ミムジィ
「徒ヶ瀬つぐみかあ……。あの悪名高い救世主の名前をここで聞くとは思わなかったな~」
ミムジィ
「うわっ、すごいアイドルみたい!」
ミムジィ
「こんな子だったんだ……」
スバル
「……あれどうやって光ってるんだ?」
スバル
心の疵の力だというのはわかるのだが。
スバルにはそもそもスポットライトという概念がない。
ミムジィ
「龕灯ってあるでしょ? 筒に明かり入れて、光の方向絞るやつ」
ミムジィ
「あれの光がすごーく強いみたいなかんじ」
スバル
「……それで照らされて嬉しいもんか?」
ミムジィ
「台の上で歌ったり踊ったりする職業があるんだよ」
ミムジィ
「あの名前だと、多分同じ世界から来たんじゃないかなあ」
ミムジィ
「もちろん、ふつー串刺しにとかしないけど……」
スバル
歌も踊りも、堕落の国の多くの場所では素朴なものだ。
スバル
ふうん、とだけ、気のない返事。
スバル
次いで出てきた、眠り鼠に目を留めつつ。
スバル
「……あれでよくついていくもんだ」
ミムジィ
「色んな末裔がいるからねえ……」
ミムジィ
「かわいいな。眠り鼠の末裔かな?」
スバル
「みたいだな。……あの女がどっかの眠り鼠の集落でどうこう、みたいなこと聞いたろ」
ミムジィ
「うーん、心配だなあ」
ミムジィ
「まあ、どうなってもあの子は解放されるし、大丈夫かな?」
スバル
「……解放、ねえ」
スバル
例えば、亡者に堕ちたりだとか。
例えば、荒野に一人放り出されたりだとか。
スバル
そういうことが、起こりはする。
スバル
口にはしない。
ミムジィ
「あっ! 殺した!!」
ミムジィ
「うわーっ、いっぱい殺してる……」
スバル
血に沈んでいく観客に、しかし眉を寄せたりはしない。
スバル
「こんなとこ来る方が悪い」
ミムジィ
「にしたって殺されるほどじゃないよ」
スバル
「この国じゃ、殺されることに理由なんていらない。お前も本当はわかってるだろ?」
スバル
この国、この世界で、死は誰にとってもひどく近しいものだ。
ミムジィ
「それに文句つけ続けなきゃ本当の救世主じゃないもん」
スバル
「……お前って、ほんと、ばかなやつだよな」
スバル
ばかなやつ。スバルはミムジィを、よくそう称する。
スバル
どうしようもないことは、どうしようもないままにしておけばいいのに。
ミムジィ
「はいはいバカバカ」
ミムジィ
ばかと言われ慣れている。
ミムジィ
ばかと言われるようなことを言っているのは、よくわかっている。
スバル
一方で。
そうしたミムジィと行動をともにする自分の愚かさ、ばかさ加減も、スバルは重々承知している。
スバル
しかし、どうしようもない。
スバル
だから、ミムジィのそれも、きっとどうしようもないのだということも。
スバル
わかっていた。
スバル
気を逸らすように、次いで入場してくる二人を見る。
スバル
「……こいつらもよくわからんな……」
ミムジィ
「名前だけは聞いたことあるよね。好戦的な救世主」
ミムジィ
「悪さするって話は聞かないけど」
ミムジィ
「救世主様! って感じはかなりいいね。いい」
ミムジィ
「救世主はみんなの希望じゃなきゃだからね」
スバル
「お前、ああいうのに希望を見いだせるタイプ?」
ミムジィ
「いや~」
ミムジィ
「でもこう、華やかなのは羨ましいね」
ミムジィ
「私はすぐ末裔と間違えられるからな~」
スバル
「……だな」 ミムジィの頭上にある耳を見る。
ミムジィ
頭だけ見ればチェシャ猫の末裔だ。
ミムジィ
足下だけ見られれば、白兎の末裔に見えるだろう。
ミムジィ
鱗に覆われた腕は、ともすればトカゲの末裔に見えなくもない。
ミムジィ
「このエースとジャックっていうのもね~」
ミムジィ
「私らはなんかどっち引いても、ねえ? って感じじゃない?」
ミムジィ
「この4人は色々ありそうだけれども」
スバル
「まあ、仮におれがエースを引いても」
スバル
「お前の扱いには注文をつけとく」
ミムジィ
「代わりにスバルが色々注文してるところはちょっと見たーい」
スバル
「お前な……」
スバル
「面白いのか?」
スバル
というか、外の村でミムジィが末裔たちに施す間に、自分たちのための諸々を差配しているのはスバルのほうだ。
ミムジィ
「このホテルでは渋々じゃん?」
ミムジィ
「この前頼んでみたパフェとかをね」
スバル
あれか……あれをおれが頼めと……
ミムジィ
豪華なデザートって言ったらパフェなんだよ。
スバル
おれはアイスクリームとか見たこともなかったが。
ミムジィ
そりゃねえ。
ミムジィ
立ち話しているのを眺めている。
ミムジィ
「王者を名乗るっていうのも大変だねえ」
スバル
「好きこのんで王者名乗って面倒じゃないのかね」
ミムジィ
「割と本人は楽しそうだけれどね」
スバル
「王、なあ……」
スバル
王だとか、支配者だとか。
救世主の名乗るそういうものには、どうしても冷めた目をしてしまう。
ミムジィ
「どっちの救世主もチヤホヤされたい感じで似てるよね」
ミムジィ
しみじみとお茶をすする。
スバル
「そうだな。我の強いガキみたいだ」
ミムジィ
「おっ、言うねえ」
スバル
「そう見えるからな」
ミムジィ
「見えたままを見えたままに言うのって口が悪いって言いません?」
スバル
「さあ」
スバル
「別に……悪けりゃ悪いで」
スバル
どうでもいいな、という顔。
ミムジィ
嬉しそうにしている。
ミムジィ
「両方とも末裔は配下って感じなんだねえ」
ミムジィ
しっくりこないんだよな~そういうの。
スバル
