日記をつけることにした。気づいたら荒野にいて、歩いていたらやってきた馬車に助けてもらった。馬車はすごく揺れた。馬車に乗ってたケヴァさんにこの世界のことを教わった。堕落の国というらしい。ケヴァさんはもう何ヶ月もここで旅をしてるらしい。
近くの村に泊めてもらう。救世主様と呼ばれる。この世界に来た人は救世主というらしい。うさぎの耳がついた人がいっぱいいる。すごいかわいい。触らせてもらったら耳も温かかった。白うさぎの末裔というらしい。私たちについてくれてる人はミリアムさん。この世界にはそういう子がたくさん暮らしてるらしい。親切にしてくれたけど、ものが全然ないらしくて、ほとんどご飯らしいご飯は食べられなかった。
村に亡者っていうグロテスクなモンスターが出て、ケヴァさんが心の力というのを使って倒した。剣を振り回して、漫画みたいだった。救世主なら、6ペンスコインがあれば誰しも使えるらしい。私はどんな力があるのかな。
今日のご飯は昨日よりも豪華だった。変わった味付けで正直苦手だけど、お腹が空いてたから全然食べれた。
今日も亡者退治の手伝いをした。私なんかが役に立つとは思わなかったんだけど、救世主ってだけで、ここに来る前よりずっと身体が丈夫で、力があるから、末裔さんがするより向いてるみたいだった。村の人、ケヴァさんにはよくしてもらってるから、できることがあってよかった。
亡者に殺されたり、心が傷つきすぎると、亡者になってしまうらしい。昨日出た亡者も、元は白兎か、三月兎の末裔らしい。たしかにうさぎみたいな姿だった。
私もいつか亡者になっちゃうのかな。
ケヴァさんが怪我した。大きな犬の亡者。どうにかしないと、って思ったら、すぐにどうすればいいのかなんかわかって、その傷に触るとみるみる塞がっていった。私はケヴァさんよりも頑丈みたいで、守らなきゃ、って思うと、ナイフで刺されても全然大丈夫だった。気持ちが重要みたいだった。
大きな犬の亡者は途中で諦めて、どこかに行ってしまった。どうにか撃退できてよかった。あんなのが村に来たら、大変なことになっちゃう。
ミリアムさんにケヴァさんのことをあれこれ質問された。好きな食べ物とか、そういう細かい質問。もしかしたら好きなのかもしれない。それからミリアムさんがケヴァさんをなにかとじっと見てる気がして、そうとしか思えなくなった。
なんですぐに気がつかなかったんだろう。食べてるのは亡者の肉だ。亡者退治していて、臭いで気づいた。葡萄みたいな腐った臭い。肉と同じ臭いがする。ケヴァさんに聞いたら、そうだよ、知ってると思ってた、だって! どおりでうさぎみたいな亡者ばかりだと思った…。
せっかくミリアムさんが作ってくれたのに、食欲がなくて食べれなかった。部屋でうずくまってたら、ケヴァさんがりんごを持ってきてくれた。一人で食べるつもりで買ったものらしい。半分わけてくれた。いっぱい泣いてしまった。遅くまで慰めてくれた。
他の救世主がやってきて、攻撃してきた。同い年くらいの女の子で、斧を振り回して襲ってきた。
それからケヴァさんはその救世主を殺した。
救世主の責務と言っていた。30日ルールというのがあって、30日に一人、裁判? で殺さないと、私たちも亡者になってしまうらしい。
つい勢いで、人を殺してまでこんな世界で生きていたくないと言ってしまった。ケヴァさんは何も言わなかった。
昨日のことを謝った。ケヴァさんは気にしてないという。あんまり謝ってたらうっとおしがられた。
ミリアムさんはいくらでもいていいというけれど、この村を出て旅に出る相談もした。この世界から帰れるってうわさがいくつかあるらしい。
買い出しのために村を出た。移動だけで丸一日掛かるので、今日は野宿。ゴツゴツしたところで、布を敷いても硬くて寝れそうにない。あんまり寝付けずにいたら、ケヴァさんが毛布を貸してくれた。
街。村の人のおつかいがたくさんあって、大変だった。大きな街には救世主が他にもちらほらいて、視線を感じた。はぐれたらおしまいだと思って、ケヴァさんにくっついてた。
