ミムジィ
「徒ヶ瀬つぐみかあ……。あの悪名高い救世主の名前をここで聞くとは思わなかったな~」
スバル
心の疵の力だというのはわかるのだが。
スバルにはそもそもスポットライトという概念がない。
ミムジィ
「龕灯ってあるでしょ? 筒に明かり入れて、光の方向絞るやつ」
ミムジィ
「あれの光がすごーく強いみたいなかんじ」
ミムジィ
「台の上で歌ったり踊ったりする職業があるんだよ」
ミムジィ
「あの名前だと、多分同じ世界から来たんじゃないかなあ」
ミムジィ
「もちろん、ふつー串刺しにとかしないけど……」
スバル
歌も踊りも、堕落の国の多くの場所では素朴なものだ。
スバル
「みたいだな。……あの女がどっかの眠り鼠の集落でどうこう、みたいなこと聞いたろ」
ミムジィ
「まあ、どうなってもあの子は解放されるし、大丈夫かな?」
スバル
例えば、亡者に堕ちたりだとか。
例えば、荒野に一人放り出されたりだとか。
スバル
血に沈んでいく観客に、しかし眉を寄せたりはしない。
スバル
「この国じゃ、殺されることに理由なんていらない。お前も本当はわかってるだろ?」
スバル
この国、この世界で、死は誰にとってもひどく近しいものだ。
ミムジィ
「それに文句つけ続けなきゃ本当の救世主じゃないもん」
スバル
「……お前って、ほんと、ばかなやつだよな」
スバル
ばかなやつ。スバルはミムジィを、よくそう称する。
スバル
どうしようもないことは、どうしようもないままにしておけばいいのに。
ミムジィ
ばかと言われるようなことを言っているのは、よくわかっている。
スバル
一方で。
そうしたミムジィと行動をともにする自分の愚かさ、ばかさ加減も、スバルは重々承知している。
スバル
だから、ミムジィのそれも、きっとどうしようもないのだということも。
スバル
気を逸らすように、次いで入場してくる二人を見る。
ミムジィ
「名前だけは聞いたことあるよね。好戦的な救世主」
ミムジィ
「救世主様! って感じはかなりいいね。いい」
ミムジィ
「救世主はみんなの希望じゃなきゃだからね」
スバル
「お前、ああいうのに希望を見いだせるタイプ?」
スバル
「……だな」 ミムジィの頭上にある耳を見る。
ミムジィ
足下だけ見られれば、白兎の末裔に見えるだろう。
ミムジィ
鱗に覆われた腕は、ともすればトカゲの末裔に見えなくもない。
ミムジィ
「このエースとジャックっていうのもね~」
ミムジィ
「私らはなんかどっち引いても、ねえ? って感じじゃない?」
ミムジィ
「代わりにスバルが色々注文してるところはちょっと見たーい」
スバル
というか、外の村でミムジィが末裔たちに施す間に、自分たちのための諸々を差配しているのはスバルのほうだ。
ミムジィ
豪華なデザートって言ったらパフェなんだよ。
スバル
おれはアイスクリームとか見たこともなかったが。
スバル
「好きこのんで王者名乗って面倒じゃないのかね」
スバル
王だとか、支配者だとか。
救世主の名乗るそういうものには、どうしても冷めた目をしてしまう。
ミムジィ
「どっちの救世主もチヤホヤされたい感じで似てるよね」
ミムジィ
「見えたままを見えたままに言うのって口が悪いって言いません?」
ミムジィ
「両方とも末裔は配下って感じなんだねえ」
スバル
「ジャックを引いたら荒れそうだよな、徒ヶ瀬つぐみとか」
スバル
「あの眠り鼠がエースを引いたら、そっちはそっちで……なんというか」
ミムジィ
「逆にかわいそうなことになりそうだよね」
ミムジィ
「あっいじめられてる! いじめられてますよ!」
スバル
「裁判の前に相手を殴っておくのってありなのかね」
ミムジィ
「あっどんどんイビっていきますよ! 王者が!」
ミムジィ
「どうしてもちっちゃい子が責められてると肩入れしちゃうねこれ」
ミムジィ
「徒ヶ瀬つぐみ、思いの外キューちゃんをかばってるかんじだね」
スバル
「『所有品』が傷つくのが嫌なんじゃねえか」
スバル
「小綺麗なもの以外、側に置きたくなさそうだし」
ミムジィ