「ジャックを引いたら荒れそうだよな、徒ヶ瀬つぐみとか」
ミムジィ
「見たかったな~~~!!!!」
スバル
「あの眠り鼠がエースを引いたら、そっちはそっちで……なんというか」
スバル
「まあ、むしろ哀れというか」
ミムジィ
「逆にかわいそうなことになりそうだよね」
スバル
「よくついて回ってるよ、あれで」
ミムジィ
「あっいじめられてる! いじめられてますよ!」
ミムジィ
光の刃で脅かされているキューに騒ぐ。
スバル
「裁判の前に相手を殴っておくのってありなのかね」
ミムジィ
「いいんじゃないの?」
ミムジィ
必要ならやるし……。
ミムジィ
猟奇3だし……。
スバル
「そう」
スバル
まあやるな。やるだろうな。おれもやる。
ミムジィ
「あっどんどんイビっていきますよ! 王者が!」
スバル
「声がでかい」
スバル
「王者ねえ。なんというか」
スバル
「自信ありげで結構なこった」
ミムジィ
「結構なこった!」
ミムジィ
「どうしてもちっちゃい子が責められてると肩入れしちゃうねこれ」
ミムジィ
「赤い封筒みたいだし」
スバル
「同情する」
ミムジィ
「徒ヶ瀬つぐみ、思いの外キューちゃんをかばってるかんじだね」
ミムジィ
「もっとこき使う感じかと思ってたけど」
スバル
「『所有品』が傷つくのが嫌なんじゃねえか」
スバル
「小綺麗なもの以外、側に置きたくなさそうだし」
ミムジィ
「なるほどね」
ミムジィ
「あれだけ容赦なく人殺してるの見たら、あっ、思いの外いいところあるのかも? ってわけにいかないしね」
スバル
「だな」
ミムジィ
「その点、やっぱり一番得体が知れないのはあのフィクスって子だよね」
スバル
「……あいつ笑ってねえもんな」
スバル
メイクで引き伸ばされたくちびるの色。
笑っているのはそこだけだ。
ミムジィ
「この中で一番興味あるな~もっと喋ってるところみたいなあ」
スバル
「喋ってるとこなあ……」
スバル
「見られるんじゃねえの。あの王者様も、寡黙なタイプじゃなかろうし」
ミムジィ
「楽しみだね」
ミムジィ
ミムジィはこうした殺し合いの鑑賞に抵抗を見せない。
ミムジィ
すんなりと楽しみという言葉が出るくらいには。
ミムジィ
次戦う相手がどういう相手か、を知ることに余念がない。
ミムジィ
「寝首をかかれる心配だってさ」
スバル
茶を啜る。
ミムジィ
「でも、このホテルはルールがあるからね」
ミムジィ
「案外、こんなにくつろげるってことはそうないかも」
ミムジィ
とはいえ、ミムジィが些末な物音で飛び起きるのは変わらない。
ミムジィ
この客室のホテルマンはそれを察してか、部屋をノックしない。
ミムジィ
注文したものはいつも部屋の外に置かれている。
スバル
スバルも基本的に、その動静に音を立てない。
スバル
静かに起き、静かに眠る。ミムジィの起きる音ならスバルも起きる。
スバル
「他の部屋がやりあってる間は、ホテルマン以外入ってこられないんだろ」
スバル
「一応」
ミムジィ
「スバルは窮屈じゃないの? 閉じ込められたっきりなの」
ミムジィ
ゆっくりできるのはいいけどさ~。
ミムジィ
それでも反射的に飛び起きることはどうにもならない。
スバル
「窮屈というか……」 部屋のぐるりを見渡して。
スバル
「落ち着かん」
スバル
戦う前だからというわけでなく。
ただ、この豪奢な空間そのものに。
ミムジィ
「それぞれ苦手なものが違うねえ」
スバル
手にしていたカップを置く。
スバル
「お前」
スバル
「いつかおれに寝首をかかれると思う?」
ミムジィ
「思わないよ」
スバル
「……そう」
ミムジィ
「ホテルのルール上、メリットはないし……」
ミムジィ
「何であれ、戦いが終わったら、だし……」
スバル
「じゃあ」
スバル
「思ってたか?招待状を受け取る前」
ミムジィ
お茶を飲み、クッキーを食べる。
ミムジィ
「思ってない」
スバル
「……………………」
スバル
「そう」
ミムジィ
「思ってなくても、ずっとそういうことを想像する部分があるってだけだよ」
ミムジィ
「私にはね」
スバル
「知ってる」
ミムジィ
「ありがたいですね、側にいてもらえて」
ミムジィ
「結構トラブルになるからね。物音立てて、刃向けると」
スバル
「そりゃな……」
スバル
「ま、ありがたいと思ってもらってるなら、重畳だ」
スバル
ミムジィ
「あっ、意外。お茶会らしいお茶会やるんだ!」
スバル
「ふうん。……まあ、特にあの眠り鼠とか……お茶会の最中から殴る蹴るできるって感じでもないよな」
ミムジィ
「まあ確かに。あんなに嫌味言い合ってたら、お茶会やってもかわらないか~」
スバル
「嫌味っつうか、もう煽りあいだろ」
ミムジィ
「感じ悪いってどころじゃないからね~~!」
ミムジィ
「あ、でもあの招待状を使わないで招くのはいいね」
ミムジィ
「それとも温存したってことなのかな」
スバル
「ホテルマンへの伝言を見る限りじゃ」
スバル
「断られても相手のプライドが傷つけば別にそれはそれでって感じじゃねえの?」
ミムジィ
「高度な戦いだな~」
スバル
我が強くて面倒くさいやつが集まるとああなるんだな……
ミムジィ
「普通にお茶会してるね」
ミムジィ
「お茶会同盟の人たちが喜びそうな光景だ」
スバル
「こういう文字通りの『お茶会』なんて、外じゃ滅多に見られるもんじゃないしな……」
ミムジィ
「茶会同盟の名誉メンバーの一人としては悲しい限りです」
スバル
「名誉メンバー」
ミムジィ
「私は結構ちゃんとお茶会してますからね」
