▲ 砂浜01 ▼
シャルル [砂浜]
果たして、何が起こったのか。
濁流に飲み込まれたような気もする。
台風に攫われたような気もする。
地中に埋もれた気も、
空に舞い上げられた気も。
シャルル [砂浜]
ひとつだけはっきりしているのは
此処が、堕落の国ではないということだ。
シャルル [砂浜]
からっと晴れた青空に、美しい海。
波の音どころか、鳥獣の気配さえある。
シャルル [砂浜]
「…………」
シャルル [砂浜]
まだこれが『現実』であるか怪しいところではあるが。
シャルル [砂浜]
「いやぁ、久々に見ましたねぇ……太陽」
シャルル [砂浜]
体を起こし、立ち上がる。
両手足は問題なく動くようだ。
しかし、周囲に他の……
シャルル [砂浜]
「アレクシア……?」
アレクシア [砂浜]
果たして何が起きたものか。
分厚く雲に覆われた空のもとから、今、ここにいる。
アレクシア [砂浜]
どこかぼんやりと、波打つ青を見つめながら。
女は、海、という単語に辿り着くまでにしばしの時間を要する。
アレクシア [砂浜]
「…………」
意味がわからない。
だが、意味がわからないなりに、どう見ても遥か彼方まで青い水が揺蕩っている。
嗅ぎ慣れないにおいはするが、濁っても腐ってもいない。
海、という単語に思い当たるまでに少し掛かった。
たぶん、これが、そう。
見たことがなかった。話に聞いても、遠いものだった。
そして何より、こんな澄んだ海なんて、生涯見る機会などないと知っていた。
堕落の国。
それは、「ぶっちゃけもう駄目」な世界だ。
飢えと乾きに満ち、土は痩せきり、水は毒され、多くのものがどうしようもなく蝕まれていた。
そこで、わたしたちは生きていた。
そして思い至る。
――シャルルは?
アレクシア [砂浜]
海を見つめていた視線が、ふと、思い出したように瞬く。
灰色の空の下では、隣にいたはずの気配を探して。
シャルル [砂浜]
金属の足が砂に沈む。
砂浜のなるべくしっかりした場所を踏んでその人のもとへ向かう。
シャルル [砂浜]
「よかった、無事だったんですね」
アレクシア [砂浜]
砂を踏む足音に目を向けて、小さく息をつく。
アレクシア [砂浜]
「……お前も無事か。何よりだ」
シャルル [砂浜]
「アナタの無事を確認できて嬉しいところではあるんですが……ここは、何処なんでしょう。少なくとも堕落の国での『普通』ではないようですが」
シャルル [砂浜]
「周囲に他の救世主はいないようですし、少し調べたほうがいいかもしれません。実は……」
シャルル [砂浜]
「先程から『疵の力』を感じないのですよ」
アレクシア [砂浜]
「六ペンスは……失くしたわけじゃあないな。ふむ……」
アレクシア [砂浜]
「……、……確かに。いつものようには使えんようだ」
アレクシア [砂浜]
「太陽が見える……。それにこれは、海……というんだろう、確か?」
アレクシア [砂浜]
「目が覚めたら砦で、これは単なる夢……というのはともかく。
幻覚を見せる輩の術中、空間を作るたぐいの輩の術中……」
シャルル [砂浜]
金属の指先で自分の喉に触れる。
話すたび、乾いた空気が水分を奪っているのを感じる。
シャルル [砂浜]
「海、実は私も見るのは初めてです。幻影の可能性は大いにありますが……実感を伴っているのは厄介ですね。」
アレクシア [砂浜]
「ま、何がどうであれ、ここでただ喋っていても仕方があるまいよ。
お前だって、このまま日干しになる気はなかろう」
シャルル [砂浜]
「ええ、そうですね。……ひとまず、飲水と食料の確保でしょうか。
雨風をしのげる場所も。疵の力がなくとも簡単なものならば作れるでしょう。」
シャルル [砂浜]
ふむ、と周囲を見渡す。
近くに落ちているガラクタをいくつか拾い集め。
Eno.619:シャルル・ベルジールがEno.658:エルレンマイヤー卿アレクシアに小さな風呂敷を渡しました!
シャルル [砂浜]
「何もないよりマシでしょう。少し、手分けしてこの場所自体を調べてみましょうか。」
アレクシア [砂浜]
「ああ。……まあ、とにかくやってみるとしよう」
アレクシア [砂浜]
そうしてしばし経ち。
アレクシア [砂浜]
「シャルル。そっちはどうだ」
シャルル [砂浜]
「一通り散策してみましたが、他に人はいないようですね」
シャルル [砂浜]
「しかし、堕落の国とは異なり生物も植物も豊富そうですし、ひとまず生きてはいけそうです。あと必要なものは……寝床でしょうか」
シャルル [砂浜]
浜辺に堀った穴。
内側で組み立てた木材に、ブルーシートを載せて蒸留装置を作る。
アレクシア [砂浜]
「確かに、天候が崩れる前に目処がついたほうがいいだろうな。
……とはいえ、どうする? まずは場所か?」
シャルル [砂浜]
「そうですね……海沿いよりは森のなかかなと」
アレクシア [砂浜]
「なら、行ってみるか」
シャルル [砂浜]
「ええ」
▲ 森林01 ▼
アレクシア [森林]
「さて……日も暮れてきたな。適当な場所や物資があるといいが」
アレクシア [森林]
「……この辺りは、悪くなさそうだな」
Eno.658:エルレンマイヤー卿アレクシアは開いたスペースに木々を束ねて、拠点を設営した!