「あれだけ容赦なく人殺してるの見たら、あっ、思いの外いいところあるのかも? ってわけにいかないしね」
ミムジィ
「その点、やっぱり一番得体が知れないのはあのフィクスって子だよね」
スバル
メイクで引き伸ばされたくちびるの色。
笑っているのはそこだけだ。
ミムジィ
「この中で一番興味あるな~もっと喋ってるところみたいなあ」
スバル
「見られるんじゃねえの。あの王者様も、寡黙なタイプじゃなかろうし」
ミムジィ
ミムジィはこうした殺し合いの鑑賞に抵抗を見せない。
ミムジィ
すんなりと楽しみという言葉が出るくらいには。
ミムジィ
次戦う相手がどういう相手か、を知ることに余念がない。
ミムジィ
「でも、このホテルはルールがあるからね」
ミムジィ
「案外、こんなにくつろげるってことはそうないかも」
ミムジィ
とはいえ、ミムジィが些末な物音で飛び起きるのは変わらない。
ミムジィ
この客室のホテルマンはそれを察してか、部屋をノックしない。
ミムジィ
注文したものはいつも部屋の外に置かれている。
スバル
スバルも基本的に、その動静に音を立てない。
スバル
静かに起き、静かに眠る。ミムジィの起きる音ならスバルも起きる。
スバル
「他の部屋がやりあってる間は、ホテルマン以外入ってこられないんだろ」
ミムジィ
「スバルは窮屈じゃないの? 閉じ込められたっきりなの」
ミムジィ
それでも反射的に飛び起きることはどうにもならない。
スバル
「窮屈というか……」 部屋のぐるりを見渡して。
スバル
戦う前だからというわけでなく。
ただ、この豪奢な空間そのものに。
ミムジィ
「ホテルのルール上、メリットはないし……」
ミムジィ
「何であれ、戦いが終わったら、だし……」
ミムジィ
「思ってなくても、ずっとそういうことを想像する部分があるってだけだよ」
ミムジィ
「結構トラブルになるからね。物音立てて、刃向けると」
スバル
「ま、ありがたいと思ってもらってるなら、重畳だ」
ミムジィ
「あっ、意外。お茶会らしいお茶会やるんだ!」
スバル
「ふうん。……まあ、特にあの眠り鼠とか……お茶会の最中から殴る蹴るできるって感じでもないよな」
ミムジィ
「まあ確かに。あんなに嫌味言い合ってたら、お茶会やってもかわらないか~」
ミムジィ
「感じ悪いってどころじゃないからね~~!」
ミムジィ
「あ、でもあの招待状を使わないで招くのはいいね」
スバル
「断られても相手のプライドが傷つけば別にそれはそれでって感じじゃねえの?」
スバル
我が強くて面倒くさいやつが集まるとああなるんだな……
ミムジィ
「お茶会同盟の人たちが喜びそうな光景だ」
スバル
「こういう文字通りの『お茶会』なんて、外じゃ滅多に見られるもんじゃないしな……」
ミムジィ
「茶会同盟の名誉メンバーの一人としては悲しい限りです」
ミムジィ
「私は結構ちゃんとお茶会してますからね」
ミムジィ
「イカロスと戦うことがあったら見せつけてやんなよ」
スバル
微妙に翼が動く。猛禽のそれは音を立てない。
ミムジィ
「それに、どんなに誇らしく語っても過去の栄光だもんねえ」
スバル
聞きつつ、イカロスの表情が徐々に曇るのを見ている。
スバル
「この国での栄光ってどんなもんだろうな。……大したもんじゃない気もするが」
ミムジィ
「そうかなあ。好意的なうわさ話を聞く救世主だって結構いるでしょ?」
ミムジィ
「まあ、そんな風に割り切れたら苦労しないんだけどね」
スバル
「まだ手を伸ばしたいって気持ちが……自分を救ってくれるとは限らないってだけかもしれない」
ミムジィ
「私なんか元の世界のことをだいぶ忘れちゃってるから、それでそういうのはちょっとずるいね」
スバル
「失くしたものが何かを比べても仕方ないだろ」
ミムジィ
「忘れてたら割り切るも諦めるもないってこと」
スバル
「……忘れたってこと自体を諦められないと思うぞ、ああいうのは……」
スバル
「……あっちは解散か。ま、あの調子じゃ、あそこからもう一度舌戦、ってのは難しいだろうしな」
ミムジィ
「ここは106号室の勝ち、ってところですね~」
ミムジィ
