ミムジィ
「幸薄そうな子が出てきたねえ」
スバル
「ここに来てんのに、あれか」
スバル
サービスは過剰なほど行き届いているのに。
ミムジィ
「あれも心の疵のなのかなあ」
スバル
「ま、足取りはしっかりしてるしな……ここでもどうにもならんからああだ、ってわけじゃないだろ」
ミムジィ
「スバルみたいにゼータクしない主義なのかもね」
スバル
「……おれは別に、そういうわけでもないけどなあ」
スバル
贅沢なんて、よくわからないだけだ。
スバル
知らないものは、求めようがない。
ミムジィ
「ふーん?」
スバル
「……なんだよ」
ミムジィ
「まあ、そうだな~、って思って」
スバル
「……なんだよ……」
ミムジィ
「あ! なんかすごいの出てきたよ」
ミムジィ
「えーっ、すごい心の疵!」
スバル
流しやがった。思ったが、深く追いかけはしない。
スバル
「……確かにすごいな」
スバル
内臓が出ている。ぶらぶらと。
スバル
ついでに煙も出ている。水パイプのもの。
ミムジィ
「すごい見た目だねえ」
スバル
「あそこまでなっても、生きてるもんなんだな……」
スバル
「……参加してるからには、生きてるんだよな?」
ミムジィ
「心の疵の力でああなってるのか、心の疵の力でどうにかなってるか、って感じなのかな」
スバル
その朽ちかけた肉体が跪くさまに、
スバル
「あっちが末裔だろうに」
ミムジィ
「あっ」
ミムジィ
「ペペルくんだ!」
ミムジィ
「一緒に戦ったことあるよ、春雷のペペル」
ミムジィ
「ペペルくんも来てたんだなあ」
スバル
「あれと……」
スバル
「子どもだな。……救世主には関係ないか」
スバル
「ところであのペペルってやつ、帰りたがってたのか?」
ミムジィ
「そこまではわからなかったな」
ミムジィ
「一緒に亡者から村守っただけだし……」
ミムジィ
「でもすごい強かったよ」
ミムジィ
「いい子だったし……」
スバル
「お前の言ういい子、って、あんまり……」
ミムジィ
「えーっ!」
スバル
「偏ってるだろ、お前の評価……」
ミムジィ
「ペペルくんの良さは24時間ばっちりわかっていくからね、ここからね」
ミムジィ
「いい子だって証明してくれますよ、ペペルくんが」
スバル
「ふうん」
スバル
「ところで、あれはその時から一緒だったのか」
スバル
モニターの中、エレベーターの扉の前で小さくなっている末裔を指さす。
ミムジィ
「いや……」
ミムジィ
「どうしたんだろ」
ミムジィ
「あっ引っ張られてる」
スバル
「なんなんだろな」
ミムジィ
「赤い招待状なんじゃない?」
スバル
「覚悟、決まらなかったのかね」
ミムジィ
「無理もないよ。末裔だし……」
ミムジィ
「あっ、でもなんか威勢のいいこと言ってるね!」
スバル
――俺とペペルさんが勝って……そして、俺が堕落の国を救うんだ!
スバル
「……あの発言ってお前的にどう?」
ミムジィ
「かっこいいじゃん」
スバル
「さよか……」
ミムジィ
「スバルはどうなの」
スバル
「どうって」
ミムジィ
「どうって聞いたのはそっちでしょ!」
スバル
「おれは、誰の手でだって、世界が変わるなんて思っちゃいないよ」
ミムジィ
「スバルはそう言うよねえ」
スバル
「変えられるなんて」
スバル
「……そんなのは夢だろう」
ミムジィ
「まあまあ、今に見てなって」
ミムジィ
「なーんて言えなくなっちゃったなー」
スバル
「そうだな」
ミムジィ
「あーん」
ミムジィ
足をじたじたしている。
スバル
そのさまに、わずかな沈黙。
スバル
例えば。
スバル
おれにも、あのイモムシのように。
スバル
おれがお前の代わりに、この世界を救うと言えたなら。
ミムジィ
机に伏せたまま。
ミムジィ
「スバルはそれでいいよ」
スバル
「……いいも悪いも」
スバル
「どうにもならん」
ミムジィ
「いいって言いたいから言っただけ~」
スバル
「はいはい」
スバル
「……お前のそういうところは、もう言っても治らんとわかってるよ」
ミムジィ
「さすが私の相棒」
スバル
モニターから、ミムジィへと視線を移す。
ミムジィ
机に伸びたままだ。
スバル
「ミムジィ」
スバル
「お前、相棒なんていらないんだろう」
ミムジィ
「え?」
スバル
「いつ寝首を掻かれるか」
スバル
「いつ裏切られるか」
スバル
「そういうことをさ」
スバル
「お前、考えずにはいられないだろ」
ミムジィ
「うん」
ミムジィ
「でも一人は一人で怖いよ」
スバル
「ん」
ミムジィ
「救世主とは組めないしね」
ミムジィ
一時的な連帯ならともかく、救世主と長く旅することはミムジィには難しい。
ミムジィ
そう思うにふさわしい経験をしてきた。
ミムジィ