ミムジィ
ポットも持ち歩いてるし。
ミムジィ
正式メンバーじゃないけど……。
スバル
いまさら突っ込まないが。
スバル
「……人が空を飛び、競い合う競技ねえ」
スバル
ふーん、といった顔。
ミムジィ
「イカロスと戦うことがあったら見せつけてやんなよ」
スバル
「面倒くさそうなことを言うな」
ミムジィ
「こっちは本物の翼ですからね」
スバル
「まあ本物だけど」
スバル
微妙に翼が動く。猛禽のそれは音を立てない。
ミムジィ
「それに、どんなに誇らしく語っても過去の栄光だもんねえ」
ミムジィ
キューがしたことには気づかない。
ミムジィ
「栄光は今ここで作っていかないとねえ」
スバル
聞きつつ、イカロスの表情が徐々に曇るのを見ている。
スバル
曇る。いや……歪む。怒りに。憎悪に。
スバル
「この国での栄光ってどんなもんだろうな。……大したもんじゃない気もするが」
ミムジィ
「そうかなあ。好意的なうわさ話を聞く救世主だって結構いるでしょ?」
ミムジィ
「まあ、そんな風に割り切れたら苦労しないんだけどね」
スバル
「割り切りと諦めは似てるよ」
スバル
「まだ手を伸ばしたいって気持ちが……自分を救ってくれるとは限らないってだけかもしれない」
ミムジィ
「まあ~そっか」
ミムジィ
「私なんか元の世界のことをだいぶ忘れちゃってるから、それでそういうのはちょっとずるいね」
スバル
「失くしたものが何かを比べても仕方ないだろ」
ミムジィ
「忘れてたら割り切るも諦めるもないってこと」
スバル
「……忘れたってこと自体を諦められないと思うぞ、ああいうのは……」
スバル
「まあ、おれが思うだけだけど」
ミムジィ
「あはは、そうかも」
スバル
「……あっちは解散か。ま、あの調子じゃ、あそこからもう一度舌戦、ってのは難しいだろうしな」
ミムジィ
「ここは106号室の勝ち、ってところですね~」
スバル
「ん」
ミムジィ
「お茶会同盟名誉メンバーとして、いいお茶会でした」
スバル
「それ今後も言い続けるの?」
ミムジィ
「戦い始まったらいっぱい宣伝しよっかな」
スバル
「宣伝してどうするんだよ……」
ミムジィ
「茶会同盟が喜ぶ」
ミムジィ
「あと……なんか、相手もお茶会しよっかなって気にね、なるかもしれないし」
ミムジィ
「実に……戦略的!」
スバル
「相手見てから言え」
ミムジィ
「まあ、そうだね」
ミムジィ
フィクスがイカロスをパンパン叩いている。
ミムジィ
「なんだかんだいって、気心知れた仲って感じなのかな、この二人」
スバル
「それにしたって遠慮がねえな」
ミムジィ
「スバルもあれくらいどーーんと来ていいからね!」
スバル
「どーんとって……」
ミムジィ
自分の二の腕をパンパン叩く。
スバル
「どーん」 耳を引っ張った。
ミムジィ
「あだっ、あだっ」
ミムジィ
「何を!?」
スバル
「どーんと来ていいって言うから」
スバル
特にそれ以上は何もなく手を離す。
ミムジィ
「もちろん全然だいじょうぶですとも??」
スバル
「それは何よりだ」
ミムジィ
うんうん、と頷く。
ミムジィ
「この二人、もともと敵対してたんだ、なるほどねえ」
ミムジィ
「確かに、どっか対等っぽいところあるもんね。そういうところから来てるのかな」
スバル
「それもあるだろうが、とにかくあのトカゲの性格がでかい気がする」
ミムジィ
「あんなトカゲの末裔みたことないね」
ミムジィ
「青空、ねえ」
ミムジィ
「グリフォンの末裔でも難しいの?」
スバル
「難しいだろな」
スバル
「雲はな……かなり高いな。試す気になったこともないくらい高い」
スバル
「どっか……山の上とか、そもそも高いところから飛べばわからんが」
スバル
「いや、それでもかなり嫌だな。上の方って寒いし」
ミムジィ
「空気が薄いって習った気がする」
スバル
「上の方はわりとそんな気がするな」
スバル
上の方っつったってたかが知れているが。
スバル
「まあ、そもそもおれはそんなに高いとこ飛ばないし」
ミムジィ
「じゃあ楽しみだね」
スバル
「空?」
ミムジィ
「うん」
スバル
「青い空、ねえ……」
スバル
「あんまり想像つかねえな」
ミムジィ
「まあこの世界で青ってなかなかないもんね」
ミムジィ
「青の染料もすっごく高いし……」
スバル
「まあ、ないな……」
スバル
染め粉は高い。絵の具のたぐいも同様に。だから、ひとの手に青は少ない。
かといって、堕落の国では花の咲くようなこともない。
ミムジィ
「この服は亡者の血で染めたって話だよ」
スバル
「へえ」
ミムジィ
「人気ある色だからね~この色」
ミムジィ
「救世主(アリス)っぽいもんね」
スバル
「アリス」 肩をすくめる。
ミムジィ
「でもこの色の合わせの救世主いっぱいいるから」
ミムジィ
「なんかやめたほうがいいかな……って悩んでる」
スバル
「好きな色着ろよ……」
ミムジィ
「何色が似合うと思う?」
スバル
「おれに聞くな」
ミムジィ
「え~」
スバル
「おれに聞くな」 二度言った。
ミムジィ
「じゃああとでシンクに聞こ~」
スバル
「迷惑かけるなよ」
ミムジィ
「そうかなあ。なにもないより退屈しないと思うけど」
スバル
言う間に、画面の中で道化が消える。
スバル
「おっと」
ミムジィ
「やっぱりこの招待状、こわいな~」
スバル
「それぞれ2通ずつだっけか」
スバル
「……そう考えると結構あるな……」
スバル
1回こっきりでも十分に嫌だと言うのに。
ミムジィ
「私たちはどうする? あれ」
スバル
「使うかどうか?」
