ミムジィ
「シニ、ソース……聞いたことない救世主だね」
ミムジィ
「あっ赤いカーペット引いてる! あれって本当にやるんだ……」
ミムジィ
「私の方だと……なんか、お金持ちがやってるってイメージ」
スバル
「……まあ金は持ってそうだし、晴れ……かどうかは知らんが、でかい舞台ではあるな」
ミムジィ
「なんか話だけは知ってるってかんじのものを実際にみると、わ~って思うよね」
ミムジィ
「なんかこう、やっぱり生まれ持っての優雅さがね」
スバル
まあ下々の味方をしたがるよな、と思ったが言わなかった。
スバル
ちらりと映った足元に目を留めた。が、深くは触れない。
ミムジィ
「そういう心の疵か、努力か……。救世主にずっと仕えてたなら、どうにかなるのかも」
ミムジィ
「礼儀正しくっていうのもあんまりできそうにないね」
ミムジィ
「いっぱい人殺すのは勘弁してほしいなあ」
スバル
「とりあえず、悪趣味な観客より自分たちのことを心配しろ」
ミムジィ
「うーん? そうなると、なんというか~」
ミムジィ
「あんまりかわいそうな末裔とか来ると困っちゃうかな」
スバル
たとえ困ったところで、やることは変わらない。
ミムジィは変えない。もちろんスバルも。
スバル
「かわいそうなほうから潰していくからな、おれは」
ミムジィ
「ここまでじゃないけど、見世物というかショーというか」
ミムジィ
「吟遊詩人? みたいなのはスバルは見たこととかないの?」
スバル
「……楽しみ……」 繰り返してから少し黙った。
ミムジィ
「こう、たまには、顔がぱ~っとなるようなことは……」
ミムジィ
「なんかこう、夢って感じじゃないんだよ」
ミムジィ
「遠くにそれが見えてなくても、歩けば近づくものでしょ」
ミムジィ
救済された堕落の国のことを、思い浮かべることはできない。
ミムジィ
それを想像するには現実を知りすぎている。
ミムジィ
「まあだから……遠くの夢より眼の前の敵だね」
スバル
できるなら一方的に不意打ちしてえな……という空気がありあり。
ミムジィ
それから、ジャックとエースの役割が決まるのを見る。
スバル
どちらのペアも。それで揉めるようには見えない。
ミムジィ
豪華な食事が並び、『招待』されるのを見る。
スバル
「あれ、あまりにも不意打ち向きじゃねえか?」
ミムジィ
「使われるのは、ちょっと勘弁してほしいけど」
スバル
「起きてても、あれで呼び出されたら変わんないだろ」
ミムジィ
「まあ、それくらいなら起きてることあるしね」
スバル
「ま、おれもそのおこぼれに預かってるわけだが」
スバル
モニターの向こうの卓上、並ぶ料理の豪華さと。
スバル
それに対して、さしたる感慨も羨望もない自分を思い。
スバル
まあ、救世主ってやつには向いてないな、と結論した。
スバル
「それで、何かが、ずっとどうにかはならない。……ならないと思っている、おれは」
ミムジィ
「だからこれは私が勝手に負ってるものだよ」
ミムジィ
「自分が負ったものは自分でどうにかするしかない」
ミムジィ
救世主として堕落の国にいれば、何かが募るには十分すぎる。
ミムジィ
普段ならあれこれ騒ぐものが、じっとそれを見ている。
スバル
スバルは、そうして黙ったミムジィをこそ見ている。
スバル
視界の端でだけ、カトラリーに切り分けられていく肉を捉える。
ミムジィ