「だから助かってるよ」
スバル
救世主は救世主なりに。末裔は末裔なりに。身の程やら、分やらががある。
スバル
ただ、側に寄せるに、都合のいい。
スバル
そんな相手。
スバル
エースはエースらしく。ジャックはジャックらしく……。
スバル
ため息ひとつ。
スバル
画面が移り変わっていく。
ミムジィ
ミムジィ
「あっ、アルビーさんがご飯食べてる!」
ミムジィ
「食べるんだ……、あっ落ちた」
スバル
「うわ……」
スバル
「実際何がどうなってるんだろうな、あれ」
ミムジィ
「気になりますねえ~」
スバル
「まあ、ああやって直球になんでも聞くのもどうかと思うがね……」
スバル
ペペルを見ている。
ミムジィ
「子供らしいっちゃ子供らしいよ」
スバル
「なんというか」
スバル
「素直だよな。こんな世界に落っこちてきたってのに」
ミムジィ
「なんでだろうね。元々大変な世界だったんじゃないかなあ」
ミムジィ
「落差ってあるでしょ? ここよりもっと過酷な世界から来た人だと、堕落の国で生き生きしてたりするし」
スバル
ここより過酷な場所。うまく想像ができない。
ここより良い場所が想像できないのと同じだ。
スバル
このホテルは、『良い場所』だろうか。
手に入るものは多いけれど。
ミムジィ
元の世界は、ここよりずっと良い場所だと言える。
ミムジィ
それでも元の世界に帰りたくないというのは、どうかしているとわかっている。
ミムジィ
「みんな、どんな世界から来たんだろうねえ。話せたら聞いてみたいね」
スバル
「興味あるのか」
スバル
「……すこしばっかり、意外だな」
ミムジィ
「そう? これでもフレンドリーな救世主で通ってるんだよ?」
スバル
「それっぽく通してるだけだろが」
ミムジィ
「あはは」
ミムジィ
「戦わないで済むならそれに越したことないから」
ミムジィ
「仲良くお話できる相手ならしてきたよ」
スバル
「本心から?」
ミムジィ
「100%本心じゃなくても、本心は本心だよ」
スバル
「……それは、まあ、……わかるな」
スバル
自分もそうして言葉を、振る舞いを選ぶからだ。
ミムジィ
「このあと殺し合うしかないってわかってても、なんか仲良く話し合えるような瞬間って、あるしね」
スバル
「ん」
ミムジィ
「ペペルくんも割と、そんな感じなんじゃない?」
スバル
「勝ち上がって、もしあいつらとやりあうことになったら」
スバル
「おれたちも、そういうことになるかもしれないしな」
ミムジィ
「そのときはティーパーティーだねえ」
スバル
「砂糖を三つ入れて?」
ミムジィ
「そうそう。タルト、ケーキ……。スバルはサンドイッチがいいね」
スバル
画面の向こうでは、どうせ誰かが食べ切ったりはしない料理がずらずらと並んでいる。
スバル
それよりは、まあ。
三段のスタンドのほうが、ましかも知れない。気持ち的に。
ミムジィ
「……やっぱりイモムシの末裔じゃないのかな、アルビーさんって」
ミムジィ
「スバルはグリフォンの末裔について、どう思ってるの?」
スバル
「どう……」
スバル
「んん……」
スバル
先ほど小さくなっていたイモムシの末裔が、イモムシの末裔を扱き下ろすのを聞きながら、
スバル
「……まあ、そんなに嫌いってわけじゃない」
スバル
「おれたちはたぶん、ほかの末裔に比べたら、選択肢が多い。どこへ行くか、どこへ行けるか」
ミムジィ
「うん」
スバル
「この世界で、それってのはかなり運がいいんだな」
ミムジィ
「だねえ」
スバル
「……でも、たかだかそれだけ、とも思う」
スバル
「世界のどこへ飛んで行けても、世界はだいたいどこでも同じだ」
スバル
「だから、別に。嫌いじゃない。でも、特別好きでもない」
ミムジィ
「それがあるのが前提だもんね、スバルにとっては」
ミムジィ
「ない人からは、羨ましがられたりするんだろうけど」
ミムジィ
「別に私たち救世主みたいに別の世界から来なくたって、」
ミムジィ
「みんな、別の世界の住人みたいなものかもね、なんか」
スバル
「みんな、ほどほどに同じようなつくりに見えて、言葉が通じて……だから同じような気になっているだけだ」
スバル
「もともと、そういうもの」
スバル
翼というのは、末裔の中でもかなりはっきりとした差異だ。
スバル
それでも同じように、末裔とひとくくりにして救世主と分ける。
スバル
救世主がいなかったら、きっと、末裔というくくりはもっと細かく割れ砕けていただろう。
スバル
「ミムジィは、例えば」
スバル
「手足やら、耳やら」
スバル
「一番最初のかたちに戻せるとしたら、どうしたい」
ミムジィ
「案外ねえ、これで過ごしてるとこれが自然ってなっちゃうもんなんだよね」
ミムジィ
