GM
最上階を埋め尽くしていた髪が、枯れていく。
GM
艶を失い、色を失う。
カーシェス
「レフト、こっちへ」
レフト
警戒を解かぬまま、呼ばれればそちらへと。
カーシェス
「倒した……ように見えるけど」
レフト
足下に散らばる枯れた髪がカサカサと音を立てる。
レフト
「……ええ」
GM
縮れ、散っていく。
案内人
「お疲れさまでございました」
案内人
階下でのそれと、まったく同じようにそう言う。
カーシェス
「あっ」
レフト
その姿が現れると、いくらか纏った空気が緩む。
レフト
「……あなたが出てきたということは、本当に倒れたようだ」
案内人
「左様ですね」
案内人
「おひいさまも、これでようやく生を終えられます」
カーシェス
「…………あんた、あの子の末裔か?」
案内人
「さて、さて」 小さく笑い。
案内人
「わたくしの役どころは、魔女とも、母とも」
案内人
「おひいさまをおひいさま足らしめ、そしてやがては『おひいさま』を終わらせるもの」
案内人
「それがなにゆえ、どうして、そうなのか……そうなったのか」
案内人
「それはもう、お話の外側」
カーシェス
「…………」
案内人
「わたくしもまた盲」
案内人
「多くに目を瞑って、自ら盲たもの」
カーシェス
「自ら、ね」
レフト
じ、と目の隠された顔を見る。
レフト
「あなたは、これからどうする」
カーシェス
錨を担ぎ上げる。
案内人
「ふふ……どうでしょうね」
案内人
「もはやわたくしの役目も終わり」
カーシェス
「あんたが救世主なら、放ってはおけない」
案内人
「あら」
カーシェス
「いつからこんなこと続けてたかわからないが」
カーシェス
「『しあわせの資格』ってのがあてにならない以上、俺は『唯一』にならなくちゃいけないからな」
案内人
「あてにならない」
案内人
くすくすと笑う。
カーシェス
「違うのか?」
案内人
「まあ、そうかもしれませんね」
案内人
笑って、『おひいさま』に数歩、歩み寄り。
カーシェス
「…………」
案内人
そのはらの中から、霧散しようとする何かを集めて、かたちにする。
案内人
「これは、おひいさまの孕んだふたつ」
案内人
「未だ、何に使われるかはわからぬ魔法」
案内人
「あなたがたには、これを望むままのかたちにする資格があります」
案内人
「それを、わたくしたちは『しあわせ』と呼びますけれども……」
レフト
「望むままのかたち……?」
カーシェス
「おひいさまを倒させるための方弁かと思った」
案内人
微笑う。
レフト
「方便だと思っておられたのですか?」
カーシェス
「可能性は高いだろ。だって、そんな奇跡みたいなさぁ」
カーシェス
「それで、結局のところ世界は救えるのか?」
案内人
「あなたの心からのしあわせが、そのかたちをしていれば」
案内人
「たぶんね」
カーシェス
「心からのしあわせ」
案内人
「おひいさまはお尋ねになりませんでした?」
案内人
「あなたのしあわせについて」
カーシェス
「レフト」

『あなたのこころは』『そのひとを』『縛っているとは思わない?』
レフト
問われた。確かに。
カーシェス
「俺の『しあわせ』は、そこにある」
カーシェス
と言いながら、相手の胸を示す。
カーシェス
「お前のしあわせは……望みは。」
カーシェス
「『救済』か?」
レフト
自分の胸を差すその指を見て。
レフト
それから、目線がその顔を見る。
レフト
自分が救済を望んだのはきっと、
レフト
自分の《しあわせ》がわからなかったから。
レフト
しあわせの資格は己の手からこぼれ落ち、もはや戻ることはないと思っていたから。
レフト
「私は――」
レフト
世界が救われれば、
レフト
滅びに瀕する大地に住まう末裔たちが救われれば、
レフト
そのなかのひとりに、なれるような。
レフト
そんな気がしていただけで。
レフト
今実際に目の前にそれが突きつけられたとき――
レフト