ミムジィ
「うん」
ミムジィ
「あんまり使いたくないんだよね~」
ミムジィ
使いたくはない。使いたくは。
ミムジィ
それでもミムジィは使うとき、手加減なく使う。
スバル
「別に、今使うの使わないのって言ってもしょうがないだろ」
ミムジィ
「相手次第だもんね、結局」
スバル
「先に喧嘩売ることになるのがどっちかとかな」
ミムジィ
「穏やかなお茶会をしたいものですなあ」
スバル
「望むべきは、穏やかなお茶会、迅速な裁判」
スバル
どこか小馬鹿にしたような声で言った。
ミムジィ
「うんうん」
ミムジィ
もっともらしく頷いた。
ミムジィ
「あっ!! イカロスさんが椅子にされてる!」
ミムジィ
「うわ~」
スバル
「よくやるわ」
ミムジィ
「プライドを踏みにじってる」
ミムジィ
「でも、まあ、やっぱりやり手だね、串刺姫」
ミムジィ
「あんなことされたって、私もスバルもなんにも思わないでしょ?」
ミムジィ
「ちゃんと、相手を見定めてやってる」
スバル
「あれは効くだろうなあ……」
ミムジィ
「見習いたいね!」
ミムジィ
「きっとこれはオットマンだったんだわぁ~」
ミムジィ
真似する。
スバル
「なんというか、お前、圧が足りない」
ミムジィ
「圧、圧~?」
ミムジィ
「どうしたら出る? 圧」
ミムジィ
「剣抜けばいい?」
スバル
「それはただストレートな脅迫だろ」
ミムジィ
「くそ~。これも心の疵の力ってことかぁ……」
スバル
「いや、……あのやりかたが向いてるタイプの救世主になりたいか、お前?」
ミムジィ
「うーん……」
ミムジィ
「あんまり?」
スバル
「だろうよ」
ミムジィ
「性格悪そうだもん」
スバル
「悪そうっていうか、悪いだろ、もう明らかに」
ミムジィ
「悪い」
ミムジィ
「つまり……」
ミムジィ
「私の性格がいいってこと!?」
スバル
「お前な……」
スバル
「いや、まあ。『いい性格』はしてるな」
ミムジィ
「やったぁ!」
ミムジィ
ガッツポーズする。
スバル
呆れたように、その腕を軽くはたいた。
ミムジィ
「おっ、ドーンと来た、ドーンと来ましたねえ!」
スバル
「へいへい……」
ミムジィ
ミムジィ
「またガス使うの!?」
スバル
「好きだな……どいつもこいつも……」
ミムジィ
「横行してる……」
スバル
「嫌だねえ、救世主の皆様はやることが陰湿で」
ミムジィ
「でもスバルも使えるってなったら使うんじゃない? そんなことない?」
スバル
「えっ、使うけど……」
スバル
当然のように言った。
ミムジィ
「陰湿末裔じゃん」
スバル
「言われても別に堪えねえな」
ミムジィ
「そりゃー自分で陰湿って言ってますからね……」
スバル
「まあ、おれがやるなら普通に殺す気でやるな」
スバル
「いや……このホテル、お茶会の最中に殺したらなんかペナルティとか喰らうのかね」
ミムジィ
「殺せないと思うよ」
ミムジィ
「そういう風に帳尻が合う」
スバル
「だめか」
スバル
とはいえ特にこだわりはない。あっさりしている。
スバル
「あー、こっちは眠り鼠を使う気か」
ミムジィ
「なるほどね」
ミムジィ
「これは真似できないね」
スバル
「だなあ」
ミムジィ
「相手の心に触れるにはちょうどいいね」
ミムジィ
「とはいえ、このままだと見れないな……」
ミムジィ
「ホテルマンに眠り鼠の末裔借りてみる?」
スバル
「借りられるもんかね?」
ミムジィ
「聞いてみよう」
ミムジィ
「シンク~!」
ミムジィ
もはや電話を掛けずとも呼べばだいたい来る。
ミムジィ
観客の眠り鼠の末裔が運び込まれる。
ミムジィ
「ほんとに来た」
スバル
「なんでもありだな……」
ミムジィ
つぐみが吸ったのと同様の小瓶もまた。
ミムジィ
「それじゃ、おやすみ」
スバル
「おやすみ」
ミムジィ
ミムジィ
夢という枠組みにおいても、今戦っている救世主たちに干渉はできない。
ミムジィ
言い表しようのない隔たりが、向こうとこちらをわけている。
ミムジィ
「夢の世界に誘い込まれたら、どうしようもないね……」
ミムジィ
「まあ、モニターで映し出されるよりはマシかな……」
スバル
「傍目にゃ寝てるだけだからな」
ミムジィ
世界が開けて、青空。
ミムジィ
「うわ」
スバル
「うわっ、何?」
ミムジィ
サーキット会場の観客、エキストラの中に混じっている。
ミムジィ
実況の声、歓声。
スバル
「眩しい」
ミムジィ
「これがイカロスさんのみてた光景かぁ」
ミムジィ
「堕落の国と違って、砂塵も、重たい雲もないからね」
ミムジィ
「陽の光がちょっと、スバルにはキツいかもね」
ミムジィ
「私も久しぶりで目がチカチカする」
スバル
「陽の光……」
スバル
目を細める。
スバル
「これが青空ってやつ?」
ミムジィ
「感動が薄れちゃったねえ」
ミムジィ
「そうだよ。まあ、夢だけど」
スバル
「へえ……」
スバル
天を仰いで、
スバル
「飛んだら目が痛くなりそう」
スバル
情緒もクソもない感想を述べた。
ミムジィ
「慣れるよ」
スバル
「まあそうか」
ミムジィ
「視界がいいのは悪くないでしょ?」
スバル
「うーん……」
スバル
「いや、これも慣れの問題だろうな」
スバル
言いながら、
スバル
「このばかでかい声、何?」
スバル
軽く顔を顰める。
ミムジィ
「まあ、ショーの一貫だよ」
ミムジィ
「こうやってなんか……盛り上げるわけ」
ミムジィ
情報が少ない。
スバル
「ふーん」
スバル
飛翔する選手たちを眺める。
スバル
「すげー飛び方」