「別に今さらどうしたいってないかな」
スバル
「これから元の世界に帰るとしても?」
ミムジィ
「あっそれは困るよ!」
ミムジィ
「元の世界に戻るなら全部戻らないとほんと困る」
ミムジィ
「というか死んじゃうんじゃない?」
ミムジィ
「なんか、作りとか、なんとか」
ミムジィ
「色々適当だよこれ。心の疵の力がどうにかしてるだけで」
スバル
「……今のお前が色々とつぎはぎなのは知ってるけど」
スバル
「お前ってもともとどういう手足とかなの?」
ミムジィ
「よくある感じの人間だよ」
スバル
「救世主に一番多いやつか」
スバル
「そりゃあ……困るだろうな。かなりやばい」
ミムジィ
「あとでホテルマンさんに聞いておこっと」
スバル
「聞いてなんとかなりゃいいんだが」
ミムジィ
「ダメならダメで、諦めつくし」
ミムジィ
「はっきりさせておきたいね」
スバル
「……まあ」
スバル
「内臓引きずって歩いてるやつよりは、望みがあるんじゃねえか」
ミムジィ
「確かにね!」
ミムジィ
ミムジィ
「お、招待状使うんだねえ」
ミムジィ
「確かに、あの包帯、気になるよね~」
スバル
「赤いやつな。……あれはやっぱ疵絡みなのかね」
ミムジィ
「じゃないかな……」
ミムジィ
「私たち救世主の姿は、心から作られているっていうし……」
ミムジィ
「ファッションじゃあないでしょう」
ミムジィ
「あっ、つながったままだ」
スバル
「……なんか、呼び出した方がもたもたしてんなあ……」
ミムジィ
「かわいい」
ミムジィ
「愉快だな~」
ミムジィ
「私達はスムーズな運行をしたいね」
スバル
「あんまり考えなしに呼んだっぽいしな」
スバル
「ああまでならないだろ」
ミムジィ
「あっ」
ミムジィ
ネがお茶でお菓子を台無しにした。
ミムジィ
「まあ、どうしたって悪意のやり取りだもんねえ……」
スバル
「そのわりに、103の連中は真っ正直過ぎやしねえか」
ミムジィ
「まあ……器用なことは得意じゃなさそうだし」
ミムジィ
「ときには、そういう正直さこそが通ったりもするけどね……」
ミムジィ
「アルビーさん迎えにきちゃったねえ」
スバル
「あっちは崩れないねえ、ペースが」
ミムジィ
「あっキスした!」
ミムジィ
「そういう仲なんですねぇ~えへへ」
スバル
「なんか楽しそうだなお前……」
ミムジィ
「ひとがいちゃいちゃしてるのみると、にや~ってしちゃわない?」
スバル
「そうかあ?」
スバル
どっちかっていうと、うえ~ってなるほう。
ミムジィ
「今度はチャペルに行ったな。結婚式なんだか、葬式なんだかって感じだね」
スバル
「建物の中にあんなもん作るのってどういうことなんだか……」
ミムジィ
「まともな建物じゃないね」
ミムジィ
「このホテル自体、心の疵の力か何かで出来てるんじゃないかな」
スバル
「だろうな。……こんな高い建物、作ろうと思って作れねえよ」
ミムジィ
「あっ、ジャンさん!」
ミムジィ
招待状の力で、中空に現れるジャンに驚く。
スバル
「えっ、ありなのかあれ……」
ミムジィ
「器用なことができるねえ」
ミムジィ
「浴槽に沈めたりもできるんじゃない? あれ」
ミムジィ
「おっ、つかんだ」
スバル
落ちる怖さって、そういえば感じたことないな……
スバル
強張った顔のジャンを見ながらふと思う。
ミムジィ
「慣れてるなら、どうってことないんだけどね、あれくらい」
ミムジィ
なんど崖から落ちたことか……。
ミムジィ
6ペンスコインが10枚だったら、危ないかもしれない。どうだろう。
スバル
「それはそれでよく生きてるよ」
ミムジィ
「本当にいざというときは崖に落ちて逃げるとね、相手が追ってこないからね」
スバル
「なるほどな……」
スバル
飛ぶ手段があるので、落ちて逃げるというのは考慮の外だ。
スバル
ミムジィなら抱えて飛べるかな。ぎりぎりか。長距離は無理だな……。
ミムジィ
「この人はほんっと遠回りな喋り方をするねえ」
スバル
「おれ、ああいうのとまともに喋れる気がしねえな……」
ミムジィ
「あはははは」
ミムジィ
「じゃあそのときは私がおしゃべりしよう」
スバル
「別に頼みゃしないけど」
ミムジィ
「あの話、本当かな……」
ミムジィ
それなら助けに行かなくちゃ、となめらかに思う。
スバル
「お前、また余計なこと考えてるな」
ミムジィ
「だって~」
ミムジィ
「故郷に対するわだかまりかあ……」
ミムジィ
「スバルはグリフォンの末裔についてどう思ってるの?」
スバル
「また聞くのか……」
ミムジィ
「人となりとかってより、無事であってほしいとかさ」
スバル
「……まあ、帰ったときになくなってたら、そりゃあ……」
スバル