▲ 拠点01 ▼
アレクシア [拠点]
「……雨が降る前に、急拵えでも場所が作れていてよかったな。
一日経ったが、お前、ちゃんと休憩してるだろうな」
Eno.658:エルレンマイヤー卿アレクシアとEno.619:シャルル・ベルジールは焼いた大魚を食べた!ボリューミーな身が空腹を満たす……!
シャルル [拠点]
「していなくはないですよ?
しかし……人がいないとはいえ、何があるかわかりませんからねぇ……」
シャルル [拠点]
「ここなら、少しは落ち着けますね。」
アレクシア [拠点]
「まあ、何もないよりはな。
……人がいないのも、良いのか悪いのか……」
シャルル [拠点]
「皆さん仰る『普通の世界』というのは、こういう感じなんでしょうね」
シャルル [拠点]
「たまに、いるじゃないですか。寝首をかかれるだとか、物を盗まれるだとか、微塵も思わない救世主」
シャルル [拠点]
「意外と、こういう世界から来たのかもしれませんよね」
アレクシア [拠点]
「人を疑わずに済む世界というのは、よほど平和か、他に誰もいないか、か。そうかもしれん」
アレクシア [拠点]
「誰もいないならいないで、やらねばならんことは山積みだが……ある意味、気は楽かもな」
▲ 拠点02 ▼
シャルル [拠点]
木を燃やし、できた灰を真水に混ぜて木枠に伸ばす。
シャルル [拠点]
「そういえば、そこに火薬がありましたが、あれはアナタが?」
Eno.619:シャルル・ベルジールは紙を作りました!
アレクシア [拠点]
「ん? ああ……まあな。
危険物でもあろうが、こんなところでなかなか入手できるものでもないからな。取れそうなものから取っておいた」
シャルル [拠点]
「湿らないように紙に包んでおきましょうか」
シャルル [拠点]
「……そういえば、浜で手紙を見つけたんですよ」
シャルル [拠点]
『さいしょの便箋』を取り出す。
シャルル [拠点]
「この記載が本当であれば……ここは、堕落の国の外にあるのかもしれませんね」
シャルル [拠点]
「あるいは、これが『救世主』の趣向であったとしても……」
シャルル [拠点]
「求められることは同じ、この島からの脱出のようです」
シャルル [拠点]
「言葉が堕落の国と同じもの……英語であるならば。
『早くて数日、長くとも数十日で沈む』
『七日ほどに一度、この辺りには船が通る』つまり」
文字を示しながら。
シャルル [拠点]
「船を呼び止める、もしくは船をつくる……ここが何処かもわからない以上、前者の方が現実的ですね」
シャルル [拠点]
「まあ、ここを通るのが略奪船であった場合、
制圧できなければ死ぬか、死ぬよりひどい目に合うかもしれませんが」
アレクシア [拠点]
「またお前はそういうことを。
……わかってるだろうが、『疵』なしのわたしは、戦闘に関しては本当にただの足手まといだからな。もしものときは、お前はお前が生き延びることを優先しろ」
アレクシア [拠点]
「……と言って、素直に聞くわけでもなかろうが」
アレクシア [拠点]
「……ともあれ、堕落の国の外、か。
まあ確かに、あの国にはなかったものばかりだな。海に森に、亡者ではない獣、魚、干乾びていない木の実やら、なんやら……ほら」
Eno.658:エルレンマイヤー卿アレクシアとEno.619:シャルル・ベルジールはヤシジュースを飲んだ。スポーツドリンクのような甘さが口の中を満たす……
アレクシア [拠点]
「……あれだけ唐突に堕落の国に堕ちたのに、同じようなことが起こるとは、どうしてか、まるで考えていなかったな……」
アレクシア [拠点]
「まあ、まだ確定というわけでもない。警戒は続けつつ、船を止める手段だな」
シャルル [拠点]
「おや、今はアナタの為の『手足』ですよ。」
飲み物を受け取る。
シャルル [拠点]
「ええ、それまでに死なない為の食料などを確保しつつ、検討しましょう」
▲ 拠点03 ▼
アレクシア [拠点]
激しい雨音の中、大量の素材を淡々とロープで組み繋いでいる。
アレクシア [拠点]
「……こんなものか?」
Eno.658:エルレンマイヤー卿アレクシアは浮桟橋を作りました!