ミムジィ
「どうなの? グリフォン的に」
スバル
「どうって言われてもな……」
スバル
「上昇であれだけ速度出るのはすげえな」
スバル
「全体に縦に動くときがやばい」
スバル
「張り合えって言われたら遠慮したいね」
ミムジィ
「なるほどなあ」
ミムジィ
「あんなにびゅんびゅん飛べたら楽しそうだねえ」
スバル
「おれは、なんか翼もげそうな気がしてやだ」
ミムジィ
「実感が籠もってるなあ」
スバル
「身の丈ってやつだろ」
スバル
しばし、白熱するサーキットの様子を眺めて。
ミムジィ
その点、心の疵というのはある種の身の丈そのものだ。
ミムジィ
疵はいつだってその本人にとっての強く拭い難い真実。
ミムジィ
そうだと信じられるから力になる。
ミムジィ
「絶頂ってかんじだね」
スバル
「……だな」
スバル
言いつつ、グリフォンの鋭い眼がすっと、一点を捉える。
スバル
つぐみの姿。
ミムジィ
この世界には悪意がある。ただの夢ではない、夾雑物。
ミムジィ
つぐみに誘われるように、イカロスは一撃を放つ。
スバル
断ち切れる両の脚。
スバル
一瞬、青空よりも眩く閃く光。
ミムジィ
イカロスが二人。
ミムジィ
閃く瞬間、鏡像のようにイカロスが向かい合っていた。
ミムジィ
一撃はつぐみではなく、イカロス自身を捉える。
ミムジィ
攻撃を放ったイカロスは消え、それを受けたイカロスがその”翼”をもがれ、
ミムジィ
堕ちる。
スバル
それが地に堕ちると共に、
スバル
「うわ」
スバル
弾き出された。夢から。
ミムジィ
最後に見たのは、墜落していくイカロス。
ミムジィ
衝突する音が同じように頭に響いて、目覚めてもまだ残っている。
ミムジィ
「……はーっ」
ミムジィ
「びっくりした」
ミムジィ
ミムジィは跳ね起きている。
スバル
「………………」
スバル
「…………」
スバル
「はあ……」
スバル
深い息。
スバル
「墜落」
スバル
「ちょっと勘弁してほしいわ」
ミムジィ
「……実感が籠もってるなあ」
ミムジィ
繰り返す
スバル
「そりゃな……」
ミムジィ
「墜落したことある?」
スバル
「ガキの頃にはな」
スバル
「あー、あと」
スバル
「一回、でかい鳥の亡者に出くわして」
スバル
「叩き落されそうになったこともあるな……」
ミムジィ
「空も安全じゃないんだねえ」
スバル
「遮蔽物がないから、一旦捕捉されるとかなりやばいぞ」
ミムジィ
「あー、それは大変そう」
ミムジィ
「追いつくか、逃げ切るかって感じかあ」
スバル
「下りて走るより飛ぶほうが速いからな……」
スバル
「結構……そんときは死ぬなと思ったな……」
ミムジィ
「逃げ切れたの?」
スバル
「逃げ切れてなかったらここにいねえよ」
ミムジィ
「誰かに助けてもらったとかさ」
スバル
「途中で相手の片翼が折れた」
スバル
「半分腐ってるみたいなやつだったから」
ミムジィ
「なるほど」
スバル
「空は……助けてもらうってのも難しいな」
スバル
「飛ぶ救世主ってのは少ない」
ミムジィ
「あー」
ミムジィ
「スバルは、どう?」
ミムジィ
「なんというか、空に、他に誰もいないっていうのは」
スバル
「うーん」
スバル
「誰かと一緒に飛ぶ、って、ガキの頃だけだったからな……」
スバル
「……あんまり、どう、ってこともないな。普通」
ミムジィ
「じゃあ、人混みと比べて」
スバル
「あー……」
スバル
「……音が違う」
スバル
「聞こえるものは、ぜんぜん違う」
ミムジィ
「どんな音が聞こえるの?」
ミムジィ
「人混みは、まあ、わかるけど」
スバル
「風」
スバル
「下よりまっすぐで鋭い」
スバル
「逆に、壁みたいに鈍い、でかいのがぶつかってきたりもする」
ミムジィ
「へぇー」
ミムジィ
一人ひとり、違う世界に住んでいる。
ミムジィ
グリフォンの末裔だから知りうる、空の世界。
ミムジィ
多分それはきっと、イカロスの知る空ともまた違う。
ミムジィ
「そういう話、もっと聞きたいね」
スバル
「そう。まあ……聞けば適当に答えるけど」
スバル
「眠り鼠の話とか、面白いんじゃねえの」
ミムジィ
「そうかもね」
ミムジィ
「あのキューって子としゃべることがあったら、聞いてみよう」
ミムジィ
部屋に招かれたら眠り鼠の末裔は、あいも変わらず寝ている。
ミムジィ
シンクを呼んで、連れて帰らせる。
ミムジィ
「あ」
ミムジィ
モニターに映る、イカロスの様子がおかしい。
ミムジィ
表面が溶け落ち、その中にある機械の身体が顕になる。
ミムジィ
「……」
スバル
顔までもが、半ばその『肌』を失っている。
ミムジィ
「なるほど、なあ」
スバル
「ああいうの、お前、見たことあった?」
ミムジィ
「絵とか、お話でなら?」
ミムジィ
「未来の技術のお話としてね」
スバル
「未来か……」
ミムジィ
堕ちた王者。
ミムジィ
「グリフォンの末裔はさあ」
ミムジィ
「もし翼に怪我とかして、飛べなくなったらどうしてるの?」
スバル
「翼に怪我しても生きてるなら、普通に……両足だけで生きてくしかねえんじゃねえの?」
スバル
「この国じゃ、飛べなくなるほど怪我したら、それだけで結構死ぬからな……」
スバル
「でもまあ、例えばおれがそうなったら、地上で生きていくしかねえな」
ミムジィ
「うん」
ミムジィ
「……そうだよねえ」
スバル
「……空を諦められないか、みたいなことが聞きたいなら」
スバル
「おれにはわからねえよ」
ミムジィ
「そうだね」
ミムジィ
そしてスバルがそれをわかったとしても、それはそのまま他の人に当てはまるかもまた別の話。