「いや~、ヒトが入った食事しか食べられないなんて難儀だねえ」
ミムジィ
それから何事もなかったように、普段の調子で話す。
スバル
そうしたところで、なかったことにはならない。
だが、『何事もなかった』かのように。
ミムジィ
「ある食材とかを食べると具合悪くなる病気みたいなものだよ」
ミムジィ
「この国で亡者アレルギーになったら生きてけないね」
ミムジィ
ミムジィの血はりんごジュースの味がする。
ミムジィ
4つ。ミムジィの身体に来した瑕疵は、相応の理由とその結果だ。
ミムジィ
ない、みたいなことを言うとわかりきった問い。
ミムジィ
あるいはあったとしても、選べるような環境ではないとも。
スバル
スバルはりんごの味を知らない。オレンジの味を知らない。いちごの味を知らない。
スバル
人喰い三月から採れるワインが、ぶどうの味をいくばくか残しているのは知っている。
ミムジィ
「ご飯に困らないっていうのはいいことだね」
スバル
「腹が一杯になると、むしろ、なんだか変な気分だ」
スバル
「お前にも、コックの末裔がいたらよかったんじゃねえか」
スバル
「あいつら、わりとなんでも食えるようにするから」
ミムジィ
「救世主はコインの力があるし、そう簡単に餓死しないでしょ」
スバル
「そこらの末裔と同じ暮らししたって仕方がない」
ミムジィ
「まあ、あいにく、私は聞き分けがなくてね」
スバル
ミムジィ。大人にも子どもにも足りない、愚かな救世主。
スバル
失って失って失って。
もっと得ようとすれば、得られるものもあるだろうに。
ミムジィ
「コインの力を使ったら早く走れるみたいに」
スバル
末裔によって味が変わる。
漏れ聞こえたその言葉に、軽く目を細める。
スバル
「……さぞいろんなもん食ってる、って感じだな」
ミムジィ
「いや、それしか食べれないっていうのに、食うなとも言えないし」
ミムジィ
「もしここじゃないところで会ってたら、どうしてたかなって」
スバル
「なんの力もないときに、そういうのに遭っちまうのは」
ミムジィ
「そうだったら、こんな関係にはなってないよ、ソースさんと」
スバル
「単にうまいもんが食いたいだけじゃないのかね……」
ミムジィ
「話すことがあったら、色々聞いてみたいねえ」
スバル
「お前、興味を惹かれたものに毎度適当に食いついていくのよしたほうがいいぞ」
スバル
蓄音機から流れる音楽が、モニター越しにこの部屋にも響く。
ミムジィ
「いや、なんかシャノンさんがそう言ってるからさ」
ミムジィ
――ここには、帰りたいと願う救世主や…救世主になりたい末裔といった強い想いが集うと思ってね。
スバル
「何が楽しくて、面倒くさいばっかりの『救世主様』になりたがるんだよ」
ミムジィ
「なんか実際の救世主じゃないから、責務はないんじゃなかったっけ。違ったっけ……」
スバル
「責務がなくたって、コイン持ってりゃ火の粉は降ってくるだろ」
スバル
グリフォンの末裔は、そういう種類がいると知ってさえいれば、見目から明らかに末裔だ。
黙って、昔のように、適当に静かに暮せば案外平和なのかもしれない。
ミムジィ
そのようなことを問いただすのではなく、ただそう言う。
スバル
亡者に潰された近所の村の話を聞いても、自分の腹が死ぬほど減っていても。
生きたいと強く思った覚えがない。
スバル
おれは今でも、そのころのように、戻れるだろうか?