悲しいとか辛いとか、そういう事を言葉にはしないが。
ミムジィ
「無事には越したことないってかんじか~」
スバル
「積極的に滅んでほしいとは思わねえな」
スバル
「まあ、無事だと心が痛まねえな、ってかんじ」
ミムジィ
「なるほどね」
スバル
ずるりと滑り、落ちていくジャンを見る。
スバル
「あ」
ミムジィ
「死ぬときは死ぬんだ、か……」
ミムジィ
死なずに生きている末裔。
ミムジィ
私もまた、どうしてか死なずに生きている。
ミムジィ
それが死ぬときじゃなかったのか、死んだ後も生きているだけか。
ミムジィ
落下していくジャンをぼーっと見ている。
ミムジィ
ペペルがキャッチするところもまた。
スバル
卑怯だとか、恥ずかしくないのかとか。
スバル
「言うねえ」 どこか冷めた声。
ミムジィ
「私は好きだけどね」
ミムジィ
そうは言いつつも、ミムジィの戦い方は泥臭い。
ミムジィ
高潔さより、実をとるところがある。
スバル
「単に好きなぶんには構わねえけど」
スバル
「正面切って言うかあ?って感じなんだよな」
ミムジィ
「まあ~」
ミムジィ
「言いたいことはわかるけどね」
ミムジィ
「……ペペルくんがこのホテルでどういう結論を出すのか、気になるよ」
スバル
「結論ね……」
ミムジィ
「会って話せるといいなあ」
ミムジィ
「今度は冷凍室? 寒そうだな~」
ミムジィ
ミムジィも、毛皮に覆われているとはいえ素足だ。まともに足も踏めないだろう。
スバル
「裸足でわざわざよく行くよ」
ミムジィ
手を絡め取る仕草を見て。
ミムジィ
「あっいちゃついてる!」
スバル
ふれあい。霜の降りた肉塊に囲まれて。
スバル
連ねられる言葉遊び。
ミムジィ
「スバルはああいうのできるの?」
スバル
「は?」
ミムジィ
「なんか頭回るじゃん?」
スバル
「…………いや」
スバル
「無理」
スバル
非常に嫌そうな声を出した。
ミムジィ
「口づけだ」
ミムジィ
その冷たい、死の味を想像する。
ミムジィ
柔らかさ、温かさはきっとそこにない。
ミムジィ
ふと、熱を疎んでいたあの男は、あんな口づけならば受け入れられるのだろうかと思い出した。
ミムジィ
紅茶を口に運ぶ。いつの間にか冷めている。
ミムジィ
「この二人はさ」
ミムジィ
「生きてる間に結ばれたのか」
ミムジィ
「死んだ後に結ばれたのか」
ミムジィ
「どっちなんだろうね」
スバル
「……さあ……」
スバル
「お前の言う、結ばれるってなんだ?」
ミムジィ
「わからない、けど」
ミムジィ
「結ばれてるでしょ、あの二人は」
ミムジィ
堕落の国。心が姿に現れる。
ミムジィ
それはキズナかホダシかわからないけれど、太く赤いものに結ばれている。
スバル
「……わからんね、おれには」
ミムジィ
「スバルはどう?」
ミムジィ
「結ばれるってどういうこと?」
スバル
「……わかんねえよ」
スバル
「結ばれたことなんてないし」
ミムジィ
「あはは」
スバル
「これからもないんじゃねえの」
ミムジィ
「え~?」
ミムジィ
「でもあれだね」
ミムジィ
「珍しいこと聞くね」
スバル
「…………」
ミムジィ
「救世主の力を得たらモテまくりですよ」
スバル
「別に嬉しかねえな」
ミムジィ
「私も言ってみてそれで喜んでるスバルの想像が全然つかない」
スバル
「だろーな……」
スバル
基本的に冷めている。いつでも。何に対しても。
スバル
ミムジィと一緒にいるときは、多少ましかもしれないが。
ミムジィ
その差をミムジィは知らない。
ミムジィ
自分の目の前にいるスバルがいつものスバルだからだ。
ミムジィ
ミムジィ
カメラは切り替わり、103号室は倉庫へ。
スバル
「こっちのおしゃべりは、ばかに素直で結構なこった」
ミムジィ
「いいこと言ってると思うよ」
ミムジィ
――あいつは、自分の間違いや後悔をジャンにも背負わせようとしているんだよ。
ミムジィ
「アルビーさんの間違いや後悔かあ」
ミムジィ
「確かに、真に迫ったなにかを感じたよね」
スバル
「……疵なのかねえ、やっぱり」
ミムジィ
「案外素直な人なのかもしれないね」
ミムジィ
「アルビーさん」
スバル
「迂遠に喋るのと素直さって両立するもんなのか……」
ミムジィ
「率直に喋ってても素直じゃないことだってあるでしょ?」
スバル
黙った。わりとそういうタイプなので。
ミムジィ
お茶を注ぎ足し、飲む。
ミムジィ
「『あの人のことを、もっと知るのに役立てられる』」
ミムジィ
ジャンの言葉を繰り返す。
ミムジィ
「優しいね」
ミムジィ
ペペルくんに合わせたその物言い。
スバル
「甘いの間違いじゃねえの……」
スバル
こちらも茶を啜りつつ。
ミムジィ
「甘いくらいがいいよ……」