シャルル [拠点]
「器用なものですね」
シャルル [拠点]
「そういえば、アナタの世界では精巧な歯車を職人が作るのでしたか」
シャルル [拠点]
嵐の音を聞いている。
集音装置は轟音の、風と波の音を聞き分ける。
アレクシア [拠点]
「ああ。わたしも十二までは技術学校にいた。
自慢じゃないが、成績も悪くはなかったんだぞ」
アレクシア [拠点]
「だから、何かがひとつ違ったら、わたしは『エルレンマイヤー卿』なんて御大層なものじゃなかっただろう。
自分も職人になるか、人生のどこかで普通の職人と結婚して、……」
アレクシア [拠点]
「いや。それはもう、通り過ぎた話だな。どこにもない人生の話だ。
ただ、そうだな。お前にもあるんじゃないか? もし、こうだったら、という生き方……」
Eno.658:エルレンマイヤー卿アレクシアはEno.619:シャルル・ベルジールを救急キットで治療しています……
アレクシア [拠点]
「今の人生でも、こういう馬鹿をしないでほしいものだが?」
シャルル [拠点]
「この足、岩場には向いてないようで」
アレクシア [拠点]
「この大馬鹿者が……。少し待ってろ」
Eno.658:エルレンマイヤー卿アレクシアとEno.619:シャルル・ベルジールは焼きイノシシを食べた!大ボリュームな肉塊が身も心も満たしていく……!!
Eno.658:エルレンマイヤー卿アレクシアとEno.619:シャルル・ベルジールは焼いたサメ肉を食べた! 海の旨味と臭みが口の中に満たされる……!
Eno.658:エルレンマイヤー卿アレクシアがEno.619:シャルル・ベルジールに真水を渡しました!
Eno.658:エルレンマイヤー卿アレクシアがEno.619:シャルル・ベルジールに焼いたサメ肉を渡しました!
アレクシア [拠点]
「当座は、これで凌げ」
シャルル [拠点]
「はいはい」
シャルル [拠点]
「……そうですねぇ」
シャルル [拠点]
「死に方なら、たくさんあったかもしれませんね」
シャルル [拠点]
「兵士教育課程を終える前に買い取られていなければ、1ダースいくらの兵士として、ろくな装備もなく戦場で死んでいたでしょうし」
シャルル [拠点]
「堕落の国に落ちていなかったとしたら、まあ、死ぬ前にもう100人くらいは殺していたでしょうし」
シャルル [拠点]
「アナタに出会っていなければ、もう少し冷酷でいられたでしょう」
シャルル [拠点]
「ね」
アレクシア [拠点]
「……わたしになぞ出会わないほうが、お前はずいぶん生きやすかったんじゃないかと、わたしは未だに思うが」
アレクシア [拠点]
「それももう、通り過ぎた話ではあるか……。いまさら、どうしようもない……」
アレクシア [拠点]
「……悪いな。ただの繰り言だ」
Eno.619:シャルル・ベルジールは真水を飲んだ。喉が潤うのを感じる……!
シャルル [拠点]
「ふふ」
シャルル [拠点]
「出会いたくなかったのなら、こうして……一緒にいませんよ。今。」
シャルル [拠点]
「さて、昨日仕掛けた罠を見てまいりますね」
シャルル [拠点]
仕掛けた罠にかかったイノシシを担いで戻る。
ナイフで腹を切り、臓物を取り除き、切り分けた肉を焼く。
Eno.619:シャルル・ベルジールとEno.658:エルレンマイヤー卿アレクシアはイノシシのステーキを食べた!大ボリュームな肉塊が身も心も満たしていく……!!
▲ 拠点04 ▼
アレクシア [拠点]
――ふと黙る。
シャルルを見、何かを言いかけ、やめ、少しの間がある。
そして、しかし結局は口を開く。
アレクシア [拠点]
「……シャルル。もし仮に、ここが本当に、堕落の国の外だとしたら。
わたしたちがこの島から出られたとして、…………いや。
どうしたいかも、どうするべきかも、わたしが自分で決めなければならんのは、わかっている。だが、……」
アレクシア [拠点]
「……あの国では、限られた選択肢の中で選ぶしかなかった。
選ぶことから逃げたつもりはないが、わたしは自分のできることをするしかなかった。
なのに今、もしかしたら、……もしかしたら積極的に選べるものが広くあるのかもしれないと思ったとき、」
アレクシア [拠点]
「……わたしは、……怖い、のかもしれない……」
シャルル [拠点]
「……アレクシア」
シャルル [拠点]
「本当に、優しいんですから……アナタは。」
シャルル [拠点]
「私が……選んでさしあげてもいいんですよ」
アレクシア [拠点]
「……お前はわたしを甘やかしすぎる」
アレクシア [拠点]
「……わたしは、自分に何ができるか、できないか、まあだいたいはわかっている。
その中で、……わたしがいないよりも、いたほうがそれなりに助かるやつらというのがいることも、わかっている」
アレクシア [拠点]
「だから、わたしが本当に優しかったら、こんな悩み方はしなかっただろう。きっとな」
シャルル [拠点]
「なら、向かう場所はひとつでは」
シャルル [拠点]
「無論、私もお供しますよ。置いていくなんて言いませんよね?」
アレクシア [拠点]
小さく首を振る。
アレクシア [拠点]
「……堕落の国で、責務を果たしながら生きるのが辛かった。戻れば同じことを繰り返すのもわかっている。
だが、そうして生きてきたのに、いまさらもう一度……そうではない場所で、なんでもない顔をして生きていけるんだろうかとも、思う」