ミムジィ
世界は違う。その人の持つものがどれだけその世界を占めているのかも。
ミムジィ
その上で、共感という錯覚がある。
ミムジィ
「イカロスさんがあんな振る舞いなのも」
ミムジィ
「少しはわかる気がするよ」
スバル
「……そう」
ミムジィ
一方、冷たい展示室に座するイカロスとは対照的に、つぐみの方はのどかな光景だ。
ミムジィ
軽く昼寝でもしていたかのような光景。
スバル
キューがつぐみの髪を整え始める。
スバル
「……余裕だねえ」
ミムジィ
「こうして見るぶんにはただ微笑ましいだけなんだけれどねえ」
スバル
「絵面だけはな」
ミムジィ
「私たちものどかにいきたいね」
スバル
「いけるといいねえ」 さっぱりそう思っていない声。
ミムジィ
「する?」
スバル
「は?」
ミムジィ
「膝枕」
スバル
あからさまに、またこいつは……という顔をした。
ミムジィ
キューの真似をして自分の膝をぽんぽんする。
スバル
しっしっ、というふうに手のひらを振った。
ミムジィ
「あはは」
スバル
「はあ」
スバル
「楽しそうで何より」
ミムジィ
今度はイカロスの方で動きがある。
ミムジィ
フィクスに呼び出され、自室に招待される。
スバル
客室の明るい照明の下、イカロスのありさまははっきりと酷い。
スバル
連ねられるフィクスの言葉も、まあ、ほぼ罵倒というか嘲弄というか。
スバル
「よく続くな……」
ミムジィ
「すごい」
ミムジィ
「えっ、仲間だよね?」
スバル
「そういうことになってる」
ミムジィ
「延々と続く」
ミムジィ
「何見せられてるの? これ」
スバル
「さあ……?」
スバル
首を傾げた。
ミムジィ
延々と続いている。
スバル
飽きてきたな……と思っている。
ミムジィ
お菓子を食べ始めた。
スバル
それでも延々と続いている。
ミムジィ
「……」
ミムジィ
「……」
ミムジィ
「寝るに寝られない」
スバル
「……まあ……」
スバル
寝ていい気もするが、しかし。
ミムジィ
シンク~濃いお茶入れてきて。
ミムジィ
「……見届けてやりますよ!」
ミムジィ
意地だ。
スバル
「ええ……」
スバル
「お嬢様は元気ですね……」
ミムジィ
「寝てていいよ」
スバル
「そう?」
ミムジィ
「する?」
スバル
「いらん」
ミムジィ
「あはは。おやすみ」
スバル
「動きあったら起こして」
ミムジィ
「はーい」
ミムジィ
それから数時間、ねっとりねっちりフィクスのいびりを見る。
スバル
相応に時間が経つ。
ミムジィ
スバルが起こされる頃には。
ミムジィ
流石に元気がない。
ミムジィ
「……終わりそうだよ……」
スバル
「途中で起こして交代しても良かったのに」
ミムジィ
「これは……戦いなんだよ」
ミムジィ
「私の勝ちだ……」
スバル
「……おめでとう」
スバル
呆れ声。
ミムジィ
「流石に、これだけ付き合っていると、ちょっとわかってきたよ」
ミムジィ
「まあ、この二人が組んでるだけのことはある」
ミムジィ
「これはこれで、そういう、関係というか……」
ミムジィ
フィクスが話の展開をようやく変えたあたりで、同時につぐみはキューに語りかけている。
ミムジィ
二つのモニターで映される、ペアの関係性。
ミムジィ
――そう。あなたに出来るのは、飛ぶことだけ。
ミムジィ
――だから貴女だけは私が守ると決めた。
ミムジィ
「私は救世主でしかないから」
ミムジィ
「殺すだけだね、相手を」
スバル
「…………」
スバル
ミムジィを見る。
スバル
「……まあ、」
スバル
「好きなことしろよ」
スバル
「勝ったらこの国ともおさらばだろ」
ミムジィ
「といってもなあ」
ミムジィ
「あんまり覚えてないからなぁ」
スバル
「少なくとも、救世主の責務なんてもんはないだろうよ」
ミムジィ
「スバルは翼がない自分が想像できる?」
スバル
「ん……」
スバル
微妙な間。
ミムジィ
「まあ、そういうもんだよ」
ミムジィ
「わからない」
ミムジィ
「あ、でもまあ、大丈夫大丈夫」
ミムジィ
「別にそんな悲観してないよ」
スバル
「そう?」
ミムジィ
「うん」
スバル
「ま……『それだけ』とか、『それしかできない』ってのは、本当はあんまりないと思う、おれは」
スバル
「良くも悪くも」
スバル
むしろ悪い方に。と思っているが、そうは言わない。
ミムジィ
「スバルは器用だからね」
ミムジィ
スバル
「……器用……」
スバル
「いやまあ、普通のやつよりはそうかもな」
ミムジィ
「そうでしょ」
ミムジィ
画面の向こうでは、刃を交わすフィクスとイカロス。
ミムジィ
「面白いね」
スバル
「さっきの今でよくやる」
ミムジィ
「こういう関係も、ある種の信頼かな」
ミムジィ
いや……それにしてもあの数時間は……数時間だけれども。
ミムジィ
あれは……あれだけれども。
スバル
「信頼なんて言ってやったら、鼻で笑いそうだけどな」
ミムジィ
「あはは。そうだね」
ミムジィ
しかし少なくとも、自分では成り立たない関係だろう。
ミムジィ
寝首をかく素振りでもされれば、剣を振り抜かずにはいられない。
ミムジィ
ミムジィ
裁判開廷前の入場。つぐみとキューが現れる。
スバル
お茶会の前に比べれば、ごくごく『普通』の入場に見える。
スバル
つぐみがマッチを擦るまでは。
ミムジィ
「へー、あんなのはじめてみた」
スバル
「お茶会の前とは違う意味で派手だな……」
ミムジィ
「夢ね~」
ミムジィ
「スバルは夢みる方?」
スバル