ミムジィ
ジャンの決意に満ちた表情を見る。
ミムジィ
――ボクはキミの中に居続けるから。
ミムジィ
それはこの戦いの果てに別れがあることの証左だ。
スバル
目を細める。
スバル
寂しいよ。
スバル
つい先日、そう言ったのを思い出した。
スバル
言わずにいればよかったと思う。
言うしかなかったと思う。
スバル
「…………」
ミムジィ
お茶を飲む。注ぎ直したばかりでも、もう冷めている。
スバル
「……ポットごと変えてもらえ」
ミムジィ
「うん」
ミムジィ
頷いた頃にはもう、ホテルマンがそれを用意していた。
スバル
スバル
廊下に、ペペルの姿。
スバル
吹き抜けに、招待状の紙飛行機が飛ぶ。
スバル
「今度はどんなお話をする気かね」
スバル
あのとことん迂遠な相手と。
ミムジィ
「愉快な話になればいいけど」
ミムジィ
そうならないのは知っている。
スバル
キミにとって得な提案。
スバル
「敵に得もへったくれも」
ミムジィ
「結局……殺し合いだからね」
ミムジィ
「それでも、さ……」
ミムジィ
「……自分の心の疵には嘘をつけないものだね」
ミムジィ
芝居がかった言い回しをしているのは変わりないけれど。
スバル
どれだけ隠しておきたくとも、それに触れねば戦えない。
スバル
そして、触れれば痛む。
スバル
「……お前もやっぱり、死ぬのは怖い?」
ミムジィ
「あんまり怖くない」
スバル
「ふうん」
ミムジィ
「死んだことがあるんだよ、私は」
ミムジィ
「運良く、死なないで、部分的な亡者化で済むことがある」
ミムジィ
「その運良く、が1回だけあったから」
ミムジィ
「あんまり怖くないのかもしれない」
スバル
「…………」 ミムジィを見る。つぎはぎの姿。
スバル
「……お前それ、本当に『1回』か?」
ミムジィ
「1回だよ」
スバル
「……そう」
スバル
特にそれ以上食い下がりはしない。
スバル
画面の向こうは画面の向こうで、竜の血を浴びただとか、そういう話をしている。
スバル
「生まれつきの身体って、結構、変わっても生きてけるもんなんだな」
ミムジィ
「脚は流石に困ったけれどね」
ミムジィ
「でもまあ、結局救世主は心で動いてるから」
ミムジィ
「そうって思えば慣れちゃうよ」
スバル
「末裔の身にゃわからんな……と言いたいとこだが」
スバル
「あいつなんかは、そこんとこよくわかってそうだ」
スバル
なにせ内臓を引きずって歩いている。
ミムジィ
「私も死んで生きてるみたいなもんだから」
ミムジィ
「仲良くなれるかもね!」
スバル
「向こうはお前みたいなタイプに絡まれるの嫌いじゃねえの」
ミムジィ
「あははは」
ミムジィ
「私は嫌われるの嫌いじゃないから」
ミムジィ
「大した問題じゃないですねぇ」
スバル
「さよか……」
スバル
血を流すペペルから、アルビーがじり、と距離を取る。
スバル
「ほとんど不死身の血か」
スバル
言いつつも、さほど興味のない顔をしている。
スバル
「おれも御免かな……」
ミムジィ
「私はなりたいね」
スバル
「ふうん?」
ミムジィ
死ぬことも怖くないし、生きることも怖くない。
ミムジィ
『ミムジィ』はそうだ。
ミムジィ
「そしたら真の救世主へまた一歩近づけるチャンスだよ」
スバル
「またお前は……」
スバル
「真の救世主なんていやしねえよ。最後の一人になる、なんて」
スバル
「そんなもん、夢物語だ」
スバル
救世主は招かれ続けている。この国に。数限りなく。
ミムジィ
「あいにく、夢にも思わないでこの世界に来たんだからね」
ミムジィ
「夢物語だったら、それは叶うってことだよ」
スバル
「はあ……」
スバル
溜息とともに、モニターの中でアルビーが吹き抜けを落下する。
スバル
骨の砕ける音まで聞こえた。
ミムジィ
「うわっ」
スバル
「ありゃ酷い」
ミムジィ
「あの血を飲んで……アルビーさんから失われるものって何かな」
スバル
「……結びつき」
スバル
「とか」
スバル
あの赤い紐。
ミムジィ
ふっ、と笑う。
ミムジィ
「それじゃやっぱり、結ばれてるじゃん」
スバル
「本人がそう思っていたいことってのは」
スバル
「『そう』なんだろうよ」
スバル
「ま……」
スバル
「救世主様のほうがどう思ってるかは、おれにゃわからんが」
スバル
アルビーを睨みつけ、平手打ちを繰り返し、叫んで、呻いて。
スバル
何がそうさせるのか。
ミムジィ
「痛ましい」
ミムジィ
どっちが? どっちも。
ミムジィ
堕落の国はそういうところだ。
ミムジィ
心に疵を抱えている。
スバル
スバルにはそれが、その痛ましさが、よくわからない。
スバル
ばかだな、と思う。
スバル
『今』のスバルは、きっと、『わかることができる』。