アレクシア [拠点]
「お前は、向かう場所はひとつだと言うけれど。
……わたしは、本当に、どこかへ行けるんだろうか。ここから……どこへにせよ、ほんとうに……」
シャルル [拠点]
「ああ、そうですね。アナタは……」
シャルル [拠点]
「…………」
シャルル [拠点]
「正直に言うと、ちょっと行ってみたかったんですよね。
アレクシアの故郷に。」
シャルル [拠点]
「私の見てきた、おこなってきた技術とは別の方向に高度な機械や、隔離されていない街。
興味がないとは言えません。なにより……」
シャルル [拠点]
「アナタが愛した世界、でしょうから」
シャルル [拠点]
「でも、いいんですよ」
シャルル [拠点]
「誰も我々を知らない世界。平和……といえばいいんでしょうか。
殺し合いのない、穏やかな世界とか。」
シャルル [拠点]
「そういう場所に、ふたりで逃げちゃうのも
悪くないかもしれません」
アレクシア [拠点]
かすかに、息を詰める音がした。そして、
アレクシア [拠点]
ぽろり、ぽろり、涙が落ちる。シャルルにとっては、初めて見る涙。
アレクシア [拠点]
「……っ、わからない、……帰り、たい、連れていきたい、でも、帰るのが怖い……。だってわたしにはっ、きっと替わりがいて、だから、」
アレクシア [拠点]
「わたし、がっ、……堕落の国で生きてきた、わたしが、帰って、それで、……それで、もう一度、なんて、そんな、こと、……っ」
アレクシア [拠点]
「……、怖い……」
アレクシア [拠点]
「馬鹿みたいだ。ほんとうに帰れるかどうかも、わからないのに……、こんなこと、言うつもりじゃ、なかったのに……」
シャルル [拠点]
「アレクシア」
シャルル [拠点]
「…………」
シャルル [拠点]
すぐ隣に腰を下ろし、横から抱き寄せる。
シャルル [拠点]
小さな頭に頬を寄せ。囁くように。
シャルル [拠点]
「アナタの代わりは何処にもいませんよ」
シャルル [拠点]
「アナタに、私の代わりが存在しないように」
シャルル [拠点]
「ここに、あるじゃないですか。アナタだけの居場所が」
シャルル [拠点]
額に軽く口付ける。
アレクシア [拠点]
「シャルル……。
……悪い。こんな……本当に、馬鹿みたいな……」
アレクシア [拠点]
「……わかってるんだ。お前がいてくれて、どれだけわたしを大切にしてくれているのかも、それがわたしにとって、どれだけ救いになっているかも。なのに……」
アレクシア [拠点]
「くるしいんだ。わたしなんか帰らないほうがいいんじゃないかと思うと、息ができないくらい苦しくてたまらない……」
アレクシア [拠点]
「お前だけいればいい、と言えない。どうしてだかわからない。
わたしはどうしてこんなに愚かで、欲張りなんだろう……」
シャルル [拠点]
「本当に、極端なんですから」
シャルル [拠点]
指を絡めるようにして頭を撫でる。
シャルル [拠点]
「帰ってから考えましょう。たとえその先、何があったとして……」
シャルル [拠点]
「私は、アナタの隣にいる。それだけのことじゃないですか」
シャルル [拠点]
帰る場所が失われている。
世界すら失われている。
そんな、絶望的な仮定は欠片も出さない。
シャルル [拠点]
「常に先のことを考えるのは、もちろん。先導者として正しいことではありますが……」
シャルル [拠点]
「きっと……アナタの想定している歯車は少し、大きすぎる」
シャルル [拠点]
「人を繋ぐものは『役目』だけではないと、わからせてくれたのはアナタですよ」
アレクシア [拠点]
少しの間、抱き寄せられたまま、撫でられるままに、言葉もなくぽろぽろと泣いて。
アレクシア [拠点]
「……悪かった。……こんな、みっともなく泣くつもりじゃなかった」
アレクシア [拠点]
「お前の言う通り、今ここで、勝手に怖がっていても仕方ない。
帰った先でもしも石を投げられたって、きっとお前は一緒にいてくれることもわかってる。……でも、それでも」
アレクシア [拠点]
「それでも、『だからもう大丈夫だ』とは言えない、不甲斐ないわたしを、……笑わないでくれ」
シャルル [拠点]
「ええ」
シャルル [拠点]
「アナタの涙がとまるまで、こうさせてください」
シャルル [拠点]
「…………」
シャルル [拠点]
「話してくれて嬉しいですよ」
シャルル [拠点]
「頼ってくれて、嬉しいです」
シャルル [拠点]
「私にはきっと、その不安や苦しみを、同じように受け止めることは難しいでしょうけれど……」
シャルル [拠点]
「苦しむアナタを見ていると、何もできない自分を歯痒く思います。」
シャルル [拠点]
「胸が痛み、息が詰まるような……苦しさ」
シャルル [拠点]
「アナタが苦しんでいる時に不謹慎かもしれませんが。これが、愛しい……という気持ちなのでしょう」
シャルル [拠点]
雨の音が空間に響く。
シャルル [拠点]
「アナタといるほどに、深く、深く沈むようだ。動揺や、必死さとも異なる余裕のなさを……」
シャルル [拠点]
「…………私は、今。嬉しいと、感じています。」
シャルル [拠点]
「いつまでだって、こうしていられる。私はアナタを愛しているから。」
▲ 拠点05 ▼
Eno.619:シャルル・ベルジールは捌いたマンボウを作りました!
