GM
*エピローグ 帰蝶 かなめ
帰蝶かなめ
……ほんとうは。
帰蝶かなめ
わたしは別に人の心が無い訳でも、計算が出来ぬほどに愚かな訳でもない。もちろん、自己犠牲がすこぶる好きで、他者のために死にたくてたまらないと考えている訳でもない。
だからわたしはあの時、全てを天秤にかけて考えた。
帰蝶かなめ
おそらく『わたし』は、外に出ても平然と生きられる。特にアマナさんが……山慈姑 天菜が確実に死ぬのなら顔の無い鴉天狗として、廻鴉としては問題無くやっていけるだろうということくらい、簡単に思い到った。
帰蝶かなめ
けれど。
帰蝶かなめ
ーーー同時に、それでは『帰蝶かなめが死んでしまう』とも、思った。
帰蝶かなめ
この村の皆に愛された『帰蝶かなめ』は、私欲で他人を傷つけたりしない。そんなことをしたら、この村から逃げてほしいと皆に願われた『帰蝶かなめ』はいなかったのだということになってしまう。
胡蝶が、消えてしまう。
帰蝶かなめ
では、儀式をせずにやりすごすのか?
……いいや、そんなことは出来ない。
帰蝶かなめ
・秘密:
あなたは身寄りのない天涯孤独の身である。だが寂しいことはない。村の人々が家族同然に育ててくれたからだ。
村から出たことはなくても、それだけで満足だった。あなたは村の人々に対して「愛情」の【感情】を抱いている。
村の文献によると、『天ヶ原奉納演武』が失敗すれば村の人々が亡者になってしまうらしい。そうさせるわけにはいかない。
帰蝶かなめ
それをしなければ皆が死んでしまうと分かっていて、あえてしないという選択肢は『帰蝶かなめ』には無いだろう。必ず、皆のために動く。
帰蝶かなめ
だから愛されてきた。だからこそ、逃げてほしいと願われたのだ。
帰蝶かなめ
そこまで考えてやっと、「ああ、では無理だ」と悟った。
帰蝶かなめ
わたしは『帰蝶かなめ』のまま、この村から出る事は出来ない。
私欲のために人を殺せず、多くを見殺しに自らの生を願わない、皆に愛された『帰蝶かなめ』のままでは、わたしは決して外に出られない。
帰蝶かなめ
この村の中で、せめて当初の予定通りに、皆のために死ぬ以外に取れる選択肢はなかった。別に死ぬのはいい。どうせ元は孤児だ。生まれた時から変わらず持っているものなど何もない、極めて身軽な身の上だ。皆の記憶からも消え失せてしまうのならば、わたしが生きた証はきっとどこにも遺らないのだろう。
そう思ったら、少し、虚しい気もするけれど。
帰蝶かなめ
その美しくも歪な儚さを、つくりものの冷たい優しさを、一思いに捨てる勇気が無かったのはわたしの弱さで。
帰蝶かなめ
……全ては、わたしのエゴだから。
帰蝶かなめ
だから、この結末は、これでいい。
帰蝶かなめ
わたしは『帰蝶かなめ』として綺麗に詐ったまま、胡蝶の夢と消えるのだ。
GM
胡蝶の夢は、初雪の儚さをもって、
GM
淡く儚く、美しく、消えていった。
GM
誰も、それを記憶に残すことなく。
GM
GM
*エピローグ 祓、氷室 霞

結局、何がなんだかわからないまま。

傷だらけで、その場に3人のシノビがいて。

ただ、『天ヶ原奉納演武』により『降魔結界の儀』というものが完成し

山慈古 天菜は不死の体となったらしいということが

その場に、事実として横たわっていた。

ふざけんなよ。

と、誰に言えばいいかもわからず。

なにか、そう、確か

そこの男に、始末書を書くのを手伝わせると

約束したことは覚えていて

公民館の机に、向かっているのである。

「……それで」

「『降魔結界の儀』の効果とやらは、除外できないのか?」

「山慈古 天菜個人に対して」
氷室 霞
「ええ。儀式は成りました。不老不死の契約は更新され……彼女も不老不死となったのでしょう」
氷室 霞
「もしお望みであれば、次の更新の時期に妨害すれば契約は破棄されるかと思いますが……当然比良坂からの妨害は入りますし、何年後かなど私のような下っ端にはわかりません」

「はぁ……」

「いや、面倒だ」

「なおらんって書いておいてくれ」

「というか……必要なんだろう、比良坂的には」
氷室 霞
「はい」書き書き……『不老不死は治りません』と……
氷室 霞
「そうだと…思います。正直、『降魔結界の儀』の詳細は知らされていないので…」