スバル
でも、わからない。
スバル
わからないままにしてある。
ミムジィ
「不意はつけても」
ミムジィ
「あそこからは飛び降りないな、私」
スバル
「そうだな」
スバル
どうなるか、今まさに実演されたところだ。
ミムジィ
アルビーがネに引きずられて運ばれている。
ミムジィ
救世主の力があろうとも、その体格の差自体は埋まらない。
ミムジィ
あんなふうに運ばれたことがあったな、と思う。
ミムジィ
無茶をすればそうなる。
ミムジィ
「どうして私たちにあの、紙切れが届いたんだと思う?」
ミムジィ
ネの言葉を繰り返した。
スバル
「……知るかよ」 投げやりな応え。
ミムジィ
だよねえ、と笑う。
ミムジィ
こんなのもらったっていいことなんかないよ、と散々確認したばかりだ。
ミムジィ
――兄様に会いたいな。
ミムジィ
会いたい、と思う人はいるだろうか。いただろうか。
ミムジィ
覚えてない。
ミムジィ
覚えていたら、帰りたいと思っただろうか。
スバル
――ここいらで終わりにしたい連中の集まりだよ、ここは。
スバル
終わりにしたいと望んだことがあったろうか。
スバル
わからない。
スバル
おれはおれが変わってしまったことを知っていて、だからこそ、もう。
スバル
「……お前のせいだと思うほうが、か」
ミムジィ
「んふふ、どっちかのせいでここにくることになったとか、あえて思ってみますか?」
スバル
「ばか」
スバル
「どっちでもそんなに変わらん」
ミムジィ
「そうだね」
ミムジィ
「スバルは私のどこが好き?」
ミムジィ
ネの口ぶりを真似て。
スバル
はあー、と大袈裟に溜息をついて、
スバル
「お前のこと好きに見えるか?」
ミムジィ
「あはは」
ミムジィ
「まあ、あの二人みたいな感じとは違うけどさぁ」
ミムジィ
「曲りなりに手伝ってもらっているわけで」
ミムジィ
「それなりの、まあ組んでやるかってのはあるじゃん?」
ミムジィ
「ちなみに私はね」
ミムジィ
「私が救世主であることが好きだよ」
スバル
「おれはお前のそういうとこ、かなりどうしようもねえなと思ってるからな」
ミムジィ
「ええ~?」
スバル
「マジでどうしようもねえと思ってるからな……」
スバル
繰り返した。
ミムジィ
「じゃあどうしてほしいのさ」
スバル
「ええ……」
スバル
たいへんに面倒くさそうな声が出た。
ミムジィ
「まあ」
ミムジィ
「変えらんないけどね」
スバル
「だろうよ」
ミムジィ
二人に雷を落とすペペルを見る。
ミムジィ
「……ペペルくんも、どうしてこんな戦いにきちゃったかな」
ミムジィ
「正直、あんまり見たくないね、こういうところは」
スバル
雷光に打ち据えられる二人。
スバル
赤い帯がたなびいている。
ミムジィ
「……」
ミムジィ
救世主はそれでも無慈悲に振る舞わなければいけない場面に突きつけられる。
ミムジィ
それを乗り越えてきてここにあるはず。
ミムジィ
堕落の国。
ミムジィ
ここにあって罪からは逃れられない。
ミムジィ
前科は募る。免罪符では払いきれないほどに。
スバル
罪なしには生きてゆかれない。
スバル
「騙そうとしているだとか」
スバル
「ガキみたいなことを……」
ミムジィ
「……」
ミムジィ
「どういうことだろうね」
ミムジィ
その内実は見ているだけではわからない。聞いてみなければ。
ミムジィ
それでも、誰しも、生きていくために、罪をやり過ごす方法が必要だ。
ミムジィ
それが出来なければ。
ミムジィ
磨き抜かれた銀のカトラリーに映る、己の姿を見る。
スバル
画面を見ている。
アルビーがばらばらに砕けるところを。
スバル
「……容赦のないこった」
ミムジィ
「はー」
ミムジィ
「いやだな、こんな風に映されるの」
スバル
「…………」
スバル
ちら、とミムジィに視線をやる。
ミムジィ
「末裔のみんなに見せたくないからね」
ミムジィ
「あんまり、こういうの」
スバル
「そう……」
スバル
ペペルがその場を去る。
スバル
その、よろめくような足取りに。
スバル
「……見せたくない、か」
ミムジィ
「いやあ、だってそうでしょ」
ミムジィ
その見せたくないというのは、スバルにも掛かっている。
スバル
「……見栄っ張り」 あえて小馬鹿にしたような声でそう言った。
ミムジィ
「まあ……見栄っ張りだよ」
スバル
「足元掬われない程度にしとけよ」
ミムジィ
「そこはまあ、フォローよろしくね」
スバル
「へいへい……」
ミムジィ
ミムジィ
お茶会が終わる。
スバル
巨大なエレベーターに4人が揃う。
ミムジィ
「世界を救う使命かぁ」
スバル
「『救世主様』のお言葉だな」
ミムジィ
「ペペルくんは元の世界でも勇者だったんだねえ」