「お茶会同盟名誉メンバーとして、いいお茶会でした」
ミムジィ
「戦い始まったらいっぱい宣伝しよっかな」
ミムジィ
「あと……なんか、相手もお茶会しよっかなって気にね、なるかもしれないし」
ミムジィ
フィクスがイカロスをパンパン叩いている。
ミムジィ
「なんだかんだいって、気心知れた仲って感じなのかな、この二人」
ミムジィ
「スバルもあれくらいどーーんと来ていいからね!」
ミムジィ
「もちろん全然だいじょうぶですとも??」
ミムジィ
「この二人、もともと敵対してたんだ、なるほどねえ」
ミムジィ
「確かに、どっか対等っぽいところあるもんね。そういうところから来てるのかな」
スバル
「それもあるだろうが、とにかくあのトカゲの性格がでかい気がする」
スバル
「雲はな……かなり高いな。試す気になったこともないくらい高い」
スバル
「どっか……山の上とか、そもそも高いところから飛べばわからんが」
スバル
「いや、それでもかなり嫌だな。上の方って寒いし」
スバル
「まあ、そもそもおれはそんなに高いとこ飛ばないし」
ミムジィ
「まあこの世界で青ってなかなかないもんね」
スバル
染め粉は高い。絵の具のたぐいも同様に。だから、ひとの手に青は少ない。
かといって、堕落の国では花の咲くようなこともない。
ミムジィ
「でもこの色の合わせの救世主いっぱいいるから」
ミムジィ
「なんかやめたほうがいいかな……って悩んでる」
ミムジィ
「そうかなあ。なにもないより退屈しないと思うけど」
ミムジィ
それでもミムジィは使うとき、手加減なく使う。
スバル
「別に、今使うの使わないのって言ってもしょうがないだろ」
スバル
「先に喧嘩売ることになるのがどっちかとかな」
スバル
「望むべきは、穏やかなお茶会、迅速な裁判」
ミムジィ
「あっ!! イカロスさんが椅子にされてる!」
ミムジィ
「でも、まあ、やっぱりやり手だね、串刺姫」
ミムジィ
「あんなことされたって、私もスバルもなんにも思わないでしょ?」
ミムジィ
「きっとこれはオットマンだったんだわぁ~」
ミムジィ
「くそ~。これも心の疵の力ってことかぁ……」
スバル
「いや、……あのやりかたが向いてるタイプの救世主になりたいか、お前?」
スバル
「悪そうっていうか、悪いだろ、もう明らかに」
ミムジィ
「おっ、ドーンと来た、ドーンと来ましたねえ!」
スバル
「嫌だねえ、救世主の皆様はやることが陰湿で」
ミムジィ
「でもスバルも使えるってなったら使うんじゃない? そんなことない?」
ミムジィ
「そりゃー自分で陰湿って言ってますからね……」
スバル
「まあ、おれがやるなら普通に殺す気でやるな」
スバル
「いや……このホテル、お茶会の最中に殺したらなんかペナルティとか喰らうのかね」
スバル
とはいえ特にこだわりはない。あっさりしている。
ミムジィ
「とはいえ、このままだと見れないな……」
ミムジィ
「ホテルマンに眠り鼠の末裔借りてみる?」
ミムジィ
もはや電話を掛けずとも呼べばだいたい来る。
ミムジィ
夢という枠組みにおいても、今戦っている救世主たちに干渉はできない。
ミムジィ
言い表しようのない隔たりが、向こうとこちらをわけている。
ミムジィ
「夢の世界に誘い込まれたら、どうしようもないね……」
ミムジィ
「まあ、モニターで映し出されるよりはマシかな……」
ミムジィ
サーキット会場の観客、エキストラの中に混じっている。
ミムジィ
「堕落の国と違って、砂塵も、重たい雲もないからね」
ミムジィ
「陽の光がちょっと、スバルにはキツいかもね」
ミムジィ
「あんなにびゅんびゅん飛べたら楽しそうだねえ」
スバル
「おれは、なんか翼もげそうな気がしてやだ」
スバル
しばし、白熱するサーキットの様子を眺めて。
ミムジィ
その点、心の疵というのはある種の身の丈そのものだ。
ミムジィ
疵はいつだってその本人にとっての強く拭い難い真実。
スバル
言いつつ、グリフォンの鋭い眼がすっと、一点を捉える。
ミムジィ
この世界には悪意がある。ただの夢ではない、夾雑物。
ミムジィ