「そんなに……」
ミムジィ
「あんまり夢の話、しっくりこないね」
ミムジィ
「眠り鼠はずーっと寝てるもんねえ」
スバル
「生きてる場所を世界だって呼ぶなら、まあ、眠り鼠は半分夢に生きてるからな」
スバル
半分以上かもしれないが。
ミムジィ
ついで、イカロスとフィクス。
ミムジィ
「もりあげていくなあ」
スバル
「胸焼けしそう」
ミムジィ
「勝ち進んだら戦うかもしれないんだよ、あれと」
スバル
「お前、あのノリについていける?」
ミムジィ
「いけるいける」
スバル
「マジか……」
ミムジィ
「救世主はときに奮い立たせるようなことを言わないといけないときがあるんだよ」
スバル
「さよか……」
ミムジィ
「村を捨ててでも避難しないといけないのを説明するときとかさ……」
スバル
「うーん……」
スバル
あれはどっちかっていうと派手好きなだけでは?と思ったが言っても仕方がない。
ミムジィ
「まああれとちょっとテンション違うけど」
スバル
ミムジィが言った。
ミムジィ
あれは……あれだよ。
ミムジィ
「続くイカロスもノリノリだ」
スバル
108号室のテンションに関しては流す気になったらしい。
スバル
「どっちが勝つかねえ」
ミムジィ
「キューちゃんが戦い慣れしてないのがねぇ」
スバル
「だなあ……」
ミムジィ
裁判開廷。
ミムジィ
「割とつぐみ、動くもんだね」
ミムジィ
「もっと不思議な感じの力で戦うと思ってたけど」
スバル
「確かに」
スバル
「近づいて切った張ったするようには見えなかったよな」
ミムジィ
「フィクスは上手く受け流してるね」
ミムジィ
道化を演じるフィクスに、ふふ、と笑う。
スバル
「つぐみのほうも、あれを真に受けないのは正しい」
ミムジィ
「しっかりしてるよね」
スバル
「効くやつには効くからな、ああいう……茶化すようなの」
ミムジィ
「いるいる」
ミムジィ
「あっ、なんか薬を……取り落したね」
ミムジィ
「心の疵の力かな」
ミムジィ
お茶会でもイカロスに膝をつかせて椅子にしていた。
スバル
「たぶんな。一応、曲がりなりにも一発入ったし」
ミムジィ
「イカロスは……ここは機を伺うんだ」
ミムジィ
「案外に慎重だね。いこうと思えばいけたよね、あれ」
スバル
「どうだろな……」
スバル
「広くても結局は室内だからな。空間が把握できないと、狭い場所飛ぶのって案外難しいから」
ミムジィ
「なるほどねえ」
ミムジィ
「つぐみは飛んでる相手に手を出せないか」
スバル
「まずは相手が狙ってこないと、手を出すのは難しいんじゃねえの」
ミムジィ
「不利を強いられてるね」
ミムジィ
「……あの薬どこから出てるの?」
スバル
「さあ……?」
ミムジィ
「手品かな……」
ミムジィ
「あっ、イカロスがいくよ!」
スバル
「速い」
スバル
「ありゃすごいな。生身の翼とできが違う」
ミムジィ
「今のは綺麗に入ったね」
ミムジィ
「あれは見てからじゃ追いつかないよ」
スバル
「つぐみのほうは、接近戦特化ってわけでもないしな……」
ミムジィ
「ん、あれは回復じゃないよね?」
スバル
「……たぶん違うな。マッチ擦ってるし」
スバル
「夢の世界がどうとか言ってただろ、最初のマッチ使ったとき」
ミムジィ
「なるほどね」
ミムジィ
「心の疵の力による戦いだから、わりと見てくれも大事なんだよね」
スバル
「気にしそうだしな、本人も」
スバル
一番。一番というからには、泥に塗れるのはお気に召さないだろう。
ミムジィ
キューへの、ある種の見栄が実際に力になるのを感じる。
ミムジィ
「とはいえ、機を見るしかできないね。厳しいなあ……」
スバル
夢の世界も、徐々に蒼に切り裂かれていく。
ミムジィ
「イカロスさんみたいなああいうスポーツの選手ってさあ」
ミムジィ
「あれもまた夢を見せるような職業なんだよね」
スバル
「なるほど?」
ミムジィ
「だからパフォーマンスでしゃべるのも、こんな風に夢の世界に慣れた感じなのも、ちょっとわかるな」
スバル
ふうん、と画面の中のイカロスを見る。
スバル
二撃、三撃。
ミムジィ
「また一撃入ったね」
スバル
「厳しいな」
スバル
見ているキューは、つぐみの傍らでスプーンを取り落している。
ミムジィ
「今声二人聞こえた?」
スバル
「……反響じゃなくて?」
ミムジィ
「かも」
ミムジィ
「あー」
ミムジィ
「立ち上がっても防戦一方だな……」
スバル
「よく立ってるよ」
ミムジィ
「意地だけで立ってるって感じだね……」
スバル
「あの眠り鼠がもうちょっと好戦的だったらな」
スバル
「まだましだったかもしれねえが」
ミムジィ
「厳しいね」
ミムジィ
しみじみとお茶を飲む。
スバル
「出血もかなりやばいな」
ミムジィ
「ほんと、よく立ってるよ」
スバル
「あれと当たりたくねえな……」
スバル
さまざまな意味で。
ミムジィ
「あれなら私は当てる自信あるよ」
ミムジィ
「避けるのは厳しいけど……」
スバル
「お前はな……」
ミムジィ
「まずはヤリイカで……」
ミムジィ
なぜかこの世界のヤリイカは……食料ではなく兵器利用が一般的なのだ。
ミムジィ
ミムジィはわりとよくヤリイカを投げる。
スバル
「お前好きだよな、イカ」
ミムジィ
「やっぱり使い慣れてるからね」
ミムジィ
「あっ、つぐみが動く」
スバル
紅の尾を引いて壁を跳ねる。
スバル
「……いや、だめか」
スバル
イカロスを狙ったそこに割り込まれる。
ミムジィ
「厳しいね」
ミムジィ
「フィクスの方も相当動けるのがね」
スバル