蘇るのは、怯えた瞳。
レフト
いやだと、哀願した少女の震えた声。
レフト
血濡れたカード。
レフト
弟の命の潰える刹那。
レフト
それらを全て置き去りに、目の前の相手の望むまま、
迷わず自分のしあわせを選ぶことはできなかった。
レフト
「私が望んでいるのは……」
カーシェス
「レフト」
カーシェス
「俺は、お前を悲しませたくない」
カーシェス
「お前と一緒にいたい」
カーシェス
唯一になるということ、その覚悟はできていた。
カーシェス
この塔を登る以前から。
カーシェス
自分の目的のために命を刈り取ること。
カーシェス
それは、自分が忌み嫌っていた親族のやり方と同一だとしても
カーシェス
世界を救うための犠牲を選ぶなんて、大罪だ
カーシェス
それでも、見てきた。
カーシェス
亡者になすすべなく殺される末裔たちを。
カーシェス
人を殺せずに死んでいく救世主、生きるために殺される救世主を。
カーシェス
みんなを救うなんて傲慢だ。
カーシェス
しあわせのかたちは、ひとりひとり違うのだから。
カーシェス
「お前の苦しみも、悲しみも、全部一緒に背負いたい」
カーシェス
「お前が何を選んでも」
カーシェス
「そばにいるよ」
レフト
きっとどう訊いても、返る答えはわかっていて。
レフト
それでもどうしようもなく。
レフト
「私に縛られているのでは。……盲ているのでは、なく?」
レフト
訊かずにいられない。
レフト
確かめずには。
カーシェス
「…………」
カーシェス
「だめ?」
レフト
「あまり良いことのようには思えません」
カーシェス
「例えばさ、もしこれがその場の勢いだったとして……俺が責任取らない男に見える?」
レフト
「いいえ」
レフト
「……見えないから、困っております」
カーシェス
「何かを、レフトや他人のせいにする?」
レフト
首を振る。
カーシェス
「『おひいさま』に聞かれて、思ったんだ」
カーシェス
「俺は結局、お前に見せたい世界を見せられて、生きたいように生きられればどっちでもよくて」
カーシェス
「それはつまり、どっちでも、結果は一緒ってこと」
カーシェス
ま、違うのは戻ったらこの力もなくなるのと、
もうちょっと家の事にやる気ださないといけないくらいか。
レフト
「あなたが、ご自身の世界を愛しておられたのを知っております」
レフト
「ご家族を、海を」
レフト
「景色を」
レフト
「……」
カーシェス
「ま、流石にそれはこっちではどうにもならないな」
カーシェス
「お前がさ」
カーシェス
「『俺が見てきたもの』を見たいなら、連れてってもいいけど」
カーシェス
「一緒に旅した世界に『俺が作るもの』も、悪くないかもよ」
レフト
「……あなたはいつもそうやって。」
レフト
「私の視界を広げてしまう」
レフト
門の前に立っていては考えもしなかったこと。
レフト
荒野のなかにあっては見えもしなかったこと。
レフト
あなたの隣でだけ、見えるもの。
レフト
「私は――あなたの救った世界が見たい」
レフト
「あなたがそれを与えてくださるのなら」
レフト
「それこそがしあわせだと信じることができます」
レフト
「あなたに、救われたい」
レフト
「世界とともに」
カーシェス
「…………」
カーシェス
『しあわせ』に手を伸ばす。
カーシェス
「俺のしあわせは、『救済』した世界で大切な人と生きること。」
カーシェス
青い空、白い雲。
いい風と波が新大陸へと船を運ぶ。
カーシェス
海も大地も、命を育み、人々は『責務(殺人の強要)』にも『亡者(脅威)』にも縛られることなく己の生を謳歌する。
カーシェス
問題が一つもない世界なんてない。
カーシェス
それでも、きっと、この先にあるのは。
俺が愛することができる世界だ。
案内人
カーシェスの言葉に微笑んで。
案内人
「あなたはどうです?」
案内人
レフトにも尋ねる。
レフト
「私のしあわせは、カーシェス様に救われること」