Eno.619:シャルル・ベルジールは焼きマンボウを作りました!
シャルル [拠点]
嵐の中離島で釣ってきたでかい魚を捌いたらぷるぷるの内臓がたくさん出てきたときの顔。
Eno.619:シャルル・ベルジールとEno.658:エルレンマイヤー卿アレクシアは焼きマンボウを食べた! フワフワの白身とコリコリのモツがダブルでおいしい……!
アレクシア [拠点]
二重の意味で、珍しいものを見た……という顔。
▲ 砂浜02 ▼
ドーンッッ!!!
Eno.619:シャルル・ベルジールが花火を打ち上げました!
ドーンッッ!!!
Eno.658:エルレンマイヤー卿アレクシアが花火を打ち上げました!
▲ 拠点06 ▼
Eno.619:シャルル・ベルジールがEno.658:エルレンマイヤー卿アレクシアにシャルルのお守りを渡しました!
シャルル [拠点]
「アレクシア」
シャルル [拠点]
「よかったら、これを」
シャルル [拠点]
「私、神様は信じていないのですが」
シャルル [拠点]
「なんとなく、これは、いいもののような気がしたので」
シャルル [拠点]
「『お守り』という物を作ってみました」
シャルル [拠点]
「気休めかもしれませんが、まあ」
シャルル [拠点]
「非常用の武器だとでも思って、お持ちください」
アレクシア [拠点]
差し出されたものを、そっと受けとる。
小さな手のひらに収まる『お守り』。
アレクシア [拠点]
「……お前にしては、本当に珍しい……」
アレクシア [拠点]
「いや。別に、馬鹿にしているわけでも腐しているわけでもないんだ。
ただ、なんというか……驚いて」
アレクシア [拠点]
「お前がこういうものをくれるのも、……自分がそれを、まあ、こんなに嬉しいと思うこともな。気恥ずかしい」
アレクシア [拠点]
「……嬉しいよ。わたしだって、神は信じていないが……たとえ気休めでも、それでも、いいんだ。……いいんだ。ほんとうに……」
シャルル [拠点]
「『不思議』というものが、宿るといいですね」
アレクシア [拠点]
「……ああ。そうだな」
▲ 拠点07 ▼
Eno.619:シャルル・ベルジールとEno.658:エルレンマイヤー卿アレクシアはラム酒(水割り)を飲んだ! 熟成された味わいが体に染み渡る……!
アレクシア [拠点]
アルコールでちょっとむせた。
▲ 拠点08 ▼
アレクシア [拠点]
海面が上がり続けている。すでに島内の各所で足元が怪しい。
しかし、
アレクシア [拠点]
「……浜に船が来ているな」
アレクシア [拠点]
「運良く七日目、と思っていいものかどうか……。
まあ、あの船がどういう代物であれ、お前の見せてくれた手紙とこの島の現状を見るだに、もうここに長居はできないだろうが」
アレクシア [拠点]
「どうする。素直に助けを求めてみるかどうか」
シャルル [拠点]
「そうですね……まず、私が様子を見てきます。問題なさそうなら、こちらに戻ってきますので準備をしましょうか」
シャルル [拠点]
砂浜へ向かう。
しばらくして、戻る。
シャルル [拠点]
「一見商船に見えますが、万が一襲われたとしても、武装レベルからして問題はなさそうでした。」
シャルル [拠点]
「少し話をしたところ、この場所に人が流れ着くことはそこそこある……とのこと。この通り、帰り際を襲われることもありませんでしたし……」
シャルル [拠点]
「交渉して乗せていただくのが、沈む島に残るよりはよいかと」
アレクシア [拠点]
「そうか。……わかった、行こう。
まあ、ここを出るに大した準備もなかろうが……」
アレクシア [拠点]
「……あの船で、結局、わたしたちはどこへ行けるんだろうな。
ここを出て、それから……」
シャルル [拠点]
「それから」
シャルル [拠点]
「『ただいま』を言うんでしょう?」
アレクシア [拠点]
「……言えれば、いいと、思う」
アレクシア [拠点]
「あいつらにとってわたしは、ある日突然、何も言わずに、信じて任されていた全部を置いて消えてしまった人間だ。重大な案件だってひとつやふたつじゃなかった。どれだけ迷惑をかけたか、わからない……」
アレクシア [拠点]
「恨まれていても、憎まれていても、文句は言えないだろう。
……わたしはやっぱり、怖いんだ。……それは、どうしようもない」
アレクシア [拠点]
「……シャルル。ちゃんとわかってるんだ。わかっているけど、でも」
アレクシア [拠点]
「本当にわたしの隣にいてくれると、もう一度、言ってくれないか。
