。けれど。
アレクシア
彼は。『シャルル』は。
アレクシア
『アレクシア』と居たことを、悔いていただろうか。
シャルル
心ってなんだよ。
シャルル
なんなんだよ。
シャルル
「…………あれは。」
シャルル
『真実』なのか?
シャルル
「…………。」
アレクシア
シャルルの名前すら呼べなかった。
たとえ助けを求めたくても、声は出ない。
アレクシア
ただ、目を逸らせずにいる。
アレクシア
逸らさずに、いる。
シャルル
「…………。」
シャルル
あの2人に、負けたんだ。
『シャルル』と『アレクシア』は。
でも、ああやって……共に戦った。きっと。
何のために?
シャルル
『生きるだけ』
シャルル
生きるって、何だ。
シャルル
アレクシアを見る。
シャルル
そこにいる。それだけ?
シャルル
『価値などない』。本当に?
シャルル
――しかし、そこに。
  『シャルル』が刻みたかったものはなかった。
シャルル
それでも。
シャルル
冷たい手を引き寄せて、頬を寄せた。
シャルル
ここにいる、ただ、それを伝えるために。
シャルル
ここにいる、ただ、それを確かめるように。
アレクシア
びく、と震える。
シャルルの頬の、その温度に。
アレクシア
視線が彷徨う。
シャルル
「……『俺』は、ここにいる。」
シャルル
「アンタも、ここにいてくれ。」
アレクシア
声が、出ない。
シャルル
『シャルル』に心があったなら、きっと。
シャルル
『俺』にだってある。
シャルル
「いてほしい。アンタに。」
アレクシア
「わ、たし、」
アレクシア
ようやく、擦り切れるような声。
アレクシア
「……『わたし』、は」
アレクシア
どうしたい。どうすればいい。
シャルル
触れた頬は手よりも温かく、柔らかい。
シャルル
むき出しの肌、金属の鎧はそこにない。
アレクシア
その頬に。
金属の手のひらではわからなかったであろう、震えが伝わる。
シャルル
「でも…………。」
シャルル
「…………アンタの望みの方が。」
シャルル
「俺は、聞きたい。」
シャルル
そのまま、震える指先に唇をよせて。
シャルル
「壊したく、ないから……。」
アレクシア
「っぁ、……う、」
アレクシア
答えなければと思えば思うほど、言葉にならなくて。
アレクシア
「……わたし、……わたし、」
アレクシア
「……っ、」
アレクシア
それこそ。
壊れてしまいそうな気持ちがして。
シャルル
立ち上がる。
シャルル
横から、肩を引き寄せるようにして、抱きしめた。
シャルル
すこし、かがむようにして。
アレクシア
「あ、」
シャルル
「アンタは、アンタだ。」
シャルル
「俺は……アンタを、まもりたい。」
アレクシア
震える手が。
その指先が、そっと。
アレクシア
シャルルの服の、胸元にかかる。
アレクシア
抱き返すことも、強く引くこともない。
ただ、ほんの小さく。
アレクシア
小さく、かすかに。
アレクシア
もしかしたら、わからないほど。
シャルル
頭を引き寄せる。
シャルル
温かい。冷たい。
シャルル
ここにいる。
それだけ……いや『彼女』が『彼女』であるからこそ。
シャルル
死ぬとか、死ねとか。
シャルル
飛び交う舞台の、傍らで。
シャルル
この『心』を壊したくないと思っている。
シャルル
「……こっち、向いて。」
アレクシア
シャルルの胸に額を付けたまま、うつむいて、かすかにだけ、首を振る。
シャルル
「嫌?」
アレクシア
「……そうじゃ、なくて」
アレクシア
「でも、……」
シャルル
「…………。」
シャルル
髪を梳くように、頭を撫でる。
アレクシア
その感触に。
胸に寄せた額が、ぎゅっと、さらに強く、押し付けられる。
シャルル
細い金の髪は、指先に絡まらない。
シャルル
ただ、その小さな頭を見下ろして。
シャルル
撫でている。ここにいるよと、示すように。
アレクシア
そうして、確かに示される。
そこにいること。そこにいてくれること。
アレクシア
やがて、ゆっくりと。
アレクシア
どこか怯えたようにも見える瞳で、シャルルを仰ぐ。
シャルル
「…………。」
シャルル
膝をついて、すとんと。
シャルル
それでも、座っているアレクシアには十分な高さで。