ミムジィ
「それじゃあいいことないじゃん、こんなゲームに参加させられてさあ」
ミムジィ
「スバルが救世主の力、ちょっとほしいかもな~、なんて思ってたらさぁ」
ミムジィ
「なんかちょっとはよかったな~って思えたのに」
スバル
違わないよ、ミムジィ。
おれは、お前がそう思うのに、悪いと思っている。
スバル
「そういうのって、夢を見てる余裕があるやつの言葉だよな……」
ミムジィ
「『夢を見てるのは君なんじゃないかい』」
スバル
「どうせこの国でも、救世主様らしく上澄みを啜って来たんだろう」
ミムジィ
「退屈で、何をすればいいかわかんなくて、そんな感じの救世主」
スバル
「……退屈を自分で始末できないやつが力を持ってると、ろくなことにならねえな」
ミムジィ
役割に囚われている救世主シニと、役割を手放している救世主シャノン。
ミムジィ
ただいたずらに役割から外れれば、迷うのは当然だろう。
ミムジィ
何事もふわりふわりと受け流すようなシャノンを走らせるもの。
スバル
「走り出すのは、準備万端整えてからにしとけよ」
スバル
安心はさせてやれない。どうしたって末裔の身だ。
ミムジィ
「見知った救世主もいてびっくりしちゃった。いなくなったと思ったら」
スバル
「このホテルの趣味が最悪だっつうのがよくわかる」
スバル
「……意識があるって話だよな、だって、あれ」
ミムジィ
「やっぱり、シニさんとソースさんには信頼があるんだねえ」
スバル
「コックってのは、一服盛ろうと思えば、一番ラクな位置だ」
ミムジィ
食についてミムジィができることはそうない。
ミムジィ
そういう点では、毒を盛られるかもしれないという可能性自体を、基本的に放棄していると言ってもいい。
ミムジィ
できるだけ市場のものを購入したり、自分で狩ったものを食べるようにしたり。
スバル
スバルはスバルで、一般的な末裔なりに、亡者の毒抜きやらをできることはできる。
あくまでも一般的な範疇で。
スバル
ただ、何も言わずに、同じ食事に、ミムジィよりも先に手を付けることが多い。
ミムジィ
「自分で自分の味見っていうのも、プロ意識だねえ」
スバル
「……ただやっぱ、あいつ、コックって色じゃねえんだよなあ……」
スバル
コックどもは、基本的にもっと地味だ。色が。
ミムジィ
それから調理場で嘔吐するシニ。それに駆けつけるソースの姿。
スバル
「少なくとも、お前の枚数じゃ無理だろうな」
スバル
「この世界じゃ、コインがあって、だからいろんなやつに力があるように見えるが」
ミムジィ
「え? 何でも出るってそんなものも出るの?」
ミムジィ
「さっきまでのシニさんとソースさんとのいい感じのあれは一体!?」
ミムジィ
「別に私はそんなに疵つかない気がするな」
ミムジィ
特段気にすることなく、そのまま画面を眺めている。
ミムジィ
「そういう亡者と戦ってさ~大変だったんだよ~」
ミムジィ
「全快しないまま救世主探すことになったんだよ」
ミムジィ
「末裔に拾われなかったら終わってたなあ」
スバル
「ああいうタイプの身の危険は?」 顎でモニターを示した。
スバル
「……の割に、そんなに疵つかない気がするとか言うんだな」
スバル
「……本当にわかってるんだろうな、お前……」
ミムジィ
「前は、無防備なところを、大した攻撃されなくてよかった」
ミムジィ
「だからやっぱり、そういう毒ならまだマシかなってだけ」
ミムジィ
「あー、いよいよだめだねえシャノンさん」
ミムジィ
「ここまでセッティングしたらゆっくり休めそうだね」
スバル
「ま……今夜これ以上は動かないだろうしな」
ミムジィ
「ホテルマンさんに動向あったら起こしてもらおっか」
スバル
二人とも、ノックひとつで起きるのだ。起きそこなうということはない。
ミムジィ
特段毎日シャワーを浴びないと気がすまないわけでもないし、
スバル
そうして部屋の明かりとともに、モニターも消した。
ミムジィ
3人があの倉庫を脱して、シャワーを浴びているのを、ベッドでゴロゴロしたまま眺めている。
スバル
「水、……いや、お前は茶か?」 もう普段どおりに動いている。
スバル
「あれのあとに水でも湯でも浴びたくなるのはわかる気がするが」
スバル
「それはそれとして、ああまでされたわりに呑気だなとも思うね」
スバル