ミムジィ
「『救世主様』だ」
スバル
「だなあ」
ミムジィ
「でもそうなら、ペペルくんが優勝したほうがいいんじゃないかな」
スバル
「なんで?」
ミムジィ
「それで色んな人が救われるわけでしょ?」
ミムジィ
「この世界も、ペペルくんの世界も」
スバル
「どうだか」
スバル
「いろんなひと、なんてのは」
スバル
「……おれはわからんね」
ミムジィ
「うーん……」
ミムジィ
まだこのことについて、ミムジィは結論を出せない。
ミムジィ
心の疵に触れる問題。
スバル
そして画面の向こう、短い語らいの時間が終わる。
ミムジィ
裁判開廷。
ミムジィ
「どちらも負けてほしくない」
スバル
無理だとわかっていながらそういうことを口にするミムジィを、ばかだなと思う。
スバル
短剣の閃き。まず最初に散った血飛沫のひとひら。
スバル
汚くても、なんだってしてやる。
スバル
そうだな。おれだってそうする。
ミムジィ
私もそうする。
ミムジィ
だからあんまり見せたくないよ。
スバル
「毒」
スバル
「対応できない時はできないからな」
ミムジィ
「スバルも使うよね、毒」
スバル
「便利だし……」
スバル
便利だからという理由で使うことに躊躇がない。
ミムジィ
ペペルの強力な一撃。
ミムジィ
6ペンスコインが失われ、かつてほどの威力はない。
ミムジィ
それでもその苛烈さの片鱗がよくわかる。
ミムジィ
心の疵。心の有り様。
ミムジィ
その堂々たる一撃は、自分を勇者と信じているからこそのものだ。
ミムジィ
――行かないで。
ミムジィ
「……」
スバル
胴が半分になるような一撃。
赤い帯がかろうじて繋いでいる。
スバル
行かないで、か。
スバル
ちらりとだけミムジィを見る。
ミムジィ
冷めたお茶を飲みながら、じっと画面を見ている。
スバル
行かないでなんて言わないだろうな。たぶん。おれも、ミムジィも。
スバル
叩きつけるようなネの言葉を聞きながら、思う。
ミムジィ
ずっと黙っている。
ミムジィ
かわされる言葉の一つ一つが心に触れる。
スバル
抱きしめたまま奈落の底へ。
スバル
手放せなければそうするしかない。
スバル
ミムジィが黙っているので、スバルもただ黙っている。
ミムジィ
「スバルは」
ミムジィ
その言葉は切れ端。
ミムジィ
続く言葉はない。
スバル
「ん」
スバル
短な応えも、先を促さない。
スバル
立ち上がる死体。
スバル
「奇跡」
スバル
ペペルの言葉を繰り返す。
スバル
「……あんまりいい趣味じゃねえな」
ミムジィ
「そうだね」
ミムジィ
本当にそう思っているかわからない、空虚な返答。
ミムジィ
続く言葉。繰り返される、行かないでという言葉。
ミムジィ
オリバーのことを思い出す。
スバル
明らかな生返事に、今度ははっきりとミムジィを見る。
ミムジィ
その視線に気づかない。
スバル
どうしたんだ、とも、大丈夫か、とも言わない。
ミムジィ
それからはっと気付いて、茶菓子をごまかすようにかじる。
スバル
「…………」
スバル
――みなが自分ことだけを考えて、ひとのことに口出ししなけりゃ、この世は今よりずっと上手く行くものを……
スバル
さて。
スバル
自分のことばっかり考えたとき、『こう』なっちまったらどうしたらいいっていうんだろうな。
ミムジィ
なにであれ、どうであれ。
ミムジィ
上手くなんか回っていない。
ミムジィ
何一つ。
スバル
赤い花冠。
スバル
直後、ペペルの雷を纏った一撃。
スバル
吹き飛ぶ身体。
スバル
繰り返し呼ばれる名前。
スバル
「……おれがぶっ倒れても」
スバル
「……いや」
スバル
言いさして、やめた。
ミムジィ
おそらく先に倒れるのは私だ。
ミムジィ
「大丈夫だよ」
スバル
溜息。
スバル
ミムジィのようになりたいと思ったことはない。どんな意味でも。
スバル
けれど、自分の領分とミムジィの領分を並べてみたとき、溜息をつきたくなるときはある。
スバル
今のように。
ミムジィ
何度か目を伏せる。それでも画面を見る。
ミムジィ
目をそらせないということと、目をそらしたいと思うこと。そのいずれもが一つの疵に由来する。
ミムジィ
茶を飲む。
ミムジィ
そうすることで真っ直ぐ見えるようになるからだ。
ミムジィ
この二部屋の戦いは心の疵に触れすぎている。
スバル
あそこでやりとりされているのは、刃だけではない。
スバル
言葉。情念。
スバル
重く深い。
スバル
一人で見ていたとすれば、きっと、どうでもいいと言えた。
スバル
しかし今そこに、カップを手にして黙り込んだミムジィがいる。
スバル
「……ミムジィ」
スバル
「大丈夫か」
スバル
先程には言わなかった言葉を、静かに投げる。