つぐみに誘われるように、イカロスは一撃を放つ。
ミムジィ
閃く瞬間、鏡像のようにイカロスが向かい合っていた。
ミムジィ
一撃はつぐみではなく、イカロス自身を捉える。
ミムジィ
攻撃を放ったイカロスは消え、それを受けたイカロスがその”翼”をもがれ、
ミムジィ
衝突する音が同じように頭に響いて、目覚めてもまだ残っている。
スバル
「叩き落されそうになったこともあるな……」
スバル
「遮蔽物がないから、一旦捕捉されるとかなりやばいぞ」
スバル
「下りて走るより飛ぶほうが速いからな……」
スバル
「結構……そんときは死ぬなと思ったな……」
ミムジィ
「なんというか、空に、他に誰もいないっていうのは」
スバル
「誰かと一緒に飛ぶ、って、ガキの頃だけだったからな……」
スバル
「……あんまり、どう、ってこともないな。普通」
スバル
「逆に、壁みたいに鈍い、でかいのがぶつかってきたりもする」
ミムジィ
グリフォンの末裔だから知りうる、空の世界。
ミムジィ
多分それはきっと、イカロスの知る空ともまた違う。
ミムジィ
「あのキューって子としゃべることがあったら、聞いてみよう」
ミムジィ
部屋に招かれたら眠り鼠の末裔は、あいも変わらず寝ている。
ミムジィ
モニターに映る、イカロスの様子がおかしい。
ミムジィ
表面が溶け落ち、その中にある機械の身体が顕になる。
ミムジィ
「もし翼に怪我とかして、飛べなくなったらどうしてるの?」
スバル
「翼に怪我しても生きてるなら、普通に……両足だけで生きてくしかねえんじゃねえの?」
スバル
「この国じゃ、飛べなくなるほど怪我したら、それだけで結構死ぬからな……」
スバル
「でもまあ、例えばおれがそうなったら、地上で生きていくしかねえな」
スバル
「……空を諦められないか、みたいなことが聞きたいなら」
ミムジィ
そしてスバルがそれをわかったとしても、それはそのまま他の人に当てはまるかもまた別の話。
ミムジィ
世界は違う。その人の持つものがどれだけその世界を占めているのかも。
ミムジィ
一方、冷たい展示室に座するイカロスとは対照的に、つぐみの方はのどかな光景だ。
ミムジィ
「こうして見るぶんにはただ微笑ましいだけなんだけれどねえ」
スバル
「いけるといいねえ」 さっぱりそう思っていない声。
スバル
あからさまに、またこいつは……という顔をした。
ミムジィ
キューの真似をして自分の膝をぽんぽんする。
ミムジィ
フィクスに呼び出され、自室に招待される。
スバル
客室の明るい照明の下、イカロスのありさまははっきりと酷い。
スバル
連ねられるフィクスの言葉も、まあ、ほぼ罵倒というか嘲弄というか。
ミムジィ
それから数時間、ねっとりねっちりフィクスのいびりを見る。
ミムジィ
「流石に、これだけ付き合っていると、ちょっとわかってきたよ」
ミムジィ
「まあ、この二人が組んでるだけのことはある」
ミムジィ
「これはこれで、そういう、関係というか……」
ミムジィ
フィクスが話の展開をようやく変えたあたりで、同時につぐみはキューに語りかけている。
ミムジィ
二つのモニターで映される、ペアの関係性。
ミムジィ
――そう。あなたに出来るのは、飛ぶことだけ。
スバル
「少なくとも、救世主の責務なんてもんはないだろうよ」
スバル
「ま……『それだけ』とか、『それしかできない』ってのは、本当はあんまりないと思う、おれは」
スバル
むしろ悪い方に。と思っているが、そうは言わない。
ミムジィ
画面の向こうでは、刃を交わすフィクスとイカロス。
ミムジィ
いや……それにしてもあの数時間は……数時間だけれども。
スバル
「信頼なんて言ってやったら、鼻で笑いそうだけどな」
ミムジィ
しかし少なくとも、自分では成り立たない関係だろう。
ミムジィ
寝首をかく素振りでもされれば、剣を振り抜かずにはいられない。
ミムジィ
裁判開廷前の入場。つぐみとキューが現れる。
スバル
お茶会の前に比べれば、ごくごく『普通』の入場に見える。
スバル
「生きてる場所を世界だって呼ぶなら、まあ、眠り鼠は半分夢に生きてるからな」