「部屋の水場使ってる方はともかくなあ……」
ミムジィ
しばらくして、ソースが転送されるのをみる。
ミムジィ
「そうそう。拷問には拷問をってことかな」
スバル
シャボンの泡とともに並べられていく末裔の名。
スバル
堕落の国で、それなりに見ることができるものはすべて。
ミムジィ
「スバルは他の末裔を食べないと生きていけないことになったらどうする?」
スバル
ソースがああして吐いたのは、縛めのせいか、罪悪感のせいか。
ミムジィ
「救世主が救世主を殺さないと生きていけないのだってそうだからねえ」
ミムジィ
「私も、来たばっかりで、右も左もわからないような子」
スバル
どうでもいいひとつとして埋もれさせずに、個別のものとして。
スバル
こいつは食って、いつかはそのせいで吐くほうだな。
スバル
生きててよかったねえ。死なずにいてえらいねえ。
ミムジィ
――ここに戻ってこない可能性は0ではないだろう。
スバル
「お前……いや……ばかだとは思ってたけどよ」
ミムジィ
「いや、私の身体は正直結構ギリギリだしさ」
ミムジィ
「また戻ってくるっていうのはかなりいいね」
スバル
「帰ったら、こんなところのことは夢だったと思えよ」
スバル
「お前一人いても、堕落の国なんてもんは変わらねえからだよ」
スバル
「……頼りにしてくださって光栄だよ、お嬢様……」
ミムジィ
「同じように入場するだけでも、24時間のお茶会を見た後だと」
ミムジィ
「ぜんぜん違う人に見えるというか、なんというかだねえ」
ミムジィ
「お茶会して、裁判すると、まあ、そういうことを思う」
スバル
「知るし、お茶会のさなかに変わるものもある」
ミムジィ
「相手が思ってたよりいいやつだって思ったり――」
ミムジィ
「やなやつなりに頑張ってるんだなあとか思うのもだし――」
スバル
画面に目を戻す。派手なパフォーマンスは変わらない。
スバル
「自分が、思ってた自分とは違うやつになっちまう瞬間ってのが……」
スバル
息をつきながら、こちらも珍しくクッキーに手を付ける。
ミムジィ
「あはは、グリフォンの末裔の翼がずるいって」
ミムジィ
お茶を注ぐ。いつの間にか温められている。
スバル
粗野という感はない。ただ、なんとなし、雑。
ミムジィ
「こう、やっぱり華やかでかっこいい救世主のほうがさぁ」
ミムジィ
「私が大丈夫! って言っても全然信じてもらえないんだから」
スバル
華やか。まあわかる。かっこいい。よくわからないな。
ミムジィ
「救世主が来たからもう大丈夫だな~って思ってほしいだけ」
ミムジィ
「ま、結局力の大小は6ペンスコインで決まるから、子供だましだけどね」
スバル
「救世主って、そういうばっかりじゃないだろ」
ミムジィ
「何にしたって、剣で地道にやってくしかないね」
ミムジィ
「どっちも巧みな戦い方をするねぇ。なかなか戦況が進まない」
スバル
しばらく、繰り広げられる華やかな応酬を見つつ。
スバル
雨のしずくの間を埋めるように、数多のフォークが降り落ちるさまに。
ミムジィ
フォークは牽制。尖ったヒールでシャノンに鋭く蹴り込む。
ミムジィ
その儚さを知るからこそ、その尊さを思う。
スバル
「……壁役がいるからな。突破するのも難しい」
スバル
やがて語られだす、嘘か本当かわからない双子の物語。
スバル
とはいえそれも、言っちゃなんだがよくある話。
ミムジィ
「でも、このまま勝敗決まっちゃうかなあ。上手く粘ってるけど……」
ミムジィ
攻撃を通す隙がない。攻撃しても防がれる。
ミムジィ
心の疵の力を開放した連続攻撃は、たしかに二人を傷つけたが……。
スバル
それまでの動きに関わりなく、口元を押さえるシニの姿。
ミムジィ
毒はシニの取り扱いの一つだったが、今はその心身を焼いている。
ミムジィ
続く攻防。シニが決定打を与えられないまま、その毒が身体を蝕んでいく。
ミムジィ
「……やっぱり、身体を壊す毒のほうがこわいよ」
スバル
シニ以外の何も目に入らなくなったふうの、ソースを見。
スバル
「……できるだけ、……まあ、頑張りはするが」
スバル
ミムジィがまっすぐに敵へ向かう、そのためにいるのがスバルだ。
ミムジィ
亡者と化すのを、殺すことが選択されるのを見る。
ミムジィ
モニターの向こう側で、話したこともない人達。