言ってくれるだけでいい。そうしたら、きっと、歩きだせるから」
シャルル [拠点]
「…………」
シャルル [拠点]
「名前」
シャルル [拠点]
「あの時、お願いしましたよね。名前を刻んでくれと」
シャルル [拠点]
「あれはね、私にとって最も強い『繋がり』で」
シャルル [拠点]
「同時に、最も儚く脆い『繋がり』だった」
シャルル [拠点]
コイン1枚から、交渉ひとつで書き換えられる。
刻まれ、可視化される人の価値、値段。
シャルル [拠点]
所有者。
シャルル [拠点]
「アナタのものになりたかった」
シャルル [拠点]
「私のアレクシア」
シャルル [拠点]
「けれどね……一度死んで。アナタと二度目の生を過ごして、わかったんです」
シャルル [拠点]
「そんな『印』にはなんの意味もないんだと」
シャルル [拠点]
「アレクシア。私はひとりの人間として」
シャルル [拠点]
「ひとりの男として」
シャルル [拠点]
「残りの人生を、アナタと共に生きたい」
シャルル [拠点]
手を取る。
シャルル [拠点]
「ずっと一緒にいますよ。たとえ、何があっても。アナタの隣に、ずっと」
アレクシア [拠点]
一瞬、取られた手が震えた。
アレクシア [拠点]
「シャルル」
アレクシア [拠点]
「……わたしが信じられないのは、いつだって自分のことだ。
自分に愛される資格なんてあるのか、いつかお前を失望させるんじゃないか……」
アレクシア [拠点]
「でも、わたしは、諦めたくない。お前を」
アレクシア [拠点]
「どれだけ怖くても、諦めたくないんだ……」
アレクシア [拠点]
「……愛しているから」
アレクシア [拠点]
「……愛して、いるから……」
シャルル [拠点]
手の甲へ、手袋の上から口付ける。
シャルル [拠点]
「アレクシア」
シャルル [拠点]
「それなら、私を信じてください。絶対に裏切りませんから。」
シャルル [拠点]
「アナタを、愛しているので」
アレクシア [拠点]
「……うん」
アレクシア [拠点]
「行こう」
▲ 砂浜03 ▼
シャルル [砂浜]
「すみません、お待たせしました。よろしくお願いします。」
シャルル [砂浜]
曇った中に薄く光が指す浜辺を、歩いてくる。
傍らに女を伴って。
シャルル [砂浜]
海上には船が停泊しているのが見える。
待たせていた小舟の傍、乗組員が手招きする。
シャルル [砂浜]
この島はもうじき沈む。
Eno.658:エルレンマイヤー卿アレクシアは救助船に乗りました。
Eno.619:シャルル・ベルジールは救助船に乗りました。
七日を過ごした島が沈んでいく。
堕落の国の外。
逃れられなかった軛が、ほどけた場所。
ほんとうにもう殺さなくていいのだろうか。
引き金に指をかけることも、杖の先の誰かを焼くことも。
本当に、……ほんとうに?
指先が震えているのが自分でわかる。
なんのためかは、さだかでない。
もう殺さずに済むことへの安堵と喜び。自分だけが逃げ出すことへの罪悪感。
帰れるかもしれないことへの期待と不安と、そこに待っているものへの恐れ。
その全部。それから、きっと他にも。
そして、わたしはまた、置いていってしまう。
今度はあの商会を、何も言わずに。今度は、自分のために。
許されるとは思わない。
わたしの辿ってきたもの、してきたこと、犯した罪業、何もかもすべて。
背負って生きるしかないことも、わかっているつもりだ。
それを見ないふりできるほど自分が器用でないことも、知っている。
今、隣にはシャルルがいる。
もしもシャルルがここにいなかったら、わたしはきっと、あの島で死んだだろう。
仮に何かができたとしても、どこにも行けなかっただろう。
だが、大丈夫だと言ってくれるから。一緒にいると、言ってくれるから。
わたしは、それを信じたいと思う。
船出だ。
▲ 海上01 ▼
Eno.658:エルレンマイヤー卿アレクシアは一面の海を眺めています。
アレクシア [海上]
甲板で立ち尽くしている。静かに。
シャルル [海上]
「……船って、思っていたより変な揺れ方をするんですね」
シャルル [海上]
船室の方から歩いてくる。
シャルル [海上]
「希望の場所に送り届けてくださるそうです。アナタの故郷に一番近い港がいいと思いますが……」
アレクシア [海上]
「うん……」
アレクシア [海上]
振り返らないまま、小さく頷く。
アレクシア [海上]
「……あんなにみっともなく泣いておいてなんなんだが、……本当に、本当に帰れるとは、思ってなかった。どこかで信じていなかった……」