レフト
「……私の想像もつかないような景色を、カーシェス様とともに」
レフト
「見ること……」
案内人
「ふふ」
案内人
「仲がよろしくて」
カーシェス
「まあね」
案内人
「ご馳走様です」
案内人
そうして、漂うふたつの『魔法』に向けて。
案内人
「おひいさま、おひいさま」
案内人
「お客さまは、斯くお望みですよ」
案内人
優しげな声に、魔法は輝き。
案内人
柔らかくあたたかな風になって、ふわりと渦を巻く。
案内人
そうして、この雲の上の塔の、その窓から。
案内人
吹き抜けて、厚い雲をやさしく晴らしていく。
GM
今はまだ、あなたがたには見えない。
GM
窓の外。遙けき下界。
GM
そこに何がもたらされたのか。
GM
そこから、何が取り払われたのか。
GM
世界が、どのような救いを得たのか――
GM
まだ。
案内人
「……ふふ」
案内人
遠く吹き抜けていった風を、まるで風そのものが見えるかのように見送って。
案内人
「見たことのない、想像もつかないような景色……」
案内人
「これからお二人で、歩いてゆかれるとよいでしょう」
カーシェス
「俺もこの世界がもともとどんなんか知らないしな」
カーシェス
「なんか身体がデカくなるきのことかあるんだっけ」
レフト
「身体が小さくなるきのこもございます」
カーシェス
「面白そ」
レフト
「……それは黄金の昼下がり」
レフト
「気ままに漂う我ら……」
レフト
「子供じみたおとぎ話の世界です」
カーシェス
「いいね」
カーシェス
「冒険しがいもありそうだ」
レフト
「……」
レフト
「どこまでも、お供させていただきます」
カーシェス
手を差し出して。
カーシェス
「じゃ、とりあえず降りるか」
レフト
「はい」
案内人
「では、最後のご案内を」
カーシェス
「あんたは此処に?」
案内人
「さて……」
案内人
「どう思われます?」
案内人
くすくすと。
案内人
「どうあれ、お気になさらずともよいことでしょう」
カーシェス
「賭けてよかったろ」
案内人
「ふふ」
案内人
最後まで微笑みを絶やさないまま。
案内人
「では、おふたりとも」
案内人
「お疲れさまでございました」
案内人
最後にもう一度、そう言って。
案内人
「お帰りはこちら」
案内人
ゆらり、手を上げる。
GM
視界はふうわりと、淡い色に覆われて。
GM
ゆらりゆらり、ふわりふわり、ゆっくりとゆっくりと落ちるように。
GM
原初の少女が、マーマレードの空瓶を取って、戻して。
GM
そんな速度で。
レフト
「……存外に……あっけないものですね」
レフト
ふわふわ。落ちる。
レフト
手をつないで。
カーシェス
「そうか?」
レフト
「なんだか」
レフト
「もっと、なにか、大きな変化があるものかと」
カーシェス
「はは」
カーシェス
「物語の始まりなんて、静かなものさ」
カーシェス
ぎゅ、と。手に力を込めて。
カーシェス
はじまっていく。ゆっくりと。
レフト
「……たのしみです」
レフト
まだだれもしらない物語が。
GM
やがて、足元がやんわりと地について。
GM
視界には、見渡す限りのラプンツェルの畑。
GM
もはやどこにも塔はない。
GM
この緑の絨毯も、今は優しい陽の光に照らされて。
GM
けれども、もうきっと、緑があるのはここだけではない。
GM
この空の下。
GM
緑は萌え、花が開いて、水は澄む。
GM
きっとどこかでは、海も輝きだしている。
GM
――歌声が呼ぶひとは誰?
GM
あなたとあなた、一人と一人。手を取り合った二人。
GM
光を得たのは誰?
GM
この世界の空の下に、数多の人が。
GM
目の前に立つのは誰?
GM
あなたの隣に、愛しい人が。
GM
自由になったのは誰?
GM
今は、二人。この塔から。
GM
潮風を目指して歩いていく。
GM
Dead or AliCe 『盲の塔』
GM
――おしまい。