ミムジィ
「大丈夫だよ」
ミムジィ
「大丈夫」
ミムジィ
すべてが大丈夫か、そうでなければ、はじめから何一つ大丈夫ではない。
スバル
「……ほどほどにしとけよ」
ミムジィ
ほどほどはないのだ。
ミムジィ
生きるか、死ぬかの両面。
ミムジィ
コインの裏表。
スバル
疵。
スバル
それは本来、やはり『救世主』のものだと思う。
スバル
六ペンスの力に裏打ちされなければ、それはただ、損なわれただけのものだ。
スバル
目を逸らしてもそこにはある。けれど目を逸らしたって構いやしない。
スバル
疵を疵として振るわざるを得ない救世主だからこそ、それは。
ミムジィ
救うもの、取りこぼされるもの。
ミムジィ
いずれにせよ、目の前で今まさに取りこぼされていく。
ミムジィ
勇者の振るう剣。
ミムジィ
救世主の振るう剣。
ミムジィ
いずれにせよ剣は傷つける道具。
ミムジィ
分かつ道具。選ぶ道具。
ミムジィ
剣(saber)はすべてを救うもの(saver)ではない。
ミムジィ
救世主の責務。
ミムジィ
それは救うものを選ばせる。
ミムジィ
世界はすべてを救えないことを強いる。
ミムジィ
「全部を救えないとするなら」
ミムジィ
「何を救えばいいと思う?」
スバル
「自分の心」
スバル
すぱ、と言い切る。
スバル
「まずそれがなきゃ、他は望めねえよ」
ミムジィ
「それは逆だよ」
ミムジィ
「救うものがあるから救われるんだ、私は」
スバル
「…………」
スバル
行かないで。
スバル
先に聞いた言葉がリフレインする。
スバル
「……お前は」
スバル
「選べる?」
ミムジィ
「うん」
ミムジィ
その返答は早かった。
ミムジィ
「そうしてきたからね」
スバル
「ならいいよ」
スバル
「おれも選べる」
ミムジィ
「知ってる」
ミムジィ
「スバルは、そりゃ、そうでしょ」
スバル
「そう?」
スバル
「いや、まあ、そうだな」
ミムジィ
「でしょ」
ミムジィ
決着がついた。
ミムジィ
ペペルの剣がネの首を断つ。
ミムジィ
最期の表情。その意図はわからない。
スバル
ペペルとジャンが腕を上げて勝利を示す。
スバル
そして尋ねられる、『生』と『死』。
ミムジィ
「……」
ミムジィ
「スバルだったらどうする?」
ミムジィ
「ネと、アルビー」
ミムジィ
「生かす? 殺す?」
スバル
「殺す」
ミムジィ
「だよねえ」
ミムジィ
――あまねくすべてのものは死ぬべきなのだ。
ミムジィ
――どうして生きているのか。
ミムジィ
「ペペルくんは、生かすんだ」
ミムジィ
そして蘇る。
ミムジィ
ネも、アルビーも。
ミムジィ
蘇る。
スバル
「……生かしてどうなるもんでもあるまいに……」
ミムジィ
「いや……」
ミムジィ
今やアルビーは死体ではない。
ミムジィ
当然のように寄せる、目覚めの挨拶。
ミムジィ
――アルビー、僕たちの勝ちだよ。
ミムジィ
この言葉は真実だと思う。
ミムジィ
「それで良かったんだよ」
スバル
ネを抱きしめるアルビー。
スバル
愛していると。
スバル
「……それで良いなんて」
スバル
「わかんねえよ」
ミムジィ
「そう信じるしかない」
ミムジィ
「このホテル、このゲームで」
ミムジィ
「何かを見つけたと」
ミムジィ
「じゃなきゃ、救われない」
ミムジィ
私が。
ミムジィ
ネは石となる。
ミムジィ
石像には表情がある。
ミムジィ
苦悶を浮かべている石像。喜びを浮かべている石像。
ミムジィ
石像には意識があるという。
ミムジィ
それが朽ち果てるまでの長い時間。
ミムジィ
どうか救いがあればと思う。
スバル
そしてエレベーターは奈落のような地下へと。
スバル
並ぶ扉の前で、アルビーに差し出される赤のトランプ。
ミムジィ
そのトランプをすべて引ききる。
ミムジィ
立ち止まることなく。
スバル
血のように花弁のように、引いては落とすカード。
スバル
最後まで引ききって――満足した、と一言。
ミムジィ
ホテルマンになるだろう、とは思っていた。
ミムジィ
最後に残るはハートのキング。
ミムジィ
開くドア。行き止まりの壁。
ミムジィ
どこにもいかない。
スバル
そばにいる。
スバル
ずっと?
ミムジィ
「スバルは、どこに行ってもいいからね」
スバル
「どこに行っても、ねえ」
スバル
「ま、そもそもあんな扉は使わせないでいただきたいね……」
ミムジィ
「だねえ」
ミムジィ
「よーし、勝つぞ」
スバル
「そうだな」
ミムジィ
「スバルはどこに行ってもいいよ」
ミムジィ
「勝って、その翼で」
ミムジィ
「どこにでも行くといいよ」
スバル
「……考えとく」
スバル
「……まあ、勝つまでには」
スバル
少しばかり、投げ出すような声だった。