アレクシア [海上]
「この気持ちをなんと言ったらいいのか、よくわからない。
怖くて不安で、でも安心して嬉しくて、それで、罪悪感がある……」
シャルル [海上]
「堕落の国に残してきた者たちのことですか?」
アレクシア [海上]
「……ああ。
わたしはまた置いていってしまう。今度は、自分のために……」
シャルル [海上]
「心配しなくとも、彼らは彼らでうまくやっていきますよ」
シャルル [海上]
「そういう人しか勧誘していませんし、私が死んだ時の対応についても残しています」
シャルル [海上]
「……彼らの中では、我々は確実に死んだことになっているでしょうからね」
アレクシア [海上]
「……わかってる。わたしだって、どの商談も折衝も、わたしがいなくなっても引き継ぎができる準備はしていた」
アレクシア [海上]
そして、ようやく振り返る。
アレクシア [海上]
「……ほかの誰が知らなくても、自分が知っている。わたしが自分のためにしたこと、しなかったこと。
堕落の国であんなに殺して生きてきて、それなのに、そこで重ねたものを置き去りにして、帰ろうとしていること……」
アレクシア [海上]
「許されるとも、許されようとも思わない。ただ、……」
アレクシア [海上]
「ただ、知っているんだ。自分の、そういう、どうしようもなさをな」
シャルル [海上]
「あはは……」
シャルル [海上]
「人間なんて、みんなもれなくろくでなしですよ」
シャルル [海上]
「……でも」
シャルル [海上]
「私は、それでも高潔であろうとするアナタを眩しく、どうしようもなく……」
シャルル [海上]
「愛しいと、思ってしまいます」
シャルル [海上]
「…………」
シャルル [海上]
「もし、アナタが。誰かの幸福や隣人、未来を奪うことを『許されないこと』だと思うのなら」
シャルル [海上]
「アナタの一番の罪は、きっと、私を生かしていることでしょう」
シャルル [海上]
「アナタは……一体誰に、赦されたいんですか」
アレクシア [海上]
一瞬、黙った。そんなことはない、とは言えなかった。
シャルルの言葉、どれひとつ取っても。
そうしてしばらく黙った後、掠れた声がこぼれだす。
アレクシア [海上]
「わたしが、……ずっと、ゆるしてほしいと、そう思っている、のは」
アレクシア [海上]
「……おとうさんと、おかあさんに」
アレクシア [海上]
「わたしを連れて行ってくれなかった二人に……」
アレクシア [海上]
「あの頃……わたしが『悪い』わたしだから、二人には要らなかったんだと、そう思ったから。
……だからわたしは、『良いアレクシア』に、なりたかった……」
アレクシア [海上]
ふ、と息をつく。何かを掻き消すように苦笑する。
アレクシア [海上]
「……当然、今はもう、それだけじゃない。
でも、わたしのどこかには、そういうガキっぽい思いがまだ深く根を張っていて、……あの二人に、ごめんなさいと言い続けている。そんな気がする……」
アレクシア [海上]
「だから、わたしのこれは、高潔なんて言ってもらえるようなものじゃない。……そうじゃ、ないんだ。きっと……」
シャルル [海上]
「…………」
シャルル [海上]
眼の前へ立って、抱き寄せる。
シャルル [海上]
「私には親がいたことがありません」
シャルル [海上]
「ですから、アナタの苦しみを、本当の意味で理解することは難しいでしょう」
シャルル [海上]
「そのうえで……ご両親が、本当にアナタを愛していたのなら」
シャルル [海上]
「アナタを連れていけるわけがない……」
シャルル [海上]
「今の私が。あの時の私が。アナタを失うことを恐れているように」
シャルル [海上]
「きっと、アナタに……アナタだけでも。生きてほしかったのだと、思いますよ」
アレクシア [海上]
抱き寄せられて、シャルルの言葉を聞きながら。
その胸に、小さく縋りつく。今なお振り払われるのを恐れるような、かすかな力で。
アレクシア [海上]
「……今まで誰に同じことを言ってもらっても、ずっと、『そんなことはない』と思い続けてきた。そうとしか、思えなかった……。
慰めてくれる気持ちは嬉しかった。でも、慰めだとしか思えなかったのも本当だ」
アレクシア [海上]
「わたしには、愛しているだとか、愛されているだとか、そんなことはわからなかった。……お前が、わたしを愛してくれるまで……」
アレクシア [海上]
「シャルル。……本当に、そう思うか?
