レフト
足下に散らばる枯れた髪がカサカサと音を立てる。
案内人
階下でのそれと、まったく同じようにそう言う。
レフト
その姿が現れると、いくらか纏った空気が緩む。
レフト
「……あなたが出てきたということは、本当に倒れたようだ」
案内人
「おひいさまも、これでようやく生を終えられます」
案内人
「わたくしの役どころは、魔女とも、母とも」
案内人
「おひいさまをおひいさま足らしめ、そしてやがては『おひいさま』を終わらせるもの」
案内人
「それがなにゆえ、どうして、そうなのか……そうなったのか」
カーシェス
「あんたが救世主なら、放ってはおけない」
カーシェス
「いつからこんなこと続けてたかわからないが」
カーシェス
「『しあわせの資格』ってのがあてにならない以上、俺は『唯一』にならなくちゃいけないからな」
案内人
そのはらの中から、霧散しようとする何かを集めて、かたちにする。
案内人
「あなたがたには、これを望むままのかたちにする資格があります」
案内人
「それを、わたくしたちは『しあわせ』と呼びますけれども……」
カーシェス
「おひいさまを倒させるための方弁かと思った」
カーシェス
「可能性は高いだろ。だって、そんな奇跡みたいなさぁ」
カーシェス
「それで、結局のところ世界は救えるのか?」
案内人
「あなたの心からのしあわせが、そのかたちをしていれば」
案内人
「おひいさまはお尋ねになりませんでした?」
*
『あなたのこころは』『そのひとを』『縛っているとは思わない?』
レフト
しあわせの資格は己の手からこぼれ落ち、もはや戻ることはないと思っていたから。
レフト
滅びに瀕する大地に住まう末裔たちが救われれば、
レフト
今実際に目の前にそれが突きつけられたとき――
レフト
それらを全て置き去りに、目の前の相手の望むまま、
迷わず自分のしあわせを選ぶことはできなかった。
カーシェス
唯一になるということ、その覚悟はできていた。
カーシェス
それは、自分が忌み嫌っていた親族のやり方と同一だとしても
カーシェス
世界を救うための犠牲を選ぶなんて、大罪だ
カーシェス
亡者になすすべなく殺される末裔たちを。
カーシェス
人を殺せずに死んでいく救世主、生きるために殺される救世主を。
カーシェス
しあわせのかたちは、ひとりひとり違うのだから。
カーシェス
「お前の苦しみも、悲しみも、全部一緒に背負いたい」
レフト
きっとどう訊いても、返る答えはわかっていて。
レフト
「私に縛られているのでは。……盲ているのでは、なく?」
カーシェス
「例えばさ、もしこれがその場の勢いだったとして……俺が責任取らない男に見える?」
カーシェス
「何かを、レフトや他人のせいにする?」
カーシェス
「『おひいさま』に聞かれて、思ったんだ」
カーシェス
「俺は結局、お前に見せたい世界を見せられて、生きたいように生きられればどっちでもよくて」
カーシェス
「それはつまり、どっちでも、結果は一緒ってこと」
カーシェス
ま、違うのは戻ったらこの力もなくなるのと、
もうちょっと家の事にやる気ださないといけないくらいか。
レフト
「あなたが、ご自身の世界を愛しておられたのを知っております」
カーシェス
「ま、流石にそれはこっちではどうにもならないな」
カーシェス
「『俺が見てきたもの』を見たいなら、連れてってもいいけど」
カーシェス
「一緒に旅した世界に『俺が作るもの』も、悪くないかもよ」
レフト
門の前に立っていては考えもしなかったこと。
レフト
荒野のなかにあっては見えもしなかったこと。
レフト
「それこそがしあわせだと信じることができます」
カーシェス
「俺のしあわせは、『救済』した世界で大切な人と生きること。」
カーシェス
青い空、白い雲。
いい風と波が新大陸へと船を運ぶ。
カーシェス
海も大地も、命を育み、人々は『責務(殺人の強要)』にも『亡者(脅威)』にも縛られることなく己の生を謳歌する。
カーシェス
それでも、きっと、この先にあるのは。
俺が愛することができる世界だ。
レフト
「私のしあわせは、カーシェス様に救われること」
レフト
「……私の想像もつかないような景色を、カーシェス様とともに」
案内人
柔らかくあたたかな風になって、ふわりと渦を巻く。
案内人
吹き抜けて、厚い雲をやさしく晴らしていく。
案内人
遠く吹き抜けていった風を、まるで風そのものが見えるかのように見送って。
案内人
「見たことのない、想像もつかないような景色……」
案内人
「これからお二人で、歩いてゆかれるとよいでしょう」
カーシェス
「俺もこの世界がもともとどんなんか知らないしな」
カーシェス
「なんか身体がデカくなるきのことかあるんだっけ」
案内人
「どうあれ、お気になさらずともよいことでしょう」
GM
ゆらりゆらり、ふわりふわり、ゆっくりとゆっくりと落ちるように。
GM
原初の少女が、マーマレードの空瓶を取って、戻して。
レフト
「もっと、なにか、大きな変化があるものかと」
GM
この緑の絨毯も、今は優しい陽の光に照らされて。
GM
けれども、もうきっと、緑があるのはここだけではない。
GM
あなたとあなた、一人と一人。手を取り合った二人。