ミムジィ
「勝ち進んだら戦うかもしれないんだよ、あれと」
ミムジィ
「救世主はときに奮い立たせるようなことを言わないといけないときがあるんだよ」
ミムジィ
「村を捨ててでも避難しないといけないのを説明するときとかさ……」
スバル
あれはどっちかっていうと派手好きなだけでは?と思ったが言っても仕方がない。
ミムジィ
「まああれとちょっとテンション違うけど」
スバル
108号室のテンションに関しては流す気になったらしい。
ミムジィ
「キューちゃんが戦い慣れしてないのがねぇ」
ミムジィ
「もっと不思議な感じの力で戦うと思ってたけど」
スバル
「近づいて切った張ったするようには見えなかったよな」
スバル
「つぐみのほうも、あれを真に受けないのは正しい」
スバル
「効くやつには効くからな、ああいう……茶化すようなの」
ミムジィ
お茶会でもイカロスに膝をつかせて椅子にしていた。
スバル
「たぶんな。一応、曲がりなりにも一発入ったし」
ミムジィ
「案外に慎重だね。いこうと思えばいけたよね、あれ」
スバル
「広くても結局は室内だからな。空間が把握できないと、狭い場所飛ぶのって案外難しいから」
ミムジィ
「つぐみは飛んでる相手に手を出せないか」
スバル
「まずは相手が狙ってこないと、手を出すのは難しいんじゃねえの」
スバル
「つぐみのほうは、接近戦特化ってわけでもないしな……」
スバル
「夢の世界がどうとか言ってただろ、最初のマッチ使ったとき」
ミムジィ
「心の疵の力による戦いだから、わりと見てくれも大事なんだよね」
スバル
一番。一番というからには、泥に塗れるのはお気に召さないだろう。
ミムジィ
キューへの、ある種の見栄が実際に力になるのを感じる。
ミムジィ
「とはいえ、機を見るしかできないね。厳しいなあ……」
ミムジィ
「イカロスさんみたいなああいうスポーツの選手ってさあ」
ミムジィ
「あれもまた夢を見せるような職業なんだよね」
ミムジィ
「だからパフォーマンスでしゃべるのも、こんな風に夢の世界に慣れた感じなのも、ちょっとわかるな」
スバル
見ているキューは、つぐみの傍らでスプーンを取り落している。
スバル
「あの眠り鼠がもうちょっと好戦的だったらな」
ミムジィ
なぜかこの世界のヤリイカは……食料ではなく兵器利用が一般的なのだ。
スバル
着地するイカロス。スバルに、機械の損傷のことはよくわからない。
スバル
救世主でなければ、軽く十回以上死んでいるだろう。
ミムジィ
そう思ったところで、周囲を赤く濡らしていた血が剥がれ落ち、108号室の二人に降りかかろうとする。
スバル
ここで負ければコインを失う。
そもそも、力を分け与える救世主がいなければコインを持っていようが関係なく末裔は儚い。
ミムジィ
無論、その現実の厳しさをいくらでも知っている。
ミムジィ
それでも綺麗事に生かされるものがあることを知っている。
ミムジィ
「石になった人間程度はどうとでもなる、かぁ」
ミムジィ
「多分このホテルを止めるには石像を壊すのがいいと思うんだけれどさ」
ミムジィ
「フィクスさんが言うのも一理あるな、とも思うと、難しいね」
スバル
ちら、とだけミムジィを見て、画面に目を戻す。
スバル
「気にするのはおれじゃなくてホテル側だ。エースが追認すれば問題ないだろ」
ミムジィ
西に行っては子猫を探し、東に行っては畑の手伝い。
ミムジィ
南に行っては荷馬車の護衛に、北に行っては亡者狩り。
スバル
キューによって結われていく髪。最後の時間。
ミムジィ
彼女がたくさんの人を無為に殺したのは事実。
ミムジィ
一方で、二人の光景はなにかの真実にも見える。
スバル
「……特別なものにだけ、特別扱いってのは」
ミムジィ
コインが足りていたならば、きっと向かっていったであろう相手だ。
ミムジィ
「これ以上ヒットするのはギャンブルになるね」
スバル
なんで、と言いかけてやめた。返ってくる答えはだいたい想像がつく。
ミムジィ
「荒野に迷う末裔、これからも出るだろうから」
ミムジィ
「そうしてあげるのがいいんじゃないかな」