シャルル
顔を近づける、額を合わせる。
シャルル
「怖い時は、俺だけ見てればいい。」
アレクシア
その瞳を見る。
シャルル
「まもるから。」
シャルル
真っすぐに、目の前の瞳を見て。
シャルル
アンタの全部を。アンタの心を。
アレクシア
「………………」
アレクシア
「うん」
シャルル
『ジョージィ・ポージィ プリンにパイ 女の子には キスしてポイ』
シャルル
捨てたりしない。ずっと一緒だ。
ここに、ずっといる。死ぬまで。
消えてなくなるまで。
いらないって言われるまで。
シャルル
『心』があるなら。
『愛』があるなら。
これが、そうだといいなと、思った。
シャルル
「…………。」
シャルル
合わせた額から伝わる温度。
これが、生きているということ。
俺もアンタも生きている。
シャルル
ボロボロになりながら、舞台の上で『救世主』が躍る。
シャルル
『シャルル』も『アレクシア』も好きにすればいい。
勝手に使えばいい。
シャルル
「……俺は、アンタがいればいい。」
アレクシア
「……シャルル……」
アレクシア
名前だけがこぼれる。
シャルル
「うん。」
アレクシア
「………………」
アレクシア
「わたしは」
アレクシア
「もしかしたら、ここで、死んでしまうまで」
アレクシア
「同じように、言えないかも、……しれない」
シャルル
「いいよ。」
シャルル
「全部、全部。何しても。何を言っても。言わなくても。」
シャルル
「俺は、それを……受け止めるから。」
アレクシア
『罪人だよ』
『ほんとうなら、あの日に俺は処刑されていた』
『救えなかった罪を問われて、殺されていたはずなんだ』
アレクシア
アレクシアは。
『アレクシア』と『シャルル』は、この儀式に敗北して、ほんとうは死んでいた。
そのはずだった。
アレクシア
『アレクシア』も、『シャルル』も。
互いを救えなかったのかもしれない。
アレクシア
二人が何を考えていたのか、わからない。
アレクシア
もしかしたら、二人でいた事を悔いていたかもしれない。
アレクシア
それでも、今。
ここにいる、アレクシアとシャルルは。
アレクシア
「シャルルは……もっと、自分のこと、考えても、いいよ」
シャルル
「…………考えてるよ。」
シャルル
自分の事しか、考えていない。
シャルル
わかってる。
シャルル
「アンタがここにいてくれることが。俺の……望みだから。」
シャルル
「……本当に、自分のことばかりだ。」
アレクシア
「……そんなことない」
アレクシア
「わたしはここにいて」
アレクシア
「どこにもいかない」
アレクシア
「だから、」
アレクシア
「…………」
アレクシア
続く言葉はない。ただ、ほんのかすかな微笑。
シャルル
機械の手で頬に触れる。
シャルル
「アレクシア。」
アレクシア
「……何?」
シャルル
「アンタが好きだ。」
アレクシア
「…………、」
アレクシア
静かに、シャルルの目を見ている。
アレクシア
やがて、ふと、目を伏せる。
アレクシア
言葉はなかった。
シャルル
「…………。」
シャルル
「それだけ。だから……俺は。」
シャルル
「俺は…………。」
アレクシア
「……ん」
アレクシア
『わたしは君の過去を知らん』
『だからわたしは、きみの行いできみを判ずる』
『わたしにできることはそれだけで』
『わたしもまた、きみがそうするのを妨げない』
アレクシア
声。『アレクシア』の。
アレクシア
今、二人には、この部屋での過去しかなくて。
アレクシア
だから、きっと。
アレクシア
それは、その言葉は、同じ。
アレクシア
辿り着くものも、もしかしたら。
シャルル
『俺にとっては』
シャルル
ああ、そう。俺も。そうだよ。
シャルル
『日常だ』
シャルル
ここしか知らない。今しか知らない。
アレクシアと、メイドと、ほんの小さな世界しか知らない。
お茶会と、裁判とがあって。
『救世主』がいて。それしかわからない。
シャルル
でも、きっと。
シャルル
そうじゃなかったとしても。
シャルル
アレクシアを好きになった。
シャルル
そんな気がする。
シャルル
でなければ、こんなに。こんなにも……