実質、戦っているのは3人だ。
スバル
「慣れてるよなあ」
ミムジィ
「慣れてる」
ミムジィ
「また跳ぶ……」
ミムジィ
「今度は捉えた」
ミムジィ
「合わせてきたね」
スバル
「多少効いたかね……」
スバル
着地するイカロス。スバルに、機械の損傷のことはよくわからない。
ミムジィ
イカロスをフィクスがどつく。
ミムジィ
「……あれ治ったの?」
スバル
「あれで?」
スバル
とはいえ再度飛び立ちはしている。
ミムジィ
「問題ない! だって」
スバル
「……雑だな……」
ミムジィ
「結構細かいこと気にしない人なのかも」
スバル
「そういう問題か?」
ミムジィ
「並大抵の図太さですよあれは」
ミムジィ
適当を言っている。
ミムジィ
「つぐみの攻撃は……凌がれちゃった」
ミムジィ
「もう辺り血でびしょびしょだよ」
スバル
「よく死なねえな」
スバル
救世主でなければ、軽く十回以上死んでいるだろう。
ミムジィ
たたみかけるような連続攻撃。
ミムジィ
「これは流石に……」
ミムジィ
そう思ったところで、周囲を赤く濡らしていた血が剥がれ落ち、108号室の二人に降りかかろうとする。
ミムジィ
が、それも及ばない。
ミムジィ
「……逆転ならず、かぁ」
スバル
「……終わったか」
ミムジィ
つぐみにすがりつくキューの姿。
ミムジィ
キューがナイフをとり、構える。
ミムジィ
「あー……」
スバル
「……無理だな」
スバル
「あいつには無理だ」
スバル
気持ちではどうにもならない。
ミムジィ
「……」
ミムジィ
「本人が一番それをわかってるはず」
スバル
だから震えている。
ミムジィ
フィクスの話を聞いている。
ミムジィ
「諦めないでここは引け、かぁ」
スバル
綺麗事だ。
ミムジィ
「いいね」
スバル
「…………」
スバル
ここで負ければコインを失う。
そもそも、力を分け与える救世主がいなければコインを持っていようが関係なく末裔は儚い。
ミムジィ
無論、その現実の厳しさをいくらでも知っている。
ミムジィ
それでも綺麗事に生かされるものがあることを知っている。
ミムジィ
「石になった人間程度はどうとでもなる、かぁ」
ミムジィ
「うーーん」
ミムジィ
「んんー」
ミムジィ
「多分このホテルを止めるには石像を壊すのがいいと思うんだけれどさ」
ミムジィ
「フィクスさんが言うのも一理あるな、とも思うと、難しいね」
スバル
いつか、あなたが世界を救いなさい。
スバル
黙って目を細める。
スバル
変わりやしない。世界なんて。
ミムジィ
「はあ~いいこと言うね!」
ミムジィ
うんうん、とうなずく。
スバル
ちら、とだけミムジィを見て、画面に目を戻す。
スバル
108号室の勝利が告げられる。
ミムジィ
「生かす、かぁ」
ミムジィ
「まあ、ああ言ったならね」
ミムジィ
「スバルならどうしてた?」
スバル
「……さあ」
スバル
「殺してやったほうが親切だとは思うが」
スバル
「お前が決めることだろ、基本的には」
ミムジィ
「私がジャック引くかもじゃん」
スバル
「別にそれでも決めていいぞ」
スバル
「気にするのはおれじゃなくてホテル側だ。エースが追認すれば問題ないだろ」
ミムジィ
「そうだけどさ」
スバル
「お前が迷うなら、おれは殺すけど」
ミムジィ
「だよね」
ミムジィ
「よく私なんかと一緒にいるねえ」
ミムジィ
「って思うよ」
スバル
「まあな」
スバル
「おれもそう思う」
ミムジィ
「あはは」
ミムジィ
「なにそれ」
ミムジィ
西に行っては子猫を探し、東に行っては畑の手伝い。
ミムジィ
南に行っては荷馬車の護衛に、北に行っては亡者狩り。
ミムジィ
そんなことばかりをしているというのに。
ミムジィ
「あの串刺姫もここまで、かぁ」
ミムジィ
石化していく姿を見る。
スバル
キューによって結われていく髪。最後の時間。
ミムジィ
「わかんなくなるね」
スバル
「何が」
ミムジィ
「喜んでいいんだか」
ミムジィ
彼女がたくさんの人を無為に殺したのは事実。
ミムジィ
一方で、二人の光景はなにかの真実にも見える。
スバル
「……特別なものにだけ、特別扱いってのは」
スバル
「よくあることだ」
ミムジィ
「それでも、だよ」
ミムジィ
「まあ、やっぱり……」
ミムジィ
「外で会ったら、挑んでたろうけどね」
ミムジィ
コインが足りていたならば、きっと向かっていったであろう相手だ。
ミムジィ
完全に石となり、更に下る。
ミムジィ
行き先を決める最後のゲーム。
スバル
赤いトランプ。
スバル
引かれる2枚。
ミムジィ
それが示すは荒野の扉。
ミムジィ
「これ以上ヒットするのはギャンブルになるね」
スバル
「8以上でバースト」
ミムジィ
「荒野を行くのだってギャンブル」
ミムジィ
「どっちが分のいい賭けだと思う?」
スバル
「言葉の通り、やる気があるなら」
スバル
「分の良し悪しに関係なく、荒野だな」
ミムジィ
「うん」
ミムジィ
スタンド。
ミムジィ
眠り鼠の末裔は荒野を選ぶ。
ミムジィ
「スバルさぁ」
ミムジィ
「勝って力を得たら、手伝ってあげなよ」
スバル
「はあ?」
ミムジィ
「え、ダメ?」
スバル
「ダメっていうかよ……」
スバル
なんで、と言いかけてやめた。返ってくる答えはだいたい想像がつく。
ミムジィ
「じゃあいいじゃん」
スバル
「お前ってほんと……」 特大の溜息。
ミムジィ
「荒野に迷う末裔、これからも出るだろうから」
ミムジィ
「そうしてあげるのがいいんじゃないかな」
スバル
疲れたように目を閉じる。