ただありきたりの子どもだった『アレクシア』にも、そんな価値があったと思うか?」
アレクシア [海上]
「わたしは、いまさら、それを信じても……いいんだろうか……?」
シャルル [海上]
指が絡まないよう、髪の上から後頭部を撫でる。
胸元に暖かなものを感じながら。
シャルル [海上]
「アナタは、私がどういう人間なのかよく知っているでしょう。表面的にも、そうでない部分も。」
シャルル [海上]
「他人の愛の価値なんて測りようも、わかりようもない。それも、会ったこともない人達ですよ。それでも……」
シャルル [海上]
「それでも。私自身の感情が、心が。肯定するんです。」
シャルル [海上]
「アナタが今生きていることこそが、その証明だと。」
アレクシア [海上]
何か言おうとする気配だけがした。何も言わなかった。言えなかった。
胸元に縋る手に、ぎゅっと力が籠もる。
ただ、かすかに震える肩と。服を濡らしていくあたたかいもの。
それだけが伝わる。言葉のないまま。
シャルル [海上]
「…………」
シャルル [海上]
「待ちますよ」
シャルル [海上]
「いつまでだって。あなたが『赦されること』を、許せるようになるまで」
シャルル [海上]
「今から向かう場所は、心の弱さが死に直結する世界じゃないでしょう?他人の心を抉る必要も、命を奪う必然もない。」
シャルル [海上]
「ずっと……ひとりで頑張ってきたんですね。両親を亡くしてから、ずっと。」
シャルル [海上]
「…………」
シャルル [海上]
「……しましょうか、結婚。」
アレクシア [海上]
その言葉に、震えていた肩が跳ねた。
同時に、一瞬、息が止まり。それから、どこか恐れるように小さな声。
アレクシア [海上]
「しゃ、るる、……」
アレクシア [海上]
「……わ、たし、……きっと、お前に、普通の……普通の結婚で手に入るようなものは、何も、してやれない。何も……。なのに、」
アレクシア [海上]
「……それでも、ほんとうに、わたしでいいのか? 本当に……?」
シャルル [海上]
「さて……私の国で結婚といえば、大盤振る舞いの代名詞。酒とご馳走でふたりの今後の健闘を祈って祝福し、乱暴に皿を投げつけ合う馬鹿騒ぎですよ。」
シャルル [海上]
「手と手を取り合い、生涯を支え合い、生計を共にして……家族になる。それ以上が必要ですか?」
シャルル [海上]
「死がふたりを分かつとも、アナタと共にいられることが……今の私の最大の幸福です」
シャルル [海上]
「アナタでなければ、駄目なんです。アレクシア。」
アレクシア [海上]
「……わたしで、……わたしとで、いいんだな。
ほんとうに、わたしと、そうなって、後悔しないんだな」
アレクシア [海上]
「……あのとき、おとうさんとおかあさんが死んで、わたしは連れて行ってもらえなくて、だから、そんな『要らない』人間のわたしには、もう二度と、家族なんてできないと思っていた」
アレクシア [海上]
「わたしを慕ってくれる者がいて、わたしとともに笑ってくれる者がいて、……それなのに、どこかでいつも一人きりだった……」
アレクシア [海上]
「……ずっと、」
アレクシア [海上]
「ずっと、一緒にいて。わたしを、もう、ひとりにしないで」
アレクシア [海上]
いつものように、頼む、と言うのではなく。
消え入るような声で、お願い、と。そう、呟いた。
シャルル [海上]
「はい。約束です。」
シャルル [海上]
そっと顎に触れて、顔を上げさせる。
シャルル [海上]
「絶対にひとりにはしません。」
シャルル [海上]
「ずっと……一緒ですよ。」
シャルル [海上]
涙の落ちる頬にそっと口付けた。
アレクシア [海上]
「……ん。……うん……」
アレクシア [海上]
「うれしい。……どうしていいか、わからないくらい……」
アレクシア [海上]
胸元で震えていた手が、そっとその場を離れて。
くちづけてくれた頭を抱きしめるように、しがみつく。
アレクシア [海上]
「わたしは……こんな、愚かで情けなくて、どうしようもない女だが」
アレクシア [海上]
「愛してる。……お前のことを、きっと、誰より」
シャルル [海上]
「…………はい」
シャルル [海上]
少し頭を下げつつ、擽ったそうに笑う。
シャルル [海上]
しばしそうして。
不意に、アレクシアの腕の下へ手を入れて、その身体を高く持ち上げた。
潮風が髪をなびかせ、景色がくるりとまわる。
浮遊感と、緩やかな着地。
シャルル [海上]
力強く抱きしめてから、顔を上げ。
シャルル [海上]
「みなさーん 私たち 結婚します!」
シャルル [海上]
「あはは……」
シャルル [海上]
広い海上。甲板に、声が響いた。
アレクシア [海上]
「あっ……!? お前、こらっ、そんなでかい声で……!」
アレクシア [海上]
「……っふ、……でも、今日は許してやる!」
アレクシア [海上]
抱きしめられて、抱きしめ返して。
そして、本当に嬉しそうに笑った。まるで、普通の少女のように。
――本当は、言わずに黙っているつもりだったこと。
言うつもりはなかった。特に、シャルルには。
わたしは、おとうさんとおかあさんに、連れて行ってもらえなかった。
両親が死んだことは、シャルルも知っていた。
いつだったか、わたしが故郷でどう生きてきたか、話した時に。
でも、そのときも。連れて行ってもらえなかった、と、そう言うことはできなかった。
わたしが、親にさえ『要らなかった』人間だと知れるのが怖かった。
それで、シャルルがわたしのことを、やはり『要らない』人間なのだと気づくのが、怖かった。
なのに、聞かれれば嘘はつけなかった。黙ることも、ごまかすこともできなかった。
もう、そうやって心を閉ざしておくこともできないほど、愛していて、愛されていたくて、受け入れてほしくて、信じたくて、でも怖くて。
いつも通りの顔をしていようと思ったのに、きっとできてはいなかった。
それでも、抱きしめてくれて、受け止めてくれて、待つと言ってくれて。
ずっと一緒だと、ひとりにしないと、笑ってくれた。
本当に、いいのだろうか。
まだ、そう思うことを止められはしない。
でも今は。今は、ただ、信じたい。信じていたい。
きっと、手を離さなくていいのだと。望んでいてもいいのだと。
わたしは、シャルルを愛していてもよくて。
愛されていたいと、願ってもいいのだと。