「あんたも大変だな」

「この村に来て長いのか?」
氷室 霞
「そこまで長くはないかと。6年くらいでしょうか」

「長っ」

「よく耐えられるな……こんな、なにもないところで」
氷室 霞
「そうでしょうか…。私は元より何かに強く興味を示したり、感情の起伏が大きくはありませんから。そういう意味では、波長が合っているのかもしれません。この村と」

「へぇ……」

「……あっ、そこ。何か……霧に死体が触れた途端、息を吹き返したって、書いておいてくれ」

「私は殺したアピール」
氷室 霞
「わかりました」 
🖊…一度とどめを刺したが、村付近の霧に触れた際息を吹き返した……と

「あんた、字も上手いな……」

「…………この村に」

「残るのか?」
氷室 霞
「どうでしょうか。この報告書次第では任が解かれるかもしれませんし、このまま状況を定期報告せよと命が下るかもしれません。ここにとどまっているのも忍務のうちでしたから、以降のことも上次第かと」
氷室 霞
「彼女のことはどうするおつもりですか?」アマナさん

「さて、それこそ私の知ったところではないな」

「私の仕事は抜け忍の処理だ」

「殺せないものを、どうこうするのは別の奴に……」

「丸投げしたい」

「いいか?それはそのための始末書だ」

「助かる」
氷室 霞
「…丸投げされた方が頭を抱えるような始末書になりそうですね……」

「しーらない」
氷室 霞
「ふふ、そうですか」
氷室 霞
「まぁ私も……彼女の今後にはさほど興味はありませんが…」
氷室 霞
「何か、彼女に言わなければいけないことがあった、ような気も……」
氷室 霞
「…いや、気のせいです、ね」

「…………」

「必要なことなら」

「思い出せずとも」

「思いつくさ」

「そのうちな」
氷室 霞
「ふふ、そうですね」

「…………」

「ちょっとだけ、愚痴っていいか」
氷室 霞
「ええ、構いませんよ。聞き役には慣れていますから」

「才能がないんだよ」

「私は」

「得意なことは死なないことくらいで」

「……何かを守るどころか、部下を死なせんことすらできない」

「向いてないんだ、この仕事」
氷室 霞
「そうかもしれませんね。戦いと死が付きもののシノビの世界で、部下を亡くすことを悔いる心根を持っていると……ええ、シンプルに大変だろうな、と思います」
氷室 霞
「配送業、向いてそうでしたよ」訳:転職したら?

「そう?」

「はは……」

「その方が、楽かもしれないな」

「…………はぁ」

「ちょっと、転部……相談してみるか」

補給班とかに
氷室 霞
「……まぁ、正直あなたの特技を上が活かすつもりなら、前線からは外さないとは思いますが…物は試し、と言いますしね」

「あ~~~」

「そりゃ、そうだよな」

「黙って死んどきゃいいのに」

「なんっか生き返っちまうんだよな」

「……はは」

「ま、仕方ない」

「生きてりゃラーメンも食える」
氷室 霞
「そうですね。……さて、報告書はこんな感じでしょうか」

「助かる~」
氷室 霞
「中々に抜けの多い報告書になってしまいましたが……。まぁ、こう書くしかないのですからこれで通していただきましょう」

「文句言われたら、比良坂の上と話つけろって言っとくわ」

自分では何も書いていないのに、ぐっと伸びをして
氷室 霞
「よろしくお願いします」

「じゃ、行くか」
氷室 霞
「ええ。一度村から離れることを伝えてきますので、少しお待ちください」
氷室 霞
公民館の外へ出て、近くにいた村人にその旨を伝えに行く。