傷つけることを恐れる事なんて、なかっただろう。
シャルル
『こんなところに、落ちてきちまったのが運のつきよ』
シャルル
ああ、そうか。『シャルル』も……
シャルル
でも、これは……俺のだ。
シャルル
俺のものだ。
シャルル
もう一度、抱きしめる。
シャルル
強く。
アレクシア
ためらいがちな手のひらが。
そっと、シャルルの背に触れる。
シャルル
「……一緒にいたい。」
シャルル
たとえそれが、あと僅かな時間だとしても。
アレクシア
「……ここに、いるよ」
シャルル
「…………うん。」
シャルル
判決が下される。
見ていようとも、見ていなくとも。
シャルル
雪が降っている。
シャルル
冷たい空気の中で、アレクシアの体温を感じる。
シャルル
顔をあげて。
シャルル
「…………。」
シャルル
「決着、ついたって。」
アレクシア
「………………うん」
アレクシア
深く。深く、息をする。
冷たい空気を吸って、吐く。
シャルル
「…………どうする?」
シャルル
それは、選択を仰ぐ問い。
見届けるのか、あるいは……
アレクシア
「……ちゃんと、見るよ」
アレクシア
「そばにいてくれるから」
アレクシア
「…………」
シャルル
「わかった。」
シャルル
身体を離す。そうして、手を握って。
シャルル
中庭を見下ろした。
シャルル
砕け散る鏡。崩れ落ちた女王。
寄り添うふたり。
シャルル
「…………。」
シャルル
共にやって来た者。
ここに至るまでに、何があったのか……知る由もないが。
お茶会の。裁判の。最後の。
シャルル
この目で、耳で。
シャルル
感じてきた。
シャルル
ふたつの命が、おわる。
シャルル
――亡者化が、始まる。
アレクシア
軋み、歪んでいく、美しいひと。
アレクシア
その叫びが、響いている。
アレクシア
再び引き結んだくちびるは、やはり少し、青褪めて。
シャルル
しっかりと手を握ったまま。
真っすぐに……妄執の成れの果てを見据える。
シャルル
それを、少しだけ。
美しいと、思った。
アレクシア
妄執の紫炎が散っていく。
自らをも焼くようだったそれが。
シャルル
誰かが死んだ時、どうすればいいんだろう。
シャルル
なんて……声をかけたらいいんだろう。
アレクシア
粉々に砕けたかけら。
火花と灰。
アレクシア
けれどそれは確かに、つい先刻まで生きていたものたち。
シャルル
「…………もう少し、いる?」
シャルル
気の利いたことはいえない。
彼は彼ではない。
アレクシア
「……うん」
アレクシア
「誰も、いなくなるまで」
シャルル
「わかった。」
シャルル
彼女も、彼女ではない。
アレクシア
本当なら、きっと、どこにもいなかったはずの二人。
アレクシア
誰でもない。
誰でもなかった。
アレクシア
けれど今、ここにいる。
アレクシア
他の誰でもなく、二人。
シャルル
抱きしめた暖かな身体と、さらりとした金の髪の感触が残っている。
シャルル
ふたりきり。でも、ひとりじゃない。
シャルル
宣言が行われる。これで……ひとつの試合が終わった。
シャルル
やがて、ボロボロの勝者と、メイドと、観客と。
シャルル
皆が各々去り行き、雪の積もった中庭がしんと静まり返るだろう。
アレクシア
誰もいなくなる。
アレクシア
今、ここにいる、シャルル以外は。
シャルル
「…………寒いな。」
アレクシア
「……うん」
シャルル
「戻るか。あの、お茶とか……いれるよ。」
シャルル
「スープでもいいし。」
シャルル
「…………。」
アレクシア
「……ありがと」
アレクシア
「今は、……シャルルのお茶が、飲みたい」
シャルル
「…………。」
シャルル
「……うん。」
シャルル
「……まだ、破片あるかもだから。」
シャルル
椅子の前にまわって、両手を差し出す。
アレクシア
その手に、委ねる。
シャルル
軽い身体をふわりと抱き上げて。
シャルル
室内へと戻る。
シャルル
やがてきっと、『館』は綺麗に修復されて。
シャルル
ガラスは全部元どおり。
シャルル
だけど、このガラスが割れたこと。
シャルル
女王と鏡の事。
シャルル
雪と、救世主のこと。
シャルル
抱きしめあった事。
シャルル
それらは全部。記憶の中に。