人形旅団っていう悪い救世主が近くに来てるらしいという噂があって、ざわついていた。
ミリアムさんとケヴァさんが夜遅く、2人で話してるのを見た。何を話してるかわからないけど、立ち聞きは悪いと思ってそっと離れた。
旅立つのは延期したほうがいいんじゃないって言ったら怒られた。なんのためにやってるのかって。でも、もしミリアムさんがケヴァさんを好きならかわいそうだ。ミリアムさんも一緒に来たらいいのに。
準備を終えて、明日村を出る。ミリアムさんも一緒に来ればいいのにって伝えたら、村のことがあるから、と言っていたけど、まんざらでもなさそうだった。明日起きたらケヴァさんにも相談してみよう。
人形旅団が来た。村は一瞬で壊されてしまった。人も建物も。救世主がそんな力を持つようになるなんて知らなかった。村に一頭しかいない馬を、救世主様が乗ってください、って言って、ケヴァと私だけで逃げることになってしまった。追いかけてくる敵は早くて、私が馬に力を使ってやっとだった。
今は岩場で休んでいる。もうしばらくしたら、また移動する。夜明けまで逃げたらきっと大丈夫だろう。
ミリアムさんは、生き残って、どうか世界を救って、と言っていた。
二度とこんなことが起きないようにって。
ダメだった。
人形旅団にはあれから見つからなかったけど、倒しそこねていた大きな犬の亡者に襲われてしまった。私がうっかりしていて、亡者がすぐ近くまで来ているのに気づかなかったのがいけなかった。馬は食い殺されて、すぐに亡者化。追い回されながら、どうにか亡者を倒した。私もケヴァさんもボロボロ。とにかく、街に行こうって歩いている。
街は廃墟になっていた。誰も残っていなかった。建物も焼き払われて、物もかなりダメになってた。それでも持てるだけの食べ物だけ集めて、廃墟になった宿屋で寝た。廃墟でも、煤けててもベッドがあるってだけで幾分マシで、倒れるように寝てしまった。
それでも全然気が晴れないのは、30日ルールだ。
泊まるところがあって、ご飯があって、水があっても、他に救世主がいないと。
ずっと荒野を歩いてる。
もう、あれから2つ、村があったはずのところに来たけど、全部廃墟になっていた。他に人がいるわけもない。人形旅団の脅威度は5らしい。めちゃくちゃだ。あのとき逃してもらわなかったら、多分何もできないで殺されてたと思う。
でも結果は変わらない。あと7日。他に救世主と会えるとは思えない。出会っても、それが人形旅団みたいなのだったら、どうしようもない。
あのとき犬の亡者に気づけたら違ったのかな。もっと目とか、耳とかがよければ。
元の村に帰ってきた。多分、元の村だ。何も残ってなかった。
泣いていたら、ケヴァが頭をなでてなぐさめてくれた。諦めて心が折れたらそこで亡者になってしまうって。お互いの元の世界の話とか、それぞれの歌を教えあって歌ったりした。流行りの曲はサビしか歌えないから、学校で習ったような曲しか教えられなかったのが惜しかった。
人形旅団がどう移動してたのかを考えて、来た道でも行った道でもない方角を目指して歩いた。
地図によれば、5日歩けば村がある距離だ。まだ諦めない。
街はあった。人もいた。
でも、他に救世主はいなかった。
ケヴァは何も言わない。
ただ私の頭をなでた。
どうして生きているのかわからない。
私はケヴァに殺された。
宿の裏の路地で、剣を突きつけられた。
ずっとこのときのために連れてたって。
私は守る力しかなくて、攻撃ができないから、いざ殺そうと思えば簡単だからって。
それから犯された。いやがるのを無理やり。
そのあと、剣で斬りつけられたのは覚えてる。痛かった。
殺される瞬間思っていたことは、それなら優しくしないでほしかったってことだった。
頭をなでたりしないでほしかった。
それで意識を失って、今、知らない部屋にいる。
血でべっとり汚れたままだ。6ペンスコインは、袋ごと取られてる。
耳の聞こえ方がおかしくて、頭に何かついている。
これは一体なんだろう。