「じゃ、最初に会ったとこで待っておく」

先にそこから離れる。
氷室 霞
「わかりました」
氷室 霞
村を歩く。適当に出会った村人に声をかければ、普段と変わらぬ様子でにこやかに挨拶を交わし、手を振り別れる。
氷室 霞
……ふと、少しだけ残った紅葉が風に煽られヒラヒラと目の前を通り過ぎる。
氷室 霞
それが、舞い踊る蝶のように見えて。
氷室 霞
「……不思議ですね。特段、このような光景を綺麗だなどと、思ったことはないのに」
氷室 霞
何故か、そう思えてしまったのだ。/
GM
冬の透明な風に、幻の蝶は攫われ消えて。
GM
あなたがたは、穏やかに去っていく。
GM
GM
*エピローグ 山慈姑 天菜
山慈古 天菜
「では、そろそろ出ます。……お世話になりました」
山慈古 天菜
深々と頭を下げる。
GM
秦野の夫妻は、眦を下げてゆったりと笑う。
GM
なんにもないところだけど、気が向いたらいつでも遊びにいらっしゃいね。
GM
怪我も良くなって、よかったわあ。元気でねえ。
山慈古 天菜
道中にと持たされた風呂敷の包みを抱いて、頷く。
山慈古 天菜
この村に逃げ込み、追手を巻き込んで何らかがあったことだけは確かだった。
山慈古 天菜
しかしその肝心の”何らか”はあの時覆った霧に包まれたまま、晴れない。
山慈古 天菜
あの比良坂は訳知り顔だったが、それも何処まで確かだか。
ただ、どうやら自分は本当の意味で不死身となって、あの追手もどうやら一度手を引いたようだ。
山慈古 天菜
けれども、いつまでもここにいるのも躊躇われた。
またいつこの村を巻き込むとも限らない。長居をする理由もない。
山慈古 天菜
秦野家を出て歩き出す。時折、老人たちと行き交う。
頭を下げて、時には軽く手を振って別れる。
山慈古 天菜
――斜歯を抜け出したことに、大した理由はない。
山慈古 天菜
実験室に自分の生まれの記録はなかったから、おおよそ赤子の頃に何処かから連れて来られたことくらいはわかっていたが、それ以上のことに特に意味があるとも思っていなかった。
山慈古 天菜
だが、この身体には古のシノビたちの手によって人工的に作られた妖魔の血を薄く流れていて、その血には一定の価値があった。
その価値の証明に協力する限り、シノビとして存在の保証はされていた。
山慈古 天菜
毎日毎日実験と、観察と、それに伴う記録と。
運ばれてくる被験体を捌きながら、もちろん自身も被験体として。
山慈古 天菜
ただ、そうして保証されていた存在に、疑問を抱いてしまっただけのこと。
否、疑問というにもお粗末だ。ただ、なんとなく――
山慈古 天菜
粗方数値化された自身のデータを見たとき、不意に。
山慈古 天菜
”籠の扉が開いている”ことに気が付いてしまった。
山慈古 天菜
だから、出てみた。それだけ。
山慈古 天菜
何を壊そうと、誰を殺そうとさしたることではなかった。
薄い興味の赴くまま、空っぽの身体はただ一所を目指した。
山慈古 天菜
夏の終わり。
台風が過ぎたばかりの海は広く、暗く荒れていて、静かにうねっていた。
山慈古 天菜
硫化ジメチルやトリメチルアミンに刺激されて、目に沁みた。
山慈古 天菜
流れる血に祖先の記憶が宿るなどと信じるわけでもなかったが。
そうか、これが、郷愁か、と。唐突に思ったことを覚えている。
山慈古 天菜
重く実った稲穂の海を越えて、村を出る。
山慈古 天菜
あてどなく歩き出す。
追われているなら逃げればよいだけだったが、
果てを失ってしまっては、亡者のように彷徨うばかりだ。
山慈古 天菜
山の中腹あたりで、一度岩に腰を下ろして。
紅く染まる景色をぼんやりと眺める。
山慈古 天菜
風は冷たく、すでに雪を交えていて。
山慈古 天菜
その中で、渡された風呂敷包みがほのかに温かった。
山慈古 天菜
訝し気に中身を取り出す。
さらに布に包まれたそれを開けてみれば、蒸された芋だ。
山慈古 天菜
しばしそれを見つめる。
なにか、猛烈に、満たされない気持ちが込み上げて。
山慈古 天菜
湯気を上げるそれにかじりつく。
山慈古 天菜
頬が冷たい。
またひとりで歩いていかなければならない。
山慈古 天菜
「……」
山慈古 天菜
「おいし」
山慈古 天菜
けれどもたぶん、歩いて行ける。
山慈古 天菜
ひとり、芋を食べつくして、立ち上がって、それから。
コートについた砂を払って、散りゆく紅葉と雪の中。
山慈古 天菜
一度だけ村の方角へと目をやって、歩き出す。/
GM
また、一人。どこへともなく。
GM
何かを見つけるそのときまで。何かを見出すそのときまで。
GM
GM
GM
GM
秋は過ぎ去り、冬が来て。
GM
人はやがてその後に、春が訪うのを待つ。
GM
想いも願いも、今は雪の底に眠りにつく。
GM
そしてそれは、もしかして。
GM
いつか、何か、別のものとして芽吹くかもしれない。
GM
遠い、遠い、
GM
いつかの春に。
GM
シノビガミ『秋空に雪舞えば』
